プラネットレギオン 第6話 魔法

 ホシモリがキリンゾウガメ(仮)の肉を切り分けていき、イクシオーネが体内に毒などが蓄積していないかを調べる。

 火球を吐ける原因であろう可燃物を貯める臓器や喉の辺りに火打ち石のような火花が飛びやすい突起物などを発見するが、先ほどの戦闘データと照らし合わせたイクシオーネがホシモリに相談する。

「相棒。少しいいですか?この生物が持つ可燃性物質とこの火打ち石のような器官では先ほどの様な火球を放つ事は不可能です。どう思いますか?」

 その質問に血まみれになりながら手を止めずにホシモリは考え答える。

「今のとこは他に燃えやすい物を生成する器官は無いから……見方を変えるか。周りから燃えやすい気体だけを取り込んだとかはないよな?火球を放つ前に少しタメがあったが……」

「少し待ってくださいもう一度解析します………………いいえ。その様な形跡はありませんでした」

「となると…………まさかとは思うがサイキック反応はどうだ?動物が使えるとは思わんが、可能性としてはあり得るだろ」

「分かりました。調べてみます……………………流石です相棒です。サイキッカー達が使うサイコキネシスにとてもよく似て似ます。ですが新人類の使う物とは似てはいますが違う様です。このデータを見てください」

 血まみれのホシモリをコックピットに乗せても良かったが絶対に拒否する事が分かっていたので手の平にあるレンズからデータを3Dホログラフとして表示させる。

 そしてサイコキネシスを使える他の星に住む者達のデータも参考資料として表示させた。

 そのデータを眺め考え少し考える。

「確かに似てはいるな……」

「はい。全く別物と言う訳ではありませんが空中に漂う未知の物質を媒介にしている様です」

「考えるのを止める訳じゃ無いが分からんな……亀が吐いた火球の脅威度はどんなもんだ?」

「一般兵士であれば確実に敗北しますがプラネットなら問題無く倒せます」

「そこまで脅威って訳でも無いが……身体的な能力に加えサイキック反応に近い攻撃か……絶対に火だけじゃないな。氷とか念導系の攻撃とかしてくる奴もいそうだな」

「はい。多いにあり得ます」

「キリンゾウガメ(仮)の火球の様な未知の物質を使った攻撃を魔法と呼ぶ様にしよう。そしてデータ内の脅威度を一ランクほど上げてデータを取ってくれ」

「了解しました。それにしてもどうして魔法ですか?」

「ん?サイキッカーの友人が地球の漫画とか言う本を読んでサイコキネシスと魔法はとてもよく似ているって戦場で言ってたのを思いだしてな。たしか相棒に乗ってた時だからデータが残ってると思うぞ」

「…………ありました。確かに言っていますね。先ほどの現象と酷似しているものを魔法として登録しておきます」

「おう。頼んま」

 そんな雑談を交えキリンゾウガメ(仮)を続けていると心臓近くに握り拳ほどの硬い物が出てきた。
 それを手に取りゴシゴシと戦闘服で拭くと血のように赤い宝石のような石だった。その石をイクシオーネに渡しスキャンをかけてもらうがデータ上にもまた存在しない未知の鉱石だった。

 だがその鉱石に心当たりあったホシモリが呟く。

「これはあれか……尿道結石!この亀も痛かったんだろな」

 ホシモリの言葉をイクシオーネは冷静に否定する。

「違うと思われます。この鉱石は心臓付近から出てきました。肝臓や尿道や膀胱から出てきた物ではありません。ですので違うと思われます」

「じゃあ……心臓結石か?これだけデカい石だと血管詰まるだろ。この星特有の病気とかか?」

「心臓や血管などから出た物では無いので結石では無いと思われます。ですがこの石の成分は血液を固めた物に非常に近いのでその可能性も存在します」

「なるほどね……綺麗だが今の所は必要無いし捨てるか?」

「いえ、重量に影響はありませんし知的生命体がいた場合は物々交換に使えるかも知れませんので取って起きましょう」それにこの鉱石からは未知のエネルギーを感知ししましたとイクシオーネは付け加えた。

 それからしばらく経った後にようやくキリンゾウガメ(仮)をバラし追えたのでホシモリは切り分けた肉を食べてみる事にし、ついでに干し肉もつくってみる事にした。

 火をおこしその火の周りを石で囲みその上にヒートナイフで加工した甲羅を置く、しばらくすると加工した甲羅に熱が伝わり肉が焼ける温度になったので超振動ナイフで適当な大きさにスライスし肉を焼いていく。

「どうですか?食べられそうですか?」

「正直、肉らしい肉って食った事が無いから分からん。他の星でもここまで地球にいそうな生き物って見ないしな」

「それもそうですね。粘菌体や宇宙虫の肉とは別物ですからね」

 そんな話をしながら肉をひっくり返していたりするとようやく中までちゃんと火が通ったのでまた腹痛を覚悟でホシモリは口に入れ咀嚼する。

 何も言わずに食べるホシモリを心配してイクシオーネは大丈夫ですか?と声をかけるがホシモリは答えに悩んでいる様だった。

「んー肉自体に甘いとか辛いとかはないな。どちらかと言うと癖というか臭みがあるな」

「肉自体に甘みがあるのは遺伝子操作で生み出された家畜でしょう。イチゴ豚やパイン牛は甘いと聞きます」

「大佐に連れて行ってもらって飯食ったがそんな感じだったな。名前までは忘れたがブドウ味の肉だったな。あれに比べれば変な感じだが……こういう物だと思えば全然食えるな」

「調味料の類いがあれば美味しく食べられると思いますがあいにく持ち合わせていませんね」

「兵士が戦場で調味料かけて肉を焼いて食うか?って話だしな。熱探知でバレてすぐに撃ち殺されるな」

「その前に煙が出た時点で砲撃や爆撃が飛んできます」

 キリンゾウガメ(仮)の様々な部位を焼いて口に入れホシモリは単純な事だったが料理を楽しみ生物の部位によって食感や味が違う事に気がつきそれを喜んだ。

「帰って戦場に戻ったら携帯食の味にこだわるのいいかもな」

「そうですね。いつも残っている物か部下達が嫌がる物ばかり食べていましたからね」

「戦場とか栄養補給が重要だからどれでもいいと思っていたんだけどな」

 そして次は干し肉を作る為にイクシオーネの手の平から出るイオンレーザーで甲羅の上を焼き払い殺菌除菌した後にまたホシモリが適当な大きさに肉を切って並べていく。

 そして甲羅の上にい肉を並べ追えるとイクシオーネのイオンレーザーの設定を変更し出力を最下限に設定し水分だけを攻撃するように設定し肉に向かって攻撃を開始する。

 その設定であっていたのかは分からなかったが一瞬で全ての水分が吹き飛び干し肉が完成する。

 完成した干し肉を手に取りホシモリが口に含むと何か硬い物を噛んだような感触が口の中に広がった。

「どうですか?」

「なかなかいいぞ。噛めば噛むほど味が出るな。亀だけに」

 ホシモリが嘘を言っている様には聞こえなかったが、その咀嚼音が物を食べる音とはかけ離れバキバキとなっていた。

「相棒が食した食べ物の中で何が一番近い食感ですか?」

「ん?鉱石とか食べる現地の人に俺達でも食べられる鉱石を差し入れてもらった事があるだろ?味は違うが食感はけっこう似てるぞ」

「……どうやら失敗の様ですね。もう少し水分の調整をした干し肉を作りましょう」

「腹に入れば一緒だし別にいいだろ」

「機械の私が心配しているのに人間の相棒がそれをいいますか」

「お?差別発言だ。撤回しないと上にドヤされるぞ」

「ここには私と相棒しかいないので大丈夫です。帰還の際には強制的にデータの書き換えを行うので大丈夫です」

 結局キリンゾウガメ(仮)の肉では素材が悪かったのか干し肉作りには失敗した。ただホシモリは気にせずその硬い肉でも気にせず食べるので成功といえば成功だった。

 それ以降は果実や植物などの水分を抜きドライフルーツの様な保存食等も造り森の中を進んでいく。

 亀の肉を初めて食べてから三日ほど森の中を進んでいくとようやくイクシオーネの集音センサーに水が動く音が届いた。

「相棒。水の音です。かなりの確率で川だと思われます」

「よし。そこに向かってよさげな場所があったら拠点を作るか」

「はい。ですが拠点を作る前に戦闘服の洗浄と水浴びをオススメします」

「雨には打たれたがそれなりに汚れてるな」

「この惑星に着いてからまだ一度も体を洗浄していません。不摂生は病気の可能性が高まります」

「血のシャワーなら浴びたけどな」

「ブラックジョークを感知。あまり面白くないと答えておきます」

 水の音が聞こえた方角に向かってしばらく歩いていくと森が開け目的の川が見つかった。

 川幅は広く流れもかなり速かったがホシモリはイクシーネにスキャンしてもらうと飲む事が可能と判断してもらった。

 そしてこの辺りの拠点を作ろうか? と相談するともう少し川を下れば滝になっているとイクシオーネが言ったので滝より川下に拠点を作る事になり川を下る事になった。

 またしばらく歩いているとイクシオーネが言った様に巨大な滝が出現したのでホシモリ達は足を滑らせないように崖を下って行く。

 特に危険な事は無く崖を降り終えて下流に向かって歩いていくと少し水深があり川の流れが穏やかになった場所が現れた。

「この辺りを水場にする感じでここから少しは慣れた森の中に拠点を作るか。近すぎると鉄砲水とか怖いしな」

「はい。大雨や未知の水生生物の危険がありますので水辺は避けるべきです」

「了解っと。じゃあ水浴びするから索敵は任せたぞ」

「分かりました。綺麗に洗浄してください」

 戦闘服のままホシモリは川に飛び込み血が固まってできた汚れや泥汚れ等を綺麗に洗っていく。

 ホシモリは思った以上に汚れていたようで服をゴシゴシと洗うと黒い汁が流れていった。

 ようやく水浴びも終わり洗濯物をイクシオーネに乾かしている時にホシモリが質問を投げかける。

「そういやフルティンのフルってなんなんだろうな?」

「そういう俗称はデータに登録されていませんが……フルアーマーのフルではないでしょうか?」

「なるほど……フルアーマーティンティンの略か。訓練生の時に豪雪惑星で裸で訓練させられた時もアーマー付きが多かったな」

 185センチ90キロの銃痕や刃傷や火傷の痕と筋肉の塊の体に着慣れた戦闘服を身につけていく。

 自身の鍛え上げられた体が一回り大きくなっている様な気がしたのでホシモリが足元にある石を拾い本気で力を込めると石は簡単に砕ける。

「ん?背中の強化骨格ってまだ直ってないはずだよな?何でここまで力がだせるんだ?」

「少しスキャンしてみます。少しお待ちください」

 イクシオーネのモノアイとホシモリの義眼越しにホシモリの体のスキャンを開始する。

 するとホシモリの言った様に背中の強化骨格は再生しており戦闘において本来の力が出せるようになっていた。

「考えられる原因は多いが……食べた物の中に怪我が治癒しやすい物があったのかもな」

「それが可能性としては高いです。空気中に漂う未知の気体も作用している可能性も考えられますが」

「その辺はおいおいデータを取っていく感じか……これでかなりの無茶はできるな」

「はい。できますが無茶をするような辺境の星や戦場ではありませんので無茶はしないで下さい。本来の力が出せない私でも余力もって行動できる惑星ですので」

「了解っと。まだ明るいし拠点を始めるか」

「判りました。魚類の摂取はどうしますか?何種類かの個体は確認出来ました」

「そこまで腹も減って無いし後でいいな」

 ホシモリとイクシオーネは河原を離れもう一度森の中に入っていく。そして大きな岩がある場所があったのでそこを拠点にするための準備を進める。

 イクシオーネが先に大岩の近くを掘ったり整地して形を地面の形を整え、ホシモリが近くの木などを超振動ナイフで適当に切り倒し木を集める。

 強化骨格が修復され本来の力が出せる様になったホシモリは切った大木を軽々と運び並べていく。

 その並べた大木に小屋を建てられる様にイクシオーネが寸法を低出力イオンレーザーで焼きながら書き込んでいく。

 書き込まれた形を元にホシモリが加工しイクシオーネが地面に柱を打ち込む。

「……相棒が入る場所が無くないか?」

「私は外でもこの程度の環境なら劣化しないので問題ありません」

「じゃあ俺の部屋ができたら相棒のシェルターだな」

「私の話は聞いていない様ですが感謝します」

「昔、部下がキャンプ行ったとか言ってて何が楽しいだろうとか思ってたが……やってみると案外たのしいな」

「水、食料の確保ができ生命を脅かす事が無ければ只の娯楽ですからね。気候も人がすごしやすい環境ですから楽しめるかと」

 そんな話をしながら一人と一機は拠点を組み上げていく。

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