ホシモリ達が未知の惑星に転送されてから数日が立った頃、ようやく山脈を下りきり森の中へと入っていた。
ただその森も地球と言われた惑星の植物にとてもよく似ており動物や昆虫や植物といった様々な生命にあふれていた。
「携帯濾過器があるから水は何とかなるが……食料だよな。キノコは確実に避けるとして鳥とかが食ってる木の実とかが安全か?」
「はい。携帯食糧も一週間で尽きるので食べ物の確保が必要です。気になる食べ物があれば持って来てもらえれば私がスキャンし食用可能か判断します。ただ未知の物質等が含まれている場合もあるので気をつけてください」
そう言われたのでホシモリは木の高い所になっていた木の実をダストレールガンで打ち落としイクシオーネに渡してスキャンをしてもらう。
戦闘用のプラネットで食用可能か判断するのに五分ほど時間がかかったがイクシオーネが答える。
「食用に適しません。テトロドトキシンと未知の成分を検知しました」
「まじか……未知ってのが怖いな」
まだ携帯食料に余裕がある内にそこら中に生えている様々な植物をスキャンし食べられるかどうかを判断する。
成分的にもイクシオーネのデータ内にある食料ととてもよく似た物もいくつか見つかったが先ほどの果物と同様に未知の成分に引っかかりホシモリは食べるのを止めていた。
「鳥とか虫とかを観察すると食べられるとは思うけどな……まぁこの星の生物だしそれを消化する器官があるんだろうな」
「よほどの時は摂取してもいいと思いますが。まだ余裕がある今はオススメしません。…………おめでとうございます。相棒。未知の成分が検出されない食べ物を発見しました」
「お!やったな」
「はい。ですが食用に適しているかどうかは難しい所です。寄生虫、病原菌等も発見できませんでしたので皮をむけば食べられます」
ホシモリはイクシオーネからその果物を受け取り観察すると長細く形だけはバナナによくにており外皮は並の人間では開けるのも不可能な程硬い茶色い殻に覆われていた。
超振動ナイフで器用に殻を割り中を開けると真っ白な実が出てきたが、何とも言えない匂いがホシモリの鼻につく。
「あー……この匂いは嗅いだ事あるな。あれだ……高温な惑星で一ヶ月ほど風呂にも入らず仕事したパワードスーツの中の匂いだ」
「それは食用不可なのでは?」
イクシオーネが食べられると言っていたので超振動ナイフで一口に切断し口に運ぶ。
その仕草を観察しながらイクシオーネがホシモリにどうですか? と質問する。
「美味くはないが食べられる。今まで口に入れた物の食感に近いのは……あれだ。どっかの惑星で食べ物が尽きた時に腹が減ってるの誤魔化すのにタイヤを切ってガムみたいに噛んでいただろ?あれによく似てるな」
「すみません相棒。もう少し食用に適した食材を探す様にします」
「宇宙で一番不味いと言われるリングラット人の食事を俺は完食したんだぞ?あれに比べれば臭いや硬いは只の個性だ。連中は味覚と嗅覚がないからな視覚と触覚で楽しむ料理だったな……懐かしい思い出だ」
「連合国で初でしたね。相棒が表彰された事をよく覚えています」
「でもあれのおかげで何でも食える様になったから感謝しか無いけどな。俺の部隊の訓練に取り入れようとしたが全員から土下座されたよな」
「はい。私もプラネットが土下座する所を初めてみました。上官に逆らえないのとパイロットの生命の危機でそうなったと思われます」
「兵士にとって絶対に必要な能力だけどな。なんでも食えるって」
そんな話をしながら食料を探すとこの森はホシモリ達の想像以上に豊かだったようで様々な食べられる果物や草本植物が見つかりホシモリのお腹を満たした。
「相棒。その植物はどうですか?」
「俺達がいたコロニーを思い出す匂いがする」
「コロニー食のような匂いですか?」
「部下のワグナー中尉の部屋の匂いだな」
「……それも食用不可なのでは?部屋に虫が湧いたと報告があったとデータにあります」
ホシモリが持っていていた携帯食料は開けてさえいなければ軽く数年は持つのである程度の食料の確保の目処がついたので携帯食料はよほどの事があるまで取っておこうと言う話に決まり次は水の確保を優先する事になった。
食料を探している時に水分を多く根に含む植物を見つけたのでその根を切り取り、出てきた水分を携帯濾過器に通して水は確保していたが、毎回土を掘るわけにもいかないしそもそもこの場所に永住するする予定もないので水を求め動き始める。
「これぐらい大きな森だから川とかならありそうだよな?」
「周囲1㎞の音を集めていますが水が動く音は感知できません。この森が深すぎるので音が届かない可能性も大いにあります」
ホシモリが苦笑いしながら上を見上げると巨大な木や小さい木が折り重なるように空を塞ぎ光りさえほとんど通さない状態で森の中はとても薄暗く見通しがとても悪かった。
そんな状態でもホシモリの義眼が暗闇でも昼のように明るく見えイクシオーネのモノアイはそれ以上に高性能だったので二人とも問題無く暗い森の中を突き進んでいく。
そしてしばらく進んでいくとぬかるみがありイクシオーネの自重でゆっくりと体が沈み始めるがすぐに足を引き抜きその場から脱出する。
「気をつけて下さい相棒。少しぬかるんでいます」
「……近くに川が無くてこれだけ植物が生い茂ってるって事は雨期とかあるのか?」
「可能性は大いにあります。先ほどの植物も根に大量の水を蓄えてありました」
「って事は……この辺りはもしかしたら川床かもな。お?相棒見てみろよ。足を抜いた所に水が溜まってきたぞ」
ホシモリに言われた様に確認するとイクシオーネの脚部を引き抜いてできたぬかるみの穴に水がしみ出すようにあふれ出しすぐに溜まった。
その溜まった水をすくい携帯濾過器を通して水の確保に成功する。
「水、食料の確保はできたが……ここに基地を作るのはなんか違うよな」
「はい。オススメしません。この場所は雨期になれば川の様になる可能性がありますし、このような深く暗い森に住むと距離感や時間の感覚が狂います」
「あーそんな事件あったな。たしか拉致された地球人が数十年光りが無い星で暮らしてて見つかった時は距離と時間の感覚が無かったんだよな」
「そうです……相棒。また気をつけてください。大型の昆虫と思われる生き物が近づいています」
「了解っと。昆虫って何処の星でもいるよな」
「はい。本当かどうかは知りませんが全宇宙の昆虫の期限は私達だと言っている星人がいるぐらいですからね」
「まぁ確かに連中は虫っぽいな……昆虫の起源は自分達って言ってるくせに虫っぽいっていうと怒るから意味不明なんだが……」
木々を縫うように移動し足音もイクシオーネの集音装置でようやく拾えるほどの小さな音を立てながら軽自動車より少し大きな地球にいるハンミョウによく似た大きな虫が目の前に現れる。
ただ、山で襲ってきたトカゲの様に好戦的では内容で一定の距離をとり触角を動かしてホシモリとイクシオーネを観察しているようだった。
「昆虫って人型じゃないと言葉が通じないんだよな?」
「はい。何故かは解明されていませんがそうです。ですが知性が高い者が多いので言葉以外ならコミュニケーションを取るのは可能な事が多いのは確かです」
「俺が任務で出会った虫はだいたい襲ってきたけどな……」
「好戦的な者が多いのが原因です」
そう話す二人に興味を無くしたのか自身では勝てないと判断したのか大きな昆虫はゆっくりと体を反転させ来た道とは別方向に去っていった。
「……そろそろタンパク質を確保したいというのを察知されたか?」
「可能性は大いにあります。相棒と任務をしていると勘という存在に助けられた事が多いにあるので今の昆虫も身の危険を感じたのでしょう。肉食ではない可能性もありますが」
「レイブンビートルとか装甲車くらいなら真っ二つにする顎があるのにご飯は高カロリーな樹液だもんな」
二人が大きな昆虫が去った先を眺めて話していると木が倒れる音がした後に獣の断末魔に近い叫び声が聞こえたりもしたが、あまり危機感のない一人と一機は自然が豊かだなと談笑しながら先を進む。
日の光がほとんど入らない森の中だった為に思った以上に時間が経っていたのでイクシオーネがホシモリに今夜はここで野営をしようと提案する。
ホシモリも断る理由も無かったので近くから乾いた木や燃えそうな物を調達し火をつける。
火の近くに近くにホシモリは座り辺りを見渡すと炎の光に照らされてキノコの様な物が発行したり鉱石が光を反射したりと森の中とは思えない美しい光景が広がっていた。
「俺達みたいにずっと戦ってばかりだとこんな些細な事でも感動するな」
「はい。銃声と命の危機が無いだけで暗視区域での戦闘と光量はほぼ同じです」
「だよな。あそこに見えてる光とか帝国スナイパーのレーザーサイトにそっくりだもんな」
「あの辺りで光る菌類の群生は連合軍のテルミット弾にとてもよく似ています」
お互いに職業病だなと笑い日の光が入らない深い森の中では朝や夜といったものは分からなかったがイクシオーネに七時間後に起こしてもらう様に頼んだ。
「おやすみ相棒」
「良い夢を相棒」
睡眠を取る必要が無いイクシオーネに見張りと火の番を任せパチパチとたき火の音だけが静かに過ぎていった。
それから数日が経ち食べ物が当たり下痢に見舞われたりしたり熱を出すこともあったが、ようやく深い森を抜け日の光や視界が少し開けた低木林の群生地まで移動した。
「熱とか下痢とか何年ぶりだろな。任務中だと医療班がしっかりしっかり薬くれるからそういう不調にほとんどならないよな」
「はい。任務前には気候に合わせたナノマシンメディカルが体内に投入されますのでよほどの事が無い限りは体調は万全のまま戦場にでます。今回は帝国軍の強襲でしたのでナノマシンメディカルが投入されていないので体調不良になりました」
「こういう時の為に全身機械って憧れるよな~。戻ったら胃とか腸も強化臓器にしてもらうのもありだな」
「脳は性格が変わる恐れがあるのでおすすめしませんが機械化や強化臓器への交換はおすすめできます。メリットもデメリットも存在しますが」
「腕とか増やせるから普通の人型じゃ持てない武器とか使えるもんな」
「はい。それがメリットです。デメリットは電磁兵器やイオン兵器を使用されると体が麻痺するので再起動に数秒ほどの時間を要します」
「それが大問題なんだよな……さてとそろそろ腹が減ってきたが今日は何を食べようかね」
「タンパク質の摂取をおすすめします。肉を摂取したのはウサギによく似た生物を摂取していらいですので……ちょうどこちらに向かってくる生命体がいますので意思疎通ができないものであればそれを摂取しましょう」
「了解っと」
その生物は時速60キロほどでホシモリ達に向かって近づいてきていて、近くになるにつれて地響きが聞こえ始める。
そしてようやく姿が見えるとその生き物は足が六本もある象より大きな亀でホシモリ達を視界に捕らえるとキリンの様に首を大きく伸ばし威嚇し始めた。
「名前をつけるなら……ゾウキリンガメか?」
「それだと鼻が長い特徴の亀に聞こえます。首が長いのでキリンゾウガメの方が伝わりやすいと思います」
なるほどとホシモリは一人納得しいつもの様にコミュニケーションを取り始めるが、伝わらずに長い首をさらに伸ばしホシモリ達に攻撃を仕掛け始めた。
なんなくその攻撃を躱し距離を取るとキリンゾウガメは大きく息を吸い込む動作をした後に直径一メートルほどの火球をいくつも吐き出した。
その事にホシモリは驚きすぐに火球をよけイクシオーネは弾道を読み自身に当たる物だけを握り潰した。
「体内に可燃物質を精製する事ができる生き物の様です。こちらに危害を加える為、排除して問題ありません」
「どこの星でも火を吐く奴っているんだな」
「地球にはいないと聞きました」
「ん?空飛んでプラズマを吐く亀がいるって聞いたぞ?」
イクシオーネがその質問に答えるまえにキリンゾウガメが襲いかかってきたので、ホシモリが今回は俺がやるといってヒートナイフと超振動ナイフを構え前に出る。
「たまには戦わないと鈍るからな」
「少しは鈍った方が敵兵や部下達は喜ぶと思われます」
「はっ!言ってろ」
笑っているホシモリを目がけ矢のような速度でその首を伸ばし捕食しようとするが体をひねって紙一重でその攻撃を躱す。
そしてそのまま流れる様に超振動ナイフを振り下ろすと何の抵抗も無く首と体が切り落とされる。
自分の首が落とされたとか気がついてないキリンゾウガメはホシモリを捕食しようと何度も大きな口を開いたり閉じたりするがようやく自身の命がつきた事を知り動かなくなった。
「お見事です相棒」
「ありがとよ。血抜きして干し肉も作るか。全部は食べる前に腐るな……というか食用は可能?」
イクシオーネがスキャンをはじめ食べられる事が分かったので頑張って血抜きをした後にホシモリは肉を切り分けていった。