プラネットレギオン 第11話 街

 男は何処か遠くの国の出身だった様で私には何を話しているのかが分からなかった。

 身につけている物を見ればある程度は絞れるが見た事も無い様な黒を基調とした服にジャケットを身につけナイフが二本取りやすい位置に装備し背中には魔法銃と思われる銃を背負っていた。

 銃に関してもそうだ軍で使用されている物、市販されている物、中身の性能は違うが製造元の数は少ないそれなのにあのような形の銃はこの近隣諸国では見た事も無い。海を渡りもっと別の国から来たのだろうか?それならば言葉も通じないのも分かるが……

歩き方や警戒の仕方……男はたぶんだが軍人か兵士なのだろう。染みついた癖だろうが足音が全くと言っていいほどしない。あれは訓練を積んだ者の歩き方だ。

 年齢は私より少し上の25歳ぐらいに見えるが……その歳でそこまでの技術が身につくのか?一匹でも苦労するシルバーランスウルフの群れを誰にも気づかれずに殲滅し姿を消せる魔法も使えるようだ……

 国の中枢に顔が利く貴族が夜盗と結託し他国に奴隷として女性を売り払っているとは思わなかったな……私もベルナも騙され誘拐されもう少しで国境を越える所だった。

 その貴族が目を覚まし自身の非を認めずに私に黙って入れば富と名誉を与えようと言った時には本当に殺してやろうと思った。いや……殺すつもりだったが……彼に止められた。殺す程の人物では無いと分かっていたのか、裁きは法の下でと言いたかったのかは分からなかったが……私は助けられたと思う。

 だから私には彼に自身の口で伝わるように礼が言いたい。もしも神が見ているのなら私達の為に竜種から囮になり夜の森に入った彼にご加護を

『なぁ相棒。確かに滝は近いが見えてないだろうからここで倒してもいいんじゃね?』

『駄目ですとは言いませんがオススメはしません。希少な生物であった場合その皮や鱗に価値があります。倒し滝で流してしまえば後から取りに来る可能性は低くなり相棒が討伐したという事も隠せます』

『それもそうか……滝まで残りは?』

『直進で156メートルです』

 カメレオンの様な生物の長い舌や凝縮された霧状の猛毒などを躱し定期的に殴ったりして自身を襲うように逃げていくとホシモリの耳にもようやく水が落ちる音が聞こえた。

 そしてようやく滝の全貌が見える目的地までくるとホシモリの想像以上の高さがあり、水量も凄まじかったので落ちれば助からない事は明白だった。

『おい相棒。これ、落ちたら死ぬ高さだぞ』

『はい。飛べと言うのは冗談なので倒して流せば問題ありません』

「了解っと。お前さんも生きる為に襲ってきたんだろうが……こっちも生きる為なんでな。悪いが倒させてもらう」

 ホシモリは戦闘服のフードを被ると硬質化しヘルメットの様に硬くなった。そして両手にナイフ持ち構え呼吸を整える。

 それだけでホシモリの危険性を察知したのが今まで襲いかかってきたカメレオン様な生き物は怯え尻込みし始めるが背後に何かを感じ逃げられないと判断しホシモリとの距離を一気に詰める。

 自分より遙かに小さな生き物に牙や爪による攻撃は避けられ交差したのも一瞬だったが片方の前足は切り落とされ胸には致命傷と言っていいほどの大きな傷がつけられていた。

 ほんの一瞬の間にこれだけの怪我を負わされ少しパニック状態になった生き物はホシモリを見失った。

 そして次にその小さな体を確認した時は自身の心臓近くに手を突き入れられ命を切断された瞬間だった。

『ん?また石みたいなのがあるな』

 今まで襲ってきていた生物の心臓の血管をナイフで切り裂くと刃先に硬い者が当たったのでナイフで器用に近くの肉を切り裂きその石を取り出す。

 心臓を切り裂かれた生物はすでに息絶えておりホシモリが腕を引き抜くと川に崩れ落ちゆっくりと流されいき先にある滝に飲まれていった。

 カメレオンの様な生物を倒し終え返り血で全身が染まっていたので洗い流していると体に違和感を覚えその場に崩れ落ちた。

 頭から崩れ落ちた先には川があったので怪我をするという事はなかったがかなりの水量がありホシモリもゆっくりと流される。

 意識ははっきりとしていたが指一本動かせない状態になり流されていく。

 最後には滝に飲み込まれる様に落ちていく。

 だが聞き慣れた足音が急接近しホシモリの腕を掴み引きあげた。

「大丈夫ですか?相棒」

 声を出す事はできなかったので瞳の動きを読み取ってもらいイクシオーネに体が動かせない事を伝えた。

「分かりました。先ほどの生物の血液に未知の成分を確認。命に別状はありませんが毒の解析を行います」

 イクシオーネは背中部のハッチを開け中にあったコアモジュールを取り出してからホシモリをコックピットに座らせる。

 そして酸素マスクなどをつけた後にメディカルナノマシンとホシモリの体に投与し毒の解析と分解を行った。

 五分もしないうちに毒は分解されたのでホシモリは会話ができる様になったので自らの失敗をイクシオーネに謝った。

「すまなかった。未知の毒とか散々言ってくれてたのにな」

「いいえ。問題ありません。相棒がミスをした時には私が支え私がミスをした時は相棒が支えてくれる。プラネットとそのパイロットはそうでなくては駄目です」

「わかった。じゃあ相棒がミスした時は任せてくれ」

「了解です。それに作戦名、翔べ!ホシモリはカメレオンモドキと相棒が滝からダイブしたのを私がキャッチするというシチュエーションも含まれていたので成功です」

 体内に残った毒も分解されメディカルナノマシンに体の悪い所も治されたので身体供に調子が戻ったホシモリはイクシオーネに礼を言ってからコックピットか降りる。

 そしてワープポッドのコアモジュールをイクシオーネのコックピットに乗せてシートベルトをしているとイクシオーネ自身も血まみれだ言う事に気がついた。

「何か倒したのか?」

「はい。先日倒した角の生えた狼が野営地に向かっていたので殲滅してからこちらに来ました。ヒートマチェットで切断後に焼却しましたので問題はありません」

「だったら大丈夫か。俺も相棒も水浴びしてから戻るか」

「了解しました」

 それから少しだけ深場に行きその辺りの植物をブラシ代わりにホシモリはイクシオーネの洗浄を始め、イクシオーネも大きな手を器用に使いホシモリの戦闘服を洗った。

 そして少しだけ夜が明け始めた頃に森の中を二人が歩いているとホシモリが思いだしたかの様にイクシオーネに話しかける。

「そういやさっきのカメレオンモドキの心臓付近にも結石があったぞ?なんなんだろな?」

「魔法に近いエネルギーは感じます。用途は不明ですが人体に悪影響は無さそうなので余裕があれば収拾しても良いと思われます」

「そうだよなー。せっかく今まで集めた薬莢コレクションとか……連合国の俺の部屋だしな。この石でも集めてみるか」

「はい。相棒には趣味といえる物がありませんので惨殺しない程度に集めても良いかと思います。ただ希少生物等は除いた方がいいと思うので街についたら一度調べる事をオススメします」

「荷車があるんだし本くらいあるだろうな。よし……相棒そろそろ野営地だ」

「はい。ではクローク機能を実行します」

 イクシオーネに謎の石を渡し収納した後にその巨体が風景と同化する様に消えて離れて行ったのでホシモリは少し足取りを速め野営地へと向かった。

 野営地に戻ると女性達は朝食の準備をしており戻ったホシモリの無事を確認しとても喜んだ。

 逆に牢に入った男達はどうやってあの生き物から逃げたのか? という様な表情でホシモリに恐怖する。

 そして少女と甲冑を着た女性がどうやって逃げ切ったかと言う様な事を聞いてきたので服も濡れていて丁度良かったので滝から上手く落とし逃げ切れたとジェスチャーするとそれを信じた様で頷き納得してくれた。

 それから朝食を取り濡れた装備を乾かしてから出発する。

 それから森を抜けるまでの間は特に何かに襲撃されると言う様な事は無く無事に進む事ができた。

 森を抜けた先は草原地帯が広がっており街道もかなり整備され元々振動が少なかった荷馬車も全くと言っていいほど揺れなくなった。

 ただどういう訳か鳥達の速度は少しだけ遅くなったのでその事を手綱を握っている女性に絵を描いて質問すると山と平地の絵を描いた後に山道に○をつけたのでたぶんだがその鳥は山道のような所の方が速いのだと納得した。

 草原地帯はとても穏やかなな風が吹き気候もすごしやすいのもあり流石のホシモリも警戒はしているが大きな欠伸をする。

『良い天気だな』

『はい。荷車の中にいる女性達も睡魔に負けた様で睡眠を取っています』

 街道からそれて草原地帯を後から着いて来るイクシオーネだったがクローク機能は問題無く作動しているようで視界を遮る物は丘ぐらいだったが誰もその巨体に気づく物はいなかった。

 しばらくのんびりした時間を進んでいるとイクシオーネのセンサーに前方から馬車が数台と十三人の人間が接近している事をホシモリに伝える。

 了解と言ってホシモリが頷きしばらくした後に丘の上に馬車が見えたので手綱を握っていた女性にその事を伝えると嬉しそうに頷いた。

『荷物をかなり積んでいるので流通に関わる者だと思います』

『って事は商人と護衛って感じか?と言うか馬っぽいのもいるんだな足は六本あるが……平地が馬で山地が鳥か?』

『そうだと思われます』

「宇宙でも商人船とそれを護衛する船がいるから科学が発達しても人は人なんだな」

「はい。それがあるから人なんだと思われます」

 そしてしばらく立った後にお互いが確認出来る距離でその馬車は止まり手綱を握っていた男性がリーダーの甲冑を着た女性に話しかける。

 しばらく話が続きそうだったのでその光景を眺めていると相手の荷馬車に乗った護衛だと思われる武装した人達と目が合った。

 いきなり喧嘩を売られるような事は無かったが終始、ホシモリを警戒した目で見つめていた。

『割と戦えそうな感じだな。血の気の多い候補生の目ににてるな』

『筋力量などはかなりのものですね。装備も使い込まれいますので歴戦の戦士といった所でしょうか。デリンジャーのような小型の銃に近い構造の物も所持しています』

『銃が作れる位の技術力があるならかなり頑張れば帰られるな』

『可能性が少し上昇しました。詳細を聞きますか?』

 ホシモリが遠慮すると言ったタイミングで甲冑をきた女性と商人ぽい男性の話が終わった様で馬車はゆっくりと動き出した。

 そして牢屋にいる裕福そうな男と目が合うと鼻をつまみながら笑い挨拶をして去って行った。

 それが裕福そうな男の逆鱗に触れたのか先ほどまでは静かだったのに大声を上げ過ぎて行く商人を威嚇する。

『煽るなー。まぁ言葉は分からんが女性達のジェスチャーだとろくな事をしてない感じだし色んな所から恨まれているんだろうな』

『そうですね。好かれているのであれば出してあげて欲しいと言われても良いでしょうからね』

 そして野営を何度かし麦っぽい穀倉地帯に入るとすれ違う馬車の数がかなり増えた。そして出発してから太陽によく似た惑星が十回ほど真上に来た頃にイクシオーネのモノアイに人工物が写った。

『相棒。ようやく都市が見えました』

『了解。俺も確認した。バレる事は無いと思うが少し気をつけてくれ』

『了解しました。それと大型の機動体を確認できました』

 その予想外の答えにホシモリはとても驚きイクシオーネにそのデータを送ってもらうとプラネットでは無かったが人型の機動体で7メートルのイクシオーネの倍の大きさの物が数体ほど確認できた。

『詳細が分かるんだったら相棒がデータをくれるか……それが無いなら未知の機動体か』

『はい。スキャンをかけましたがプラネットとの構造は全く違います。ですが兵器である間違いありません』

『了解……もしもの時はすぐに離脱だ』

『了解しました』

 ホシモリもイクシオーネもかなり警戒し馬車は街へと近づいていく。するとようやくその人型兵器がホシモリ達の馬車に気がつき足元にいた同じ装備に身を包んだ兵士と思われる人物が六本足の馬に乗りこちらにやって来た。

 そして甲冑を着た女性が話し始め事情を説明し馬車の中や檻を見せると大慌てで一緒に来ていた者に指示を出し街の方へ馬を走らせた。

『相棒。これから街に入るから外で待機しててくれ』

『分かりました。生命の危機があった場合以外は街の郊外で待機し先ほどの兵器を調べて起きます』

 ホシモリが頼むと言う頃にはその大型の兵器の足元まで移動しバレていない様だったのでスキャンをしながら構造を解析していた。

 そんな光景を眺めていると街の方から数人がかなりの速さでホシモリ達の馬車に向かって来た。

 そしてまた甲冑をきた女性が頭を下げてか問答に答えてから馬車の屋根にいるホシモリを紹介する様にそちらをみた。

 言葉が伝わらない事も伝えた様で降りてこいとは言われないまま馬車を守るように馬を配置させ、イクシオーネでも軽々とくぐれる門を抜け街へと入っていく。

 馬車は詰め所のような前に止められて迎えに来た男性がホシモリに手招きをする様に動いたのでホシモリは警戒しながら後についていく。

 木で出来た扉を開けて石を積み上げられた中世ファンタジーで良くありそうな建物に入るとその男は笑顔でホシモリに話しかける。

「ようこそ城塞都市エンドミルへ。どうですか?言葉は通じていると思いますが……」

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