プラネットレギオン 第10話 魔物

 夜が明け朝日が昇る少し前に少女は目を覚まし少し眠いながらも目をこすると肉を焼いた様な香ばしい匂いが鼻をくすぐる。

 自分を助けてくれた言葉の通じない騎士とは言えないが歴戦の戦士という言葉が良く似合う男の事を思い出しその人が朝ご飯に干し肉でも焼いているのだろうと考えた。

(どうやって食料をここから取ったんだろう?でも凄い戦士さんっぽいから私達に気づかれずに食料を取るぐらいできるのかな?私を助けてくれた時も姿が見えなかったし)

 等と考えながら馬車の荷台から覗くように顔を出すと自分が想像していたより悲惨な光景が待っており寝ている皆を起こす様な叫び声を上げた。

『肉を焼いて食ってる時に叫ばんでもいいんじゃね?と俺は思うがどう思う』

『相棒の言葉だけなら正しいですか。第三者から見れば近くに積み上げられた動物の死骸に返り血で血まみれになった見張りですから年頃の少女には刺激が強いのでしょう』

『駄目だ……子供ってのはよくわからん』

『自身が子供の頃を思いだしては?』

『あれぐらいの年の頃は銃を担いで息を潜めてたな。音を出すと死ぬような場所だったし』

 野営した場所の近くに川があったのでホシモリは自身の体に大量についた返り血を綺麗に洗い落とし渡された布で頭や体を拭いて元の場所まで戻る。

 どうしてそうなったかだが。昨晩のこと女性達が眠りイクシオーネと話をして時間を潰していると六匹の狼によく似た角の生えた生き物に囲まれた。

 何かあれば起こしてくれと甲冑をきた女性に言われていたが、ホシモリ一人で全く問題が無かったので自身にヘイトを集め声を出させない様に顎を握り首を刎ねたり心臓を一付きと密着しながら倒していった為の返り血だった。

 そして死体をたき火の近くに積み重ね、イクシオーネのスキャンにより食べられる事も判明したので内臓を抜き取ったりもしたので辺り一面が真っ赤に仕上がっていた。

『臭みはあるがそれなりに美味かったから持ち運びたいな。目的地まで食料は足らんし』

『先に角付き狼から食べればある程度は消費を抑えられます。荷馬車の食料は日持ちする物が多いので』

 人型以外はほんと言葉が通じないから戦闘になるよなっとぼやきながら野営地に戻ると女性達の中に料理等ができる物がいたようでたき火の上に盾を置きその上にホシモリが仕留めた角突き狼の肉を焼き料理をしていた。

 その光景を眺めながら戻った事を伝えると大声を上げた少女が小走りでやって来てホシモリに頭を下げる。
 言葉は通じなかったかったがたぶん謝っているのだろうと思いホシモリも気にしてないと伝えると伝わった様で少し嬉しそうに甲冑を着た女性の元へと駆けていった。

 料理ができるまでまだ時間がかかりそうだったので荷馬車の水が入った樽などを確認すると減っていたのでそれを担ぎ上げ補充する為にまた川へと向かった。

 携帯濾過器を使い川の水を濾過し樽を満たしまた担いで野営地へと戻ると料理が完成していた様で大きな葉っぱに焼いた肉とパンが添えられ皆に配っていたのでホシモリも樽を荷馬車に積んでから料理を受け取り木陰に座る。

 パンをちぎって食べ調理された肉を口に入れると簡単に塩で味付けされたものだったがその上手さにホシモリは驚く。

『焼いて塩をかけただけの肉がこれだけ美味いのか!?』

『正確にはその辺りに生えていた植物も少し使用しています』

『でもほとんど塩だろ?』

『何というか……科学力では私達の方が圧倒的に上ですが食べ物に関しては彼女達より原始的ですね』

『食糧難とか多いしな。実際、合成肉とかクローン肉の方ばかりだからこういう自然な肉って食べた事ある奴は少ないと思うぞ。科学が発達してない星とか近寄れんし』

『クローン肉や合成肉は菌や寄生虫というデメリットが存在しないのでそちらがオススメです』

『他の部隊であんまり火を通して無かったから腹を食い破られる事件があったな……』

 肉の良い匂いに誘われてか牢にいる男達が目覚める気配があったのでイクシオーネが先にホシモリに忠告する。

 起きた所で何を言っているかは分からないがここから出せとか言うのは明確だったので起きる前に甲冑を着た女性に牢屋を指さしてもうすぐ起きると伝えた。

 その女性にそれで伝わったようで少女を荷馬車に入る様に指示し自身は牢の前へと向かう。

 ホシモリが加工し開ける事が不可能になっていたが警戒しているのか少し離れた所で立ち止まると一人の男が目を覚ます。

 そしてその男が辺りをキョロキョロしたり自身の体の自由が利かない事を確認するとようやく自らが置かれた立場を確認し大きな声をあげる。

 その声に釣られ外にいた連中や裕福そうな男達も目を覚ましかなり騒がしくなった。

『あれだな。言葉は通じなくとも悪口は通じるって言うやつだな』

『はい。叫べば出られると考えているようですが無理です』

『何も考えて無いだろ。考えてたら寝たふりでもして逃げられるチャンスを疑うだろうしな』

『何か考えがあるかも知れませんし魔法も存在しますので注意深く観察しましょう』

 しばらく罵詈雑言であろう言葉を言っている男達を肉をおかわりしながら眺めていると裕福そうな男性と甲冑を着た女性が牢越しに話を始める。

 何を言っているかは分からなかったが深刻そうな話をしていたので眺めていると甲冑を着た女性が帯刀していた剣を抜き裕福そうな男の喉元に当てた。

 そして次の瞬間に剣に力を入れ突き刺そうとしたのでホシモリはその動作よりも数倍素早く動き超振動ナイフを投擲し剣を切断した。

 ナイフは地面に突き刺さり剣の刃先は宙を舞いナイフと同じ様に地面に突き刺さった。

 剣をおられた女性がゆっくりとホシモリの方をみると裕福な男性もホシモリの方をみる。

 女性の表情はどうして止めた! という様な怒気に支配された顔をしていたがホシモリが左右に首を振ると少し悔しそうにその場を離れ行った。

 ホシモリも特に話す事は無かったので超振動ナイフを回収する為に牢の近くに行くと先ほどの男性が話しかけてきたが言葉が分からないのでそのままナイフを回収しその場を離れる。

『どうして止めたのですか?現地の生物が生物を殺しても私達の罪にはなりません』

『私怨とかそんなのはどうでもいいが……現状はどっちがまともな奴かは分からんからな。任務では無く私情で動くなら良い奴の味方でありたいからな』

『分かりました。高確率で牢に入れた人達が悪者なのです』

『俺もそう思う』

 そしてそのまま出発しようと思ったが牢に入れた者達が何も食べていなかったので料理をしていた女性に余った肉を焼いて貰い牢の隙間へと入れておいた。

 体勢を変えられる様に足は自由にしてあったが腕は使えない様に縛ってあったので料理を食べようと思えば頭を下げて食べるしか無かったがそれが気に入らない男達は料理を蹴り飛ばし暴言っぽい言葉を吐いていた。

『勿体ない美味いのに』

『元気な証拠ですね』

『俺も訓練の時に似た様な事やったが喰わないと死ぬから喜んで食ってたな。休憩にもなるし』

『食べると出ますからね。その辺りの対策も考えられます』

 そろそろ出発しようかとホシモリが考えていると女性達がホシモリが倒して山積みにした角付き狼を指さして何かを言っていた。

 近くに行き紙に書いてもらったり身振りはぶりで説明を聞くとあのままあそこに捨てて行くのか? という様な事を質問しているようだった。

 先を急ぎたいと言う事を伝えたが捨てて行くのは勿体ないという様な事を伝えてきたので任せると伝えると伝わった様で二人ほど荷馬車の中からナイフを取りだし皮を剥いだり角を取ったりしていた。

『森を抜けたら寒くなるんだろうか?』

『そればかりは分かりません。何せ未知の星ですからある程度は現地の人達の意見を聞くのも重要かと』

 その光景を眺めていると甲冑をきた女性が近くにやって来てホシモリに大きく頭を下げた。先ほどの事を謝っている様だったがホシモリも特に気にしていないし剣も折ってしまったのでその事を謝ると少し笑い女性自身も気にしていないと行っている様だった。

 そしてそのまま荷馬車に行くと別の剣があった様でそれを腰に帯刀していた。

 それからしばらくして皮を剥いでいた女性達も満足したようで皮を剥ぐと綺麗な白色に変わった毛皮や角をホシモリに見せてから荷馬車へと積み込んだ。

 その光景をみていた男達が騒ぎ出したので運んでいた女性はべーっと舌をだし煽っていた。

『皮を剥いだら色が変わる生き物っているんだな。死んだら色が変わる生き物はいるって聞いたが……』

『地球だとブルーマーリンと言う魚がそうだと聞きます』

 出発できる準備が整ったのでホシモリは定位置になった荷馬車の上に飛び乗ると荷馬車はゆっくりと動き始めた。

 それからはしばらくは牢に入った者達のお罵詈雑言であろう言葉がBGMの様に鳴り響いていたが二日も経つ頃には色々と諦めたのか少しだけ静かになっていた。

 そして夜になり鳥達を繋ぎ野営を始め檻にいる者達に食事を運び自分達も食事を食べていると甲冑を着た女性が近くに来て何かを伝えようとしていた。

 どうしたのかと尋ねメモ帳を渡すと少し前に書いた地図に書かれた森と森が無い場所の間に○をつけた。

 その事でもうすぐ森を抜けると言う事を伝えたかったのだと思いホシモリが簡単にだが森を抜けるような絵を描くと女性はそうだと言わんばかりに頷きその様なやり取りをしていると明日の昼には森を抜けると言う事が分かった。

 甲冑をきた女性とホシモリが打ち合わせをしているとイクシオーネか急に通信が入る

『気をつけてください相棒。爬虫類に酷似した大型の生物が木を渡りそちらに向かっています』

『了解。方向、距離、サイズは?』

 その場から西南西に500メートル。大きさは頭部から尾の先まで15,7メートルでクロークしながら接近しています」

 イクシオーネの情報を元に警戒しながらそちらを向くとまだ姿は確認出来なかったが、少しだけ生き物が移動する音がホシモリにも聞こえた。

 甲冑をきた女性はまったく気づいておらず警戒するホシモリに何かを話しかけようとする。だが次の瞬間にはその生物の射程圏内に入ったのかかなりの距離から舌を伸ばし攻撃を仕掛けて来た。

 ホシモリは女性を突き飛ばし舌の攻撃を躱し攻撃してきた舌を上に蹴り飛ばす。

 すると蹴り飛ばされた舌は折り畳まれる様に消えて行きホシモリ達から少し離れた所にイクシオーネが言った様な大きさで銀色に輝く鱗を持った生き物が姿を現した。

 その姿は顔だけはカメレオンによく似ており目は左右で様々な方向をみて檻にいる男達をみたりたき火近くにいる女達を狙っていた。

 前足後ろ足には木を渡り動くのに適し発達しているようで爪などもかぎ爪の様に木に引っかかりやすい形をしていた。

『一応、意思疎通を試した方がいいか?』

『先に攻撃を仕掛けて来たので倒した所で問題ありません』

 悠長にホシモリとイクシオーネが話していると甲冑を着た女性は大きな声でその生物の名を叫び腰を抜かした。

 それが開戦の合図となりその生き物は姿を消すと同時にまかれた尻尾を伸ばしホシモリに攻撃を仕掛ける。

 姿を消す……と言っても周囲の色を取り込み擬態する様に消えているだけなのでホシモリの義眼は体温などを見る事ができる機能も多岐にわたり備わっているので問題無くその攻撃を受け止める。

『不用意に爬虫類に接触する事は危険です』

『本当に危なかったら相棒が忠告してくれるだろ?』

『はい。ですが未知の毒も存在するので気をつけて。援護はいりますか?』

『思ったよりは力はあって速いがプラネットに比べたら只の生き物だからな俺だけで何とかなると思う。が、もしもの時は援護を頼む』

『了解しました』

 イクシオーネとの通信を終えホシモリが戦闘態勢に入ると背中の強化骨格から全身に信号を送られ身体のリミッターが外され全ての能力が上昇する。

 その能力が上がった状態で襲ってきた生物の尻尾を左手で掴むと硬い鱗は簡単に砕けホシモリの指が獣の牙のように食い込む。

 そして右手で超振動ナイフを人の目では追えない速度で動かすととても簡単に尻尾は切断された。

 尻尾が切断された事で激痛が走りかなり暴れた後にその生物はホシモリを自分の命を脅かす敵と判断し威嚇行動にでて大きな叫び声を上げた。

 その声の大きさかどうかは分からなかったが女性達は腰を抜かし少女もガタガタと震えていた。

(まぁ……女達は分かるが……なんで男達までびびってるんだよ。この生き物ぐらいじゃその檻は破れんだろ)

 少し考え間を与えるとその生き物は大きく息を吸い込んだ後に何かを口から吐き出す仕草をする。

 ただその吐き出された物は見えなかったが、本能的なものでそれを躱すとホシモリの背後にあった巨木に何かがベチャっと掛かる様なな音がした。

 そして何かを溶かす様な音がし始めホシモリが振り返ると巨木には穴が開き倒れすぐに枯れてしまった。

『……どっかの星にもこんなのいたな。不可視の猛毒か』

『虫の惑星のアサルトバグズですね。成分も少し似ています。気をつけてください直撃すると相棒でもアウトです』

『本気でサクッと倒すか』

『それはオススメしません。この星の人達があの生物を見てかなり恐怖を覚えています。その様な生物を即座に倒したとなれば恐怖の対象は相棒になるかも知れません。そうなった場合、今後友好的に接するのは不可能かと』

『俺にどうしろと……』とホシモリが文句を言うと義眼にこの辺りの3Dマップデータが送られそこには大きな滝とデフォルメされたホシモリの顔が描かれていた。

『おい。SDホシモリ君の目が×になってるんだが?』

『作戦名は翔べ!ホシモリです』

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