朝起きたら知らない世界でマイキャラでした 第9話 森の魔物

 冒険者達が帰って来ないままさらに一日が経ち、村では村長と商人達と村のハンター達で緊急の会合が行われていた。

 ミーナの父親も会合に出席しており、帰りをルディールの借りている部屋で待っていた。

「冒険者さん達、どうしたんだろうね?」

 ミーナが少し不安げに聞いてくる。

「今の所は情報が少なさ過ぎて憶測もできんからのう…あれじゃ、商人共の金払いが悪いから、怒って帰ったのではないかの」

「そんな事する人はいな……ルーちゃんがしそう……」

「少しわらわの事が解ってきたようじゃな」

「ルーちゃんさっきから新聞読んでるけど面白いの?」

「うむ。昔読んでいた新聞とは内容が全然違うからかなり面白いぞ」

「時間あったら何か読んでるもんね」

「知らぬと困る事は大量にあるからのう……逆に知ってて困る事はそんなにないのじゃ」

「へぇ~、何か面白い事書いてあった?」

 新聞に書いてあった記事でルディールが特に興味を持ったのは、空中庭園の高度が下がる、海賊と魔物多発!、吹雪の国の女王だった。

「その三つが気になったかのう。海賊とかやはり手の代わりにフックでもついておるんじゃろうか?」

「偏見だと思うよ…空中庭園は知ってるよ。空に浮いてる島があるんだけど、その中の一つだけ明らかに人工物が建っててそれを空中庭園って言ってるんだって、それがだんだん高度落ちてきて、もうすぐ飛空艇で行けるんだって。飛空艇は村には寄らないけど中央都市から王都とかに定期便がでてるんだよ」

「それは一度乗ってみたいのう。海賊と海の魔物多発!はそのまんまじゃな。後は吹雪の国で新しい女王が就任したそうじゃ。お主と同い年で最年少らしいぞ」

「ほへ~、海とか行ったことないからどんな感じなのかな?この国の第一王女様も私と同い年なんだよ。王女様とか言われても想像できないよね」

「確かにどんな生活しとるかは想像しにくいのう、案外、食っちゃ寝しとるかも知れんが…政略結婚とかはありそうじゃな」

「さっさすがに食っちゃ寝は無いんじゃないかな…」

 村ではここ数年大きな事件もなく平和だったので村人達は冒険者が帰って来ない事を不安を募らせていく。Bランクになったばかりとはいえ、やはり高ランクの冒険者が行方不明になったのが原因だろう。

 ルディールがミーナの不安を感じ取っているとミーナの父親が帰ってきた。

 ルディール達は二階から下りてきて会話に加わった。

「アンタお帰り。どうだった?」

「ああ、森へ入ったのは村長が森の様子を見てきてくれと頼んだのと、商人共が金に目がくらんだのが原因だな……」

「どういう事じゃ?」

「村長も昔はけっこう有名な冒険者だったからな、森に少し違和感があったみたいで森の浅い所だけでも見てきてくれって頼んだらしいんだが…」

「あのごうつくばりの商人共が今の時期なら七色つゆ草も取れるだろうからと森の奥まで行かせたのが原因だ。俺も少し森を見てきたが途中から追えなくなった…」

「…なるほどのう。聞いた感じじゃとその後の話の方がめんどくさそうじゃな」

「そうだな、責任のなすりつけだ」

「?お父さんもルーちゃんもどういう事?」

 ミーナの父は娘に言葉足らずだが解るように説明を始めた。

「えっと…要は村長が頼んだのが原因だからお前達が探してこい。できなかったら賠償金払って中央都市まで護衛しろって事?」

「簡単に言えばそういうこった。エニアックが言ってるだけでイオード商会やパラメト商会は中央都市に応援を呼ぼうって話してるな」

 今にも爆発して机を叩き割りそうなミーナの父親に女将が飲み物を持って来て落ち着かせる。

「えっ?でもその話だと冒険者さんは放って置いて行くって事?」

「そうだろな。Bランクぐらいだと中央都市や王都にはそれなりにいるからな」

「うわっ…最低…」

 冒険者のランクは下からEDCBASXになる。Bランクはちょうど真ん中になるが達成条件にドラゴンの討伐が含まれるためB以上は高ランク帯になる。

「それでどうするんじゃ?」

「このまま俺がブチ切れて、エニアックの奴らをぶちのめして簀巻きにするのが一番いいんだが……」

「それ絶対にダメなヤツじゃぞ……」

「それ絶対にダメだよ。お父さん…」

「アンタ、昔それして打ち首になりそうになったの忘れたのかい?」

 三人の批判をうけてしぶしぶ村長から出た案を話しはじめる。

 ミーナの父と数人のハンターで夕暮れまで探して駄目だった場合は賠償金の支払いと中央都市までの護衛をする。

「正直、俺も冒険者を離れて長いからな炎毛猿が出たら数匹でそうとうキツイ。かと言って無視して次から行商が来なくなれば村も困る」

 その案にルディールは少し考え思いついた考えを話す。

「条件は二つあるが、それが約束できるならわらわが行ってやろうか?」

「あー、そういえばルーはクソ強かったな……でもお前は部外者だぞ?」

「そうじゃが、将来的にはこの村を活動拠点にするかも知れんからのう。愛想よくしといて損はあるまい」

 ルディールは二つの条件を話す。

 一つ目はミーナの父が森に入ったと商人達に話す事。

 二つ目は村長が協力しルディールが森に入る事、冒険者を見つけた際はミーナの父が見つけたという形にする事。

「その辺じゃな。わらわの情報を商人共に話さないでくれればそれでよい。まぁ、おまけで空き家の紹介とかしてくれればありがたいがのう」

「村長も元魔物使いの冒険者だったから、こっちの味方だからその辺りは大丈夫だ。……行って見られてもだるいか……連れてくるから少し待ってろ」

 そう言ってドアを破壊しそうな勢いで開け放ち走って村長の家に向かっていった。

「ルーちゃん少し質問いい?」

 そっと手を挙げてミーナが疑問に思った事をルディールに聞く。

「ルーちゃんって凄い魔法使いなのに自分の事を隠したがるけど理由ってあるの?」

「そうじゃのう……世の中には色々な力があるんじゃ、それは魅力だったり、技術力だったり、演技力だったり、魔力もじゃな。そういう人が持ってる力を利用して金を稼ぐ連中もいるし利用する奴もいる……それが間違ってるとは言わんが巻き込まれるとめんどくさいのでな。出来るだけ避けておる訳じゃ」

 それにわらわの力は誰かに貰った力じゃしな……と周りに聞こえないぐらいの小さな声で寂しげに呟く。

 話をしていると大きな音がして、ミーナの父が白髪のオールバック隻眼の初老を思わせる男を連れてきた。

「村長さん、いらっしゃい」

 その人物が誰か分かり細かな計画を立て話を詰めていく。

「じゃあ、俺と村長が商人共に声をかけてる間に森に入るんだな」

「正確には話し合いが終わったらすぐに行くのじゃ。後は入ったら森の中では目立ちやすい所におってくれ。冒険者がおったらそこで渡すわい。まぁ変な話じゃがミンチになっておらぬなら連れて帰ってくるが……後は冒険者から商人に話がいかないようにするだけじゃ」

 その心配事に村長が答える。

「冒険者達もあまり商人をよく思ってなかったようですから大丈夫でしょう。メンツもありますしね」

 村長は見た目のいかつさとは裏腹におおらかで腰も低く話のしやすい人物だった。

「では、わらわは先に行くぞ。何があるか解らぬから早めに行動しといて損はないじゃろ」

「わかった集合場所だが、森が深くなる辺りにちょうど穴の開いたような場所がある。地図で言うとこの辺りだ」

「分かったでは行くかのう……」

 魔法でつゆ草を見つけた所まで転移しようとした所で村長から声がかかる。

「オントさん、国に帰る方法を探す途中の旅で忙しい所を申し訳ないですが、村の為にもよろしくお願いします」

 村長が申し訳なさそうに頭をさげる。

「気にするなと言えば嘘になるがあまり気にするでない。……ミーナよどうしたのじゃ?」

「ルーちゃん本当に気を付けてね。無茶したらだめだよ?」

 まかせておけ!と右手の親指を立て、転移魔法のシャドウダイブで森の中まで移動する。

「転移の魔法かよ……あいつ本当に何者だよ」

 その希少な魔法を目の当たりにしミーナの父は大きく驚く。

「ルーちゃんが黙っておいてくれると助かるって」

「まぁウチは俺が気に入らんヤツ以外は客だしな……誰でもいいか」

「今は無事にオントさんが戻るのを待ちましょう」

 四人は影に消えた少女のような魔法使いの無事を心から祈った。

 森の中の影が膨らみルディールを吐き出す。

「さてとちゃちゃっと探すかのう……獣に聞きながらでもいいんじゃが、こっちの方が速かろう」

 ルディールからしてみれば冒険者は赤の他人だが自分の手に届く範囲で助けられるなら助けようと思っての行動だった。だが聖人君子でもないので悪党なら助けないだろう。

「真なる王の指輪の中に在りし【運命の女神の導き】よ!この森の中にいるはずの三人の冒険者の所までわらわを導け!」

 指輪が金色に光りルディールよりさらに小さく、その手の人にはたまらない女の子の姿をした光が現れ、手から紙飛行機を飛ばして消える。

(なるほどのう、それを追いかけろと言う事じゃな。内密結社の方達に使い方を聞いといてよかったわい。)

 元の持ち主の暗殺ギルドの事を思い出して苦笑する。

 白く光り木々の間をかなりの速度で飛ぶ紙飛行機を追いかけてルディールが飛ぶ。

 紙飛行機は獣や魔物を避けるように飛んでいるようでかなりの距離を飛んでいても一切出会わなかった。

(冒険者達はどこまで行っておるんじゃ?森の入り口からじゃとけっこうな距離を……お?速度が落ちたのう)

 紙飛行機は枯れたかなり大きな樹の虚《ウロ》の前でとまり光の粒子になって消えた。

「おお!枯れとるとは言え大きな木じゃな!この木なんの木きになる木~♪……はっ!そんな事をしとる場合ではなかったわい…この虚《ウロ》の中におるのか?地中に繋がっておるようじゃが……」

 魔法で光の球を作り、虚《ウロ》の中を通りゆっくり地中に降りていく。

 中は大きな空洞になっており、すぐに奥から声が届いた。

「だっ誰だ」

 声の方向に顔を向けると宿で見かけた三人の冒険者の顔があった。

「村の使いでお主達を探しに来たものじゃ」

 その言葉を聞いた三人はほっと安堵してため息をつき自己紹介を始める。 

「助かったBランク冒険者【火食い鳥】のスティレ・ヴァンキッシュだ」

 動きやすさを重視した赤い軽鎧に身を包んだ剣士のような女が自己紹介をし残り二人が後に続こうとするがルディールがそれを遮る。

「すまぬが自己紹介は後じゃ。お主達の雇い主が少々わがままを言っておってな、面倒な事になっておる。先に帰るのじゃ」

「そうしたいのは山々だが、炎毛猿共と戦ってこちらに逃げ込んでから身動きができん」

「あの猿達は賢いからここに誘導されたと思うわよ」

 背中に大きな弓を背負い緑を基調としたレンジャーのような女が意見する。

「じゃが、出ぬ訳にも行くまい。わらわが相手をしてやるわい」

「はんっ、アンタみたいな小さいのに何が出来るのよ」

「そうじゃな。迷子の三人ぐらいなら見つけられるぞ?」

 弓を持った女が言い返そうとした所で、大きな杖を持った左右で瞳の色が違う魔法使いのような恰好をした女から声がかかる。

「……カーディフ……ストップ。その人がこっちを殺す気になったら数秒もたない」

「はいっ?嘘でしょ?……」

「?……何かカラクリがあるようじゃが後でええじゃろ。ではリーダー殿でるぞ?」

「……分かった。メンバーの中では彼女が一番強いし助けられてる。……彼女がそう言うならそうなんだろうな」

 ルディールと魔法使いは魔法で空を飛び剣士とレンジャーは壁を蹴り三角飛びで外に出る。

「……やはりおるか」

 ルディール達を囲い込む要に数十頭の炎毛猿達がこちらを見ていた。

 襲い掛かっては来ずに、こちらを観察するような様子にルディールが話しかける。

「猿達よ!何があったかは知らぬがここは退いてははくれぬか?三人は知らぬがわらわは敵対するつもりは無い」

 ルディールが猿達に話しかけている意味が解らず、レンジャーの女は少し馬鹿にしたように話しかける。

「アンタ何言ってんの?魔物が人の言葉を理解する訳ないでしょ」

 その言葉を無視して猿達の雄叫びやさけび声に耳を傾ける。

「なるほどのう……お主達は殺しすぎじゃ」

 ルディールの答えに三人は目を見開かせ驚く。

「殺したら殺されるぞ?殺さなくても殺されはするが…つゆ草を取るついでで命は奪って良いものではないと思うがのう?…村の為でなかったらこのまま捨てていくんじゃがな」

 魔法使いの女がどうしてその事が解ったのか聞こうとしたが猿達の群れの中から一際おおきな雄叫びがあがり。木々の間から白い炎を纏った大きな炎毛猿が現れた。

「また会ったな!」
「だから言ったのに!」
「……」

 三人の冒険者は素早く戦闘態勢に入るが、ルディールは戦闘態勢には入らず此方には敵意がないと思わせ話し出す。

「お主がこの群れのボスか?」

 白い猿はルディールの問い掛けにすぐ戦闘に入れる様に警戒しながら答える。

「ソウダ。ソノ三人、ヨコセ。ソイツラハ仲間ヲ殺シタ」

「何!人の言葉を話す炎毛猿だと!」

「嘘でしょ!?」

 驚く三人を無視してルディールは話を進める。

「そうじゃな……わらわも友人や仲間を殺されたら、ぶっ殺して簀巻きにして川に流すが……こちらの都合で悪いが退いてはくれぬか?」

「イヤダ。オ前ノ都合ナド知ラヌ。オ前ハ仲間、殺サナカッタ、見逃シテヤル。カエレ」

「はぁ……それはそうじゃな……」

 冒険者達とボス猿の顔を見比べて、このまま帰ってよいか?と思いながら平和的に解決する方法を悩んでいると、レンジャーの女がボス猿に矢を放ちそこから戦闘が始まった。

「待て!お主達!」

「平和的に解決しようとするのはいいがそれが通じない奴もいるという事を覚えておけ!」

 などと女剣士に言われ、それで良いならわらわは楽なんじゃがな……とルディールは頭を悩ませる。

「だから、少しまて!」

「うっさい!アンタも手伝え!」

 流矢や飛んでくる炎をかわしながら冷静に話す。

「……分かった。ではお主達の言うように平和的でない方法で解決してやろう」

 その一言で魔力を一気に開放し矢より早く飛びレンジャーの女の腹に蹴りを入れる。

「ぐえっ」

 その一撃で気絶させ次の目標の剣士に向かって飛んでいく。

「なっなにを!」

「人の話を聞かない奴が、人に話を聞いてもらえると思わぬ事じゃ。覚えておけ」

 右足で女剣士の剣を蹴り砕き、その高く上がった足をそのまま振り下ろし、肩にかかと落としを決め地面に叩き付ける。

「ガハッ!」

「……さて、魔法使いとボス猿お主達はどうする?」

 魔法使いは『……私は最初から降参しています』と両手を小さくあげ戦闘の意思がない事を示す。

 白い炎毛猿は体の炎をさらに大きく燃え上がらせルディールを威嚇する。

「我ラハ、強者ニシカ従ワヌ。従ワセタクバ、力ヲミセヨ!」

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