朝起きたら知らない世界でマイキャラでした 第8話 行商と冒険者

 ミーナの魔法の練習に付き合ったり村を見て回ったりして数日たった頃、村に重種馬をさらに二回りぐらい大きくした馬が数頭、荷馬車を引き数人の行商人達がやってきた。

 自室でこの世界について勉強していたルディールをミーナが誘い行商が出す露店に向かう。

「でっかい馬じゃな~荷馬車も大きいのう」

「かなりの重さまで運べるらしいよ?」

 馬を見ながら話しているとヒヒン!と馬が鳴いた。

「ほー。車輪さえあれば、平屋ぐらいまでなら運べるのか!すごいものじゃな」

「ルーちゃんの性格からして、それっぽく適当に言ってるだけだよね!?」

「ふっふっふ。さてどうじゃろうな?」

「そういう言い方されたら余計に気になる!」

「ゆっくり見ようと思うたが、けっこう人がいるのう…」

 露店の様子を眺めると村の人々が思い思いの場所に足をのばし色々な物を買ったりしていた。

「そだねー小さい村じゃないけど、娯楽も少ないから行商さんが来て露店を出してくれるのが一つの楽しみだしね」

「なるほどのう。さてわらわも大牙じしの素材を売りに行こうかのう」

「じゃあ向こうの方の露店だね」

 二人は軽く露店を見ながら目的の場所に向かう。その店には大きな虫の殻や獣の皮や角などがあり村の人々も売り買いをしていた。

「素材の買い取りを頼みたいんじゃが良いか?」

「はい、大丈夫ですよ。貴族の方ですか?」

 ルディールの身に着けている物やアイテムバック等を見て商人が軽く計算しそう聞いてくる。

「いや違うぞ、迷子の魔法使いじゃな。ここにおけばよいか?」

「…はい。ここでお願いします。」

(ルーちゃん絶対に迷子の魔法使いって気にいってるんだ……)

 査定してもらう為にアイテムバックから素材を取り出し指定の場所に置き、商人達が計算をしているあいだ露店の商品を見て回る。

「こう……何か心躍るのう」

「えっ?骨とか皮とか素材しかないよ?」

「わらわがいた所はこういう物がほとんどなかったのでな。おっ!ミーナよ!これ買ってやろうか!」

「わっ!ルーちゃん!それ欲しかったんだ!って魔虫の頭もってきて喜ぶ女の子はいないからね!」

 人の頭より少し大きなカミキリ虫のような頭部を持って来たルディールにそう答える。

 商品を見て回っていると査定が終わったようでルディールが呼ばれる。

「査定が終わりました。全部で金貨30枚と銀貨6枚になります」

「うむ。わかったではそれで頼む」

 何の疑いもなく素材をすべて売却する。

「よし、ミーナよ一度、お主の家に戻ろう」

「?どうしたの?」

「纏まった金が入ったからのう。まだしばらくはこの村におるつもりじゃから、先に数日分でも宿代を払っておこうと思っての」

「お父さんもお母さんもそういうの気にしないから後でいいと思うよ?」

「甘いな!ミーナよ!わらわの事をまだ解っておらぬな!先に払っておかねばいらない物を大量に買ってすぐに資金が尽きるのじゃ!」

「自分でいらない物とか言っちゃ駄目だよ!……じゃあ、一度戻ろうかー」

 宿に戻ってくると女将さんが三人の女性冒険者のような姿をした人達の受付をしていたので裏に周りミーナの父を探すと目的の人物はすぐに見つかった。

「おう。ミーナとルーかどうした?」

「うむ。纏まった金が入ったのでな、とりあえず十日分ほど先に宿代を払いに来たのじゃ」

「肉代やミーナの授業料もあるから十日分くらいならタダでいいぞ?」
 
「私の授業料……」

「そういうのを気にするぐらいなら貰っておけ。目には目を労働には賃金をじゃぞ。おいしいご飯と部屋を綺麗にしてもらっておる礼じゃな」

「わーったよ。じゃあ十日で金貨4枚だな」

「あっお父さん照れてる~」

 娘に指摘され少し照れながら機嫌よく文句を言う。

「うっさいほっとけ。そういやルー、言いたくなかったら答えなくていいんだが、あのししの素材はいくらで売れたんだ?」

「金貨30枚と銀貨数枚じゃな」

 その値段を聞いた途端にミーナの父はかなり機嫌が悪くなった。

「ちっあいつら……ルーかなり足元見られたな」

「そうなのか?」

「ああ。あの大きさで毛皮や牙がキレイに残ってるヤツなら金貨50枚はいくだろうな……ちょっといってきてナシつけてやろうか?」

「金貨50枚……私のお小遣い何か月分だろ……」

「うむ。別にええわい。ちと高い授業料じゃろう」

「おいおい20枚も損してるんだぞ?」

「思う所がないと言えば嘘になるが、初手の取引でお互いの信用もない内にその手の事をしてくる商人など今後はある程度の付き合いでええからのう。それが解っただけでも儲けじゃ。ミーナよ先ほどの行商はどこの商人かわかるか?」

「えっと確かエニアック商会だったかな」

「ちっあそこか。最近あんまいい話を聞かない所か……本当にいいのか?」

「構わんよ。誠実に取引できぬ商人に関わりたくないからのう」

「じゃあ俺からは何も言う事はないな」

「うむ。では先に宿代を渡しておくぞ」

 アイテムバックから一枚多く取り出しミーナの父に渡す。

「では今晩もおいしい料理を頼んだぞ」

「おいおい……はぁー。お前には敵わんな」

「そういえば宿に冒険者さんが来てたけど、どうしたの?」

「あーあれか。行商共の護衛の最近ランクBになったばかりの冒険者らしいぞ」

「うえっ⁉なんでウチみたいな所に泊まりに来るの⁉」

「しらねーよ。その冒険者の魔法使い様がこの宿には聖霊がいるとか言って、この宿に泊まるんだとよ」

「へぇー、こんなボロ宿に聖霊とかいるわけないのにね~」

「……ミーナお前、今日は晩御飯無しな」

「ちっちがうの!おっお父さん!ルーちゃん助けて!」

「安心せい!わらわが責任もって代わりに食べてやるわい。ところで商人達はいつまでおるんじゃ?」

「そうだな。あいつら次は中央都市に行くから2~3日は村に留まると思うぞ」

「なるほどの~その間に小遣い稼ぎでもするかのう」

「あん?森に入って獣でも狩るのか?」

「こちらに危害を加えるなら別じゃが、探してまで殺そうとは思わんからのう。小遣い欲しさに森の奥まで入る娘を連れて、薬になりそうな草花でも取りに行ってくるのじゃ。連れて行って良いか?」

「最近、体もなんか楽だしな。ルーがよければ連れて行ってやってくれ」

「うむ。では借りてゆくぞ。ほれミーナよいつまで凹んでおるゆくぞ。あっそうじゃ。この辺に猿のような魔物はおるか?」

「森の浅い所にはいないが、奥の方に炎毛猿ってヤツがいるな」

「ふむ、強いのか?」

「あー、単体なら大牙じしの方が強いが群れでいる上に一匹一匹がかなり賢いから面倒だな。読んで字のごとく体毛が炎のように燃えている魔物だ。でかい群れになると白い炎の奴がいるんだが、そいつはAランクの冒険者でもしんどいな」

「了解した、見かけたら逃げるのじゃ」

「そいつが賢明だな」

 まだ微妙に凹んでいるミーナを連れて一度、薬屋の老婆の所に向かい、おすすめの薬草の本を聞き本屋によって目的の本を買う。

「さすが薬師殿じゃな。この薬草の本はかなり見やすいのう」

「おばあちゃんそういうの詳しいからね。後この時期に取れるおすすめ薬草のメモくれたよ」

「ありがたいのうではさっそく森へ行くかのう……ん?」

「どうしたの?あーさっきの冒険者さん達だね。村長の家から出てきたけど何かあったのかな?」

 その内の一人の魔法使いと目が合い軽く会釈をされ冒険者は森の中に入っていった。

「お主の知り合いか?」

「ルーちゃんの知り合い?」

「……二人して同じ事を言うという事は違うようじゃな」

「ルーちゃん見た目だけは貴族様だから頭下げたんじゃないの?」

「よせ、照れるではないか」

「……褒めてないけどね」

 二人は魔法の練習をした草原で炎のニワトリを見かけたが無視して森の中に入って行く。

「あのニワトリまだいたんだ…」

「なかなか消えんのう。決着を付けなくて良いのか?」

「私の負けでいいよ!」

 ルディールは楽しげに微笑み、そのからかっている態度にミーナは口を尖らせる。

「ここまで来ればええじゃろ!ミーナよ草むしりをするぞ!」

「草じゃないよ!薬草だよ!」

「一番高い草はなんじゃ?」

「ええとね……おばあちゃんのメモだと…七色つゆ草だね……うわっ!たっか!金貨10枚で買い取るって!」

「よし!それじゃ!それを探すのじゃ!」

 二時間後……

「無いのじゃ……薬草、毒消し草はもういいのじゃ」

「これだけあればいいお金になると思うんだけど……」

 ルディールの方を見てミーナがかなり何か言いたそうな顔をしていた……

「なんじゃい。わらわの顔に何かついておるか?」

「いやあのね……さっきからかなりの数の獣に会ってるよね!首狩り兎とか!岩割き熊とか!」

「うむ。おったのう」

「なんで襲ってこないの!ルーちゃんが『すまぬが七色つゆ草を探しておるだけで、お主達の縄張りを荒らしとる訳ではない。もう少ししたら去るから待っててはくれぬか?』って言っただけでどこか行くの⁉」

「はっはっはー不思議じゃのう~それともお主あれか?獣を見たらぜったい殺すマンの方がよいのか?」

「いや……殺さなくていいよ!不思議に思っただけだから……」

「お主も大変じゃのう」

「私、ここ数日で一生分驚いた気がする」

「大丈夫じゃ。世界は見えているよりは狭いが、思っているよりは広いものじゃ」

(牛や馬の時にも思ったが確定じゃな……真なる王の指輪の中の獣の王の指輪のおかげじゃな……)

【獣の王の指輪】テイム100パーセント成功。獣達にこちらの意思がつたわり不要な戦闘は回避できる。知恵の高い獣達とは会話できるようになる。

(ゲーム中はそこまですごい指輪ではなかったがこっちの世界じゃとかなり使えるのう)

「あっ。あった」

 ルディールが物思いにふけっているとミーナの少し間の抜けた声がとどく。

「何があったんじゃ?」

「七色つゆ草……えっ?うそ本当に?」

 半信半疑で目的のつゆ草を引き抜く。

「ルーちゃんどうしよう……ってどうしたの?」

 ルディールが森の中をキョロキョロと見渡して難しい顔をしていた。

「囲まれてはおらぬが増えておるのう」

「えっえっえ?」

(自分だけなら別に良いが友人に何かあってからでは遅いからのう……)

「ミーナよ、それをちゃんと持っておれよ。それと手を出せ」

「はっはい!」

 困惑する友人の手を握りルディールは魔法を唱える。

「シャドウダイブ!」

 影が二人を飲み込みルディールの指定した場所まで影伝いに高速で二人を運び、目的の場所ではき出す。

 二人がはき出された場所は見慣れた宿屋のルディールの部屋だった。

「えっえっえっはい?」

「無事に成功して良かったわい。転移魔法もちゃんと使えるんじゃな」

「ルーちゃん……今のは?」

「転移魔法の一種じゃな。知っておるか?」

「驚きすぎると逆に冷静になるんだね……転移は知ってるけど使える人はこの国に五人もいないと思うよ」

「そうか…ならば内緒にしてくれると助かるのう」

「えっうん。黙っておくけど……ルーちゃんって本当に凄い魔法使いだったんだね……もしかして助けてくれたの?」

「わらわが凄いかはどうかはわからんがな……助けたと言うより不用意な戦闘を避けた感じじゃな」

「何かいたの?」

「たぶん炎毛猿じゃな。森に入って少ししてからこちらの様子を見ておったんじゃが、少し数が増えて来たのでな、目的の物も手に入ったから戦闘になる前に帰って来たんじゃ」

「そうなんだ……それでもありがとね」

「いえいえ。どういたしましてじゃな。さて気を取り直して、七色つゆ草や薬草を売りに行くぞ!」

「そうだった!見つけたんだった!」

 階段を下りて一階にいる女将にいつ帰って来たんだい?と聞かれ誤魔化しながら外に出る。

「そうじゃ。親父殿に声かけといた方がええじゃろか?」

「うん。その方がいいかもお父さんも仕事の合間でハンターやってるから助かると思う」

 店の裏にまわり目的の人物に声をかける。

「なんだ?またお前達かどうした?」

「一応報告じゃ。森のそこまで深くない所で猿がおったぞ」

「……わかった。他の連中にも声をかけとく」

「どうするんじゃ?」

「しばらくは様子見だな。村までは来ないと思うが、無理して森に入って狩るほどでも無いからな」

「わかった。こちらも刺激しないようにしばらく森に入るの控えるのじゃ」

「ああ、悪いがそうしてくれ」

 報告を終え当初の目的の薬屋に行き老婆に七色つゆ草を見せるとたいそう驚かれ薬草等と全部で少し色を付けてもらい金貨13枚になった。

「さすがに私がつゆ草代を全部貰うのは嫌だよ!」

「別にええんじゃがのう……ではお主が7枚でわらわが6枚じゃほぼ半分だからええじゃろ」

「私は全然いいけど。ルーちゃんは良いの?」

「見つけたのはお主じゃし、学校にいくなら色々と金もいるじゃろう。ただし……」

「ただし……?」

「無駄遣いはするなよ?」

「私のセリフだよ!」

「それだけあればしばらく森に入らんでええじゃろ」

「さすがに入らないよ……」

 それから二人で露店を回り不必要な物から必要な物まで色々と買い物をしたりして一日が終わろうとしていたが、森に入って行った冒険者達は帰って来なかった。

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