村の案内を終え、一度ミーナの家に戻り昼食を取りながら話を聞く。
「お主、魔法学校とやらに行くんじゃろ?魔法が使えるのでは無いのか?…このサラダおいしいのう」
「使えないよ~…少し前に中央都市に行ったんだけど、その時に魔力測定みたいなのやってって、お父さんに言われて受けてみたら…他の人の倍ぐらい魔力があってね」
「はむはむ……このハムもなかなか」
「その時ちょうど魔法学校の先生みたいな人が来てて、学園にきませんか?って誘われたんだよ…」
「なんじゃ、お主行きたくないのか?」
「行きたくないよ!あんな所は貴族様が通う所だよ!私みたいな田舎娘が行く所じゃないよ~」
「じゃあ行かねばええじゃろ?」
「お父さんが若いうちの苦労は買ってでもしろって…」
「そのセリフは売り手のセリフじゃし。歳とっても苦労はするから、若いうちから無理してせんでもええとは思うがのう」
「それ、お父さんに言って~。寮と食事のお金とかは学校から出るからいいんだけど、私ほんとうに魔法使えないから絶対に貴族様に虐められるよ~」
「そうじゃな~…おーほっほっほっほ!そこの愚民よ。魔法も使えないのにどうしてこんな所にいるのかしら~おーほっほっほ。ぐらいはいると思うぞ」
急にルディールが普段と違う声を出したのでミーナは驚きの声を上げる。
「ルーちゃん⁉どこから声だしたの⁉……ほんとそういう感じの貴族様がいたらどうしようかと思ってね」
「ぐみんなさいって言えばええじゃろ」
「それ、ぜったいに馬鹿にしてるからね。他にもいろんな人がいるんだろうな~」
テーブルの上に顎をのせだらしない恰好で文句をいう。
「そうじゃな~王子とか王女とかいるかもしれんのー。そういうのがいたら、そういうのを守る騎士とか戦闘メイドが一緒におるかもしれんのう」
「騎士⁉戦闘メイド⁉」
「もしくはお忍びで入学の王族がいるかも知れん。その時は教師陣に警護で強い先生がおるかものう」
「えっえっえ?」
ルディールは目を輝かせ色々語るがミーナはさらに困惑していく……
「まとめると。王族、侯爵、騎士、戦闘メイド、縦巻きロール、悪役令嬢、全属性使う村人、聖女、転生者、あとはなんじゃろ?そんなのが学校にはおるぞ?」
「それ聞いてさらに行きたく無くなった……でも大丈夫!私ぜったいに一番ランクの低いクラスだから大丈夫だよ?」
「何を言っておるか!そういうのがいたらそれを狙う奴が教師陣におるかもしれぬじゃろう!」
ルディールが生き生きと話していると奥から女将さんが出てきて呆れながら二人を叱った。
「こら!アンタ達、いつまでもそこにいたら片付けができないだろ!オントさんもミーナに変な事教えないの!」
「うむ、分かったのじゃ。ではミーナよゆくぞ!」
「えっどこに?」
「魔法の練習じゃ!では女将。娘さんを借りてゆくぞ」
「ルーちゃん!ありがとう!」
二階の自室からミーナに借りた初級の魔法書を手に取り、村から少し離れた森の手前の草原にやって来た。
「やって来たのはいいが、放牧しておるのう」
「この辺は魔物も獣も魔物もあまり出ないのを牛達も知ってるんだね」
「ほれ牛達よ。この辺りで魔法でドンパチするから、ご飯時にすまぬが少し離れてくれるぬか?」
一匹の牛がルディール近づきモォーと低く数回なき、一頭また一頭とルディール達と距離をとる。
「ふむ。なるほどの~。ミーナよこの辺りに猿のような獣か魔物はおるか?」
「えっ?ん~森の奥の方にいるみたいな事は聞いた事はあるけど……お父さんの方が詳しいかな?どうしたの?」
「牛がここ数日で何回か見たから少し気をつけろと言うておったぞ?」
「へぇ~そうなんだ……じゃなくて。ルーちゃん牛と会話できるの?」
「そうじゃな。前世は牛じゃしのう」
「えっ!本当に?」
「嘘じゃわい。もう少し人を疑え、それともわらわが牛にでも見えたか?」
「うっ嘘なんだ……牛……がんばれば見えなく……ないね……」
「角も生えとるし似たようなもんじゃろ。さてと……」
ルディールは軽く魔法を唱え。目が大きくコミカルにデフォルメされた的になるかかしを作り出した。
「とりあえずミーナの魔法がどんな物か解らぬからそのかかしに一発ぶちかましてみるのじゃ」
「えっ?魔法発動しないよ?」
不思議そうにするミーナとは対照的にルディールは笑って答える。
「それを含めてじゃ、気にせずにやってみい」
「わっ、わかったよ」
ミーナは少し難しい顔してかかしに向かって魔法を唱える。
「炎よ!ファイヤーボール!」
その声に魔法は答えずただすずしげな風が二人の間を通り抜けていく…
「やっやっぱりでない……」
そう落ち込むミーナとは別にルディールは自分の感じた事を口にする。
「だいたい解ったのじゃ。それと言い忘れておったが、わらわの国(ゲーム内)の魔法とこの国の魔法は少し違うから、教えられるのはお主に借りた本の考えがメインになるがよいか?」
「それは全然いいけど。今ので解ったの?」
「ある程度はの……お主、魔法が何かわかっておらぬじゃろ?まずはそこからじゃな」
(寝ずに魔法書よんで色々と試してよかったわい魔力の制御もできるようになったしのう)
「よし、わらわと向かい合ってそこに座るのじゃ」
「えっとここでいい?」
二人は向かい合って草原に座り、ルディールはミーナの手を取り目を瞑らせる。
「では、ゆっくりと魔力を流すぞ」
ルディールは自分の魔力をミーナの体にゆっくりと循環させる。
「どうじゃ?わかるか?微妙に生暖かいのが流れておるじゃろ?」
「わっわかる!」
ルディールは手を放し次の指示を出す。
「次は今、体に流れておる温かいものに集中して手の平に集まるように意識するんじゃ」
「うん、わかった」
しばらく集中していると、手の平からが少し暖かくなり小さな光を出す球体が出てきた。
「ほれ、目をあけてみい」
「わっ!ルーちゃんこれ何?」
「それが魔法の元になる力の魔力じゃ。そのままぶつけてもよいが魔法の練習じゃしの、魔法にせんとのう」
「どうしたらいいの?」
「ふむ、とりあえずはあと数回ほどその球ん子を出したり消したりするのじゃ」
「わっわかった」
最初は苦戦したものの少しコツを掴み手の平から光の球を出すのが少し早くなっていった。
「うむ、いい感じじゃな。そういえばいつから学校にいくんじゃ?」
「一応来月ぐらいだね。ルーちゃんも一緒に行かない?……」
「行かないのじゃ!来月か……それぐらいの時間があれば【量産型村娘ですが入学前に迷子の魔女に鍛えられたら無双できた件について……】ぐらいはいけるじゃろ!
「ぜったいに別件だよ!無双してどうするの!」
「それぐらいの気概で行けと言う事じゃ!さて次は詠唱じゃな、そうじゃの~」
少し休憩をはさみ、魔法と詠唱の関係をルディールの解る範囲でミーナに説明する
「ルーちゃん、詠唱っているの?」
「慣れればいらんじゃろうが、最初の内は基本通りが無難じゃ。基本が出来てないと応用もきかんしのう。目の前で光が炸裂したりするのじゃ……」
昨夜の事を思い出し自分も気を付けねばいけないのじゃ。などと思いながら話していく。
「そうじゃな~少し解り難くてすまぬが、詠唱と言うのは卵の殻じゃ」
「えっ卵の殻なの?」
「そうじゃ、卵の殻じゃ。そして魔力が中身じゃ、殻と中身があれば卵になるじゃろ?そしてファイヤーボールなどの魔法名で孵化させる感じじゃな、見ておれ」
「炎よ!鶏を形作り、体現せよ!フレイムコッコ!」
唱え終えた瞬間に大きな炎が舞い上がり少しずつ小さくなりながらニワトリの形を作り出しその場で動き出した。
「とっ鳥さんだ…」
「炎よ!の部分は自分が想像しやすいモノで良いぞ。水でも土でも雷でも」
「えっ?何でもいいの?」
「自分が一番想像できるのが自分に一番あった属性じゃとわらわは思うておるからのう」
「氷とかかっこいいよね!氷でいいのかな?」
「憧れで選んでも全然良いが、氷は味方が使うと大した事ないうえに、相手が使うと厄介な事このうえないからおすすめしないのじゃ」
「え?魔法ってそういうのあるの?」
「名前の語頭にアが付いて雷魔法使えたら高確率で勇者じゃぞ?」
雑談を踏まえ間違った知識というか偏見をミーナに教えていく……
「無難なのは水と土じゃな。どちらも攻撃も防御もいけるからおすすめじゃな。それを踏まえて、もう一度やってみい」
「水よ!弾となりて、敵を打て!ウォーターボール!」
ミーナの手に小さな水が溜まり山なりに飛んでいきかかしにパシャッと当たり消える。
「やったー!やった!魔法が出た!ルーちゃん出たよ!」
「うむ。おめでとうなのじゃ!」
ミーナは初めて魔法を使えた嬉しさのあまりルディールの手を取り飛んだり跳ねたりして少し落ち着いた後に。
「もう少し威力と言うか、山なりに飛ばないようにするにはどうしたらいいの?」
「後は魔力の大小とイメージじゃな」
「イメージ?」
「今の魔法じゃと弾となりて、敵を打て!の部分になるんじゃが、別に本の通りに詠唱をする必要はないぞ。そうじゃな」
ルディールは説明するのに魔法を唱える。
「水よ!お風呂の渦を模して捻じれ巻け!ウォーターサイクロン!」
的にしているかかしの周りに大量の水が集まり凄まじい勢いの水の渦が捻じれ巻く。
「えっ?ルーちゃんかなり適当な詠唱してるのに何でそこまで威力がでるの?」
「適当じゃが想像はしやすいじゃろう?イメージがしっかりしておればあのような詠唱でもちゃんと発動するのじゃ。まぁわらわの魔力はかなり高いと思うがの」
「はぁー……そうなんだ」
ミーナは素直に感心し頷く。
「他に何か聞きたい事はあるか?」
「魔法名も詠唱と同じでイメージできればなんでもいいの?」
「そうじゃな、卵から孵化してヒナになる所じゃから形にできればなんでもよいぞ。先ほどもコッコでニワトリにしたしのう」
「なるほど~」
「後は、炎よ!剣を作りて敵を殴れ!みたいな感じじゃと、剣なのになんで殴るんだよ!切れよ!となるからその辺は自分で言葉遊びをしながら慣れればええじゃろ」
「わかりました!先生!」
「お主に借りた初級の魔法書じゃとのっているのはそのような感じの事じゃな。学校に行きだしたらもっと詳しく習うじゃろう。かかしも壊してしもうたし、今日はここまでじゃな」
ルディールがそう言ってミーナの方を向くと先ほど習った事を復習するように炎をで作ったニワトリめがけて魔法を放つ。
「土よ!泥団子の玉のようになりて敵を打て!マッドバレット!」
先ほどより少し上達したミーナの魔法が炎の鶏に当たる……
「ルーちゃんどう?これで私も魔法使いだね!」
などと調子にのっていると泥団子の直撃を受けたニワトリがキレてミーナに襲い掛かる。
「コケー!コッコケー!」
「いった!いた!あつっあつ!あつい!ルーちゃん!」
「コケー!コケコケ!」
「ニワトリとはいえ、わらわが出した魔法じゃぞ?その程度で消えるはずがなかろう……」
「いたっ!ルーちゃん!助けてーあつぅ!」
「コケーー!」
「己の力を過信した者の末路か……わらわもああならない様に気を付けねばならぬのう」
ニワトリに追っかけられる友人を見て、いくら力があるからと言って不用意に使えば自分に返ってくるという事を学んだルディールだった……
