ベットの上に仰向けになり少女は一人愚痴る。
「ぐふっ…おのれ…あまりの美味さに食べ過ぎたのじゃ…異世界のご飯は美味しくないのではなかったのか…マンガ肉とか出てきたのじゃ…」
すこし時間が経ち動けるようになったルディールは少し気になっていたアイテムバックの中身の残りを確認しはじめた。
「しっかし本当にロクな物が残っておらんのう。ポーション系の回復アイテムが十数本、魔力回復薬が数個、万能薬も数個と命の雫も数個…後はアクセサリーがちょこちょこと…風の精霊の小箱のような拠点配置用の家具が多々…拠点配置テイムモンスターが…えぇと、デスコックとコボルト(柴)とかかのう…これ使用したらモンスターでてくるんじゃろうな…信頼度はMAXじゃったはずだから襲い掛かってはこんと思うんじゃがのう…」
命の雫のような死亡復活アイテムは自身が死んだ時には使えんじゃろから一度、人体で実験したいのう、などと物騒な事を考えながら整理していく。
「まぁ、こんなもんかのう。家具等は家でも買ってから配置じゃな。一度バックから出して、再度入らんかったら最悪じゃしのう。アイテムは最後にゲームプレイ時にアイテムバックに入っていた物のみ持ってきたと言う感じじゃな」
そう言いながら出したアイテム等を片付けて寝るには早い時間なので次にする事を考える。
(そういえばミーナが学校のような所に行くと言っておったな…となれば魔法や地理に関する本でも持っておらぬか?少し聞いてみるか)
部屋を出て一階の冒険者達や村の人々が楽し気に飲みあってる食堂を通りカウンターにいる女将さんにミーナの部屋の場所を聞き目的の部屋に向かい、コンコンと戸を叩き部屋の主の返事を待つ。
「は~い。ちょっと待ってねって。ルーちゃんどうしたの?」
中に掛かっていたカギが開き目的の人物が顔を出す。
「ゆっくりしておる時に申し訳ないが、ミーナは学校に行くと言っておったじゃろう?」
「うん、王都の魔法学校にいくよ!」
「それでなんじゃが、魔法とか地図が乗った教科書のような本は持っておらぬか?あれば少し見せてもらいたいんじゃが」
その言葉を聞きミーナは目を輝かせルディールを中へ招き入れる。
「教科書はまだないけど、お父さんの友達にもらった初級の魔導書と地図があるよ!」
「そっそうか」
少しテンションの高いミーナに戸惑いながら部屋を見渡すと窓はないが、小物やぬいぐるみが置いてありいかにも女の子の部屋だった。
「窓は無いんじゃな。」
「そだねー。窓付きの部屋はお客さん用だからね~」
「なるほどの~。それで四畳半の男の部屋の匂いがするんじゃな…」
「はいっ?何!そのすごい変な匂いは!四畳半ってなに?えっ?えっ?そんな匂いしないよね?ね?」
「安心せい。冗談じゃわい」
そんな匂いが田舎娘とは言え、年ごろの娘からしたらたまったものではないとミーナは胸をなでおろした。
「あーよかった……ルーちゃん見た目だけは貴族様なのにちょこちょこ変な事言うよね……」
「うむ!気にするでない」
「はぁ……えぇとこれとこれとこれかな?」
小さくため息をつき、見た目だけは貴族様が求めているであろう本を机の上から数冊手に取り渡す。
「勉強しておったのなら別によいぞ?」
「だめだよ!困った時はお互い様だよ!ルーちゃん。勉強なんてやる気さえあればどこでもできるんだよ!そう!やる気さえあれば!だから大丈夫だよ!」
「……お主。勉強したくないんじゃな」
「そっそんな事はないよ?今は休憩時間だよ」
ルディールの返答に鳴らない口笛を吹きながら誤魔化す。
「まぁええかのう。……では少し借りていくぞ?後で親父殿に怒られても知らぬからな」
「うぐっ……だいじょうぶ……だいじょうぶ。お父さん怖いけど、たぶんきっと大丈夫だと思う」
「父の叫びは波の音というぐらいじゃぞ。あっ!そうじゃ」
ルディールは何かを思い出したようにアイテムバックを漁り一つの小さな箱を取り出し。ほれ、これをやろう。と小さな箱を投げて渡す。
「わっわっわっ……これなに?綺麗な箱だね」
「通称のの箱。風の精霊の小箱じゃ。箱を開けて置いておくと見えはしないが小さな精霊が部屋を綺麗にしてくれるらしいぞ。まじないの類《たぐい》じゃな」
「えっ?貰っていいの?すごく高そうな感じがするんだけど……」
「別にええわい。まだあるし村まで案内してくれた礼じゃ」
「じゃあお言葉に甘えて。ルーちゃんありがとね、さっそく飾るよ。」
「うむ。ではわらわは部屋にもどるかのう」
「勉強がんばってね!」
「それはこっちのセリフじゃわい!」
二人で少し笑いあいルディールは自分の部屋に戻っていく。
(のの箱か懐かしいのうー。たしか新規プレイヤー救済アイテムで拠点設置時に習得経験値アップと拠点を過ごしやすい環境に整えるじゃったかのう。Lvがないんじゃから経験値とかもないじゃろ)
・・・
・・
・
「さてとまずは地図で位置の確認じゃなその前にわらわも、のの箱かざっておくか」
小箱を窓際に置き部屋のランプ付け机の上に地図を置き現在地の場所を確認していく。
(リベット村がここじゃから……この大きい森が飛ばされてきた所じゃな?……村から南の方向に進むと中央都市カプラという都市があって……さらに南に王都ローレットがあるんじゃな?でこの辺りの大陸がローレット大陸か……北の方はと……)
などと地図で地形や場所を調べていく。
「今の所はいいが、落ち着いたら中央都市や王都にも行ってみたいのう。地図も世界地図ではないようじゃしな。しかし聞いた事もない地名ばかりじゃな。大陸も知っておる形とまったく違うしのう」
地図をキレイに折り畳み魔法について書いてある書物を手に取る。
「この世界の魔法とゲーム内の魔法の違いを確認せねばなるまい」
一ページ、一ページ丁寧に読んでいく。
「……困ったのう普通に面白いのじゃ。確かに小難しい事は書いてあるが内容理解はできるのう」
なぜ見たこともない文字なのに読めるのか?など少し考えるが初めて見る魔導書の面白さにそういうもんなんじゃろ。と考える事をやめて本を読んでいく。
(前の世界と比べると電力の代わりに魔力という感じなんじゃな……電気もあるが魔力→電気という感じに変換するんじゃななるほどの~)
「この本の内容じゃと、わらわが使う魔法もこの世界の魔法もそこまで大きな違いは無い感じじゃな。ゲーム内ではもう新しい魔法は覚えられなかったんじゃがこの世界の魔法なら使えるかのう?まぁ物は試しじゃ」
魔導書の初級魔法のページを開きその魔法を唱える。
「詠唱とかあるが適当でええじゃろ!まぁとりあえず光るのじゃ!ライト!」
適当に魔法を唱えた瞬間。ライトという小さな光の魔法はルディールの膨大な魔力と指輪の力で増幅され一気に目の前で炸裂し閃光弾の数十倍の光量が詠唱者を襲う!
「ぬおぉーーー!目がぁ!目がぁ!わらわの目がぁーーー!」
その途方もない光量を超至近距離から直撃をくらいルディールは床の上をのたうち回る。
ゴツン!
「いった!頭ぶつけた!えぇい!これが異世界の洗礼か!」
ただの自業自得である。
それからしばらくして目に光が戻ってきたルディールは。
「指輪の力でバフがかかっておるから魔法は危険じゃわい。指輪を外したらどうなるんじゃ?」
細く小さな指から指輪を外して机に置きもう一度、魔導書を読もうと手に取るが。
「まったく…読めん…さっきは読めたんじゃがな」
そう言ってもう一度、指輪をはめると。
「読めるのじゃ…そういえば真なる王の指輪の中にある【知識と知恵の指輪】のおかげか?というよりも、今の所はこれしか原因がないのう。文字が読めなくなるなら言葉も理解できんようになるんじゃろうな」
などと言いながらまた魔導書を読み漁り幾らかの時間が過ぎた頃。コンコンとノックがありルディールを呼ぶ声がする。
「ルーちゃん起きてる?」
「うむ起きておるぞ。どうしたのじゃ?」
「朝ごはんできたから呼びにきたよ。それと昨日はあの綺麗な箱ありがとね」
「…何……じゃと……?」
外を見ると穏やかな光が窓から差し込み、小さな鳥たちが飛んでいた。
「新しい朝が来ておるのう…希望の朝じゃな…」
「どっどうしたの?何か疲れた顔してるけど…」
「ふっ…気にするでないわい…」
ミーナは頭に?マークを浮かべ冴えない顔をしたルディールと階段を降りていき、まだ静かな食堂のテーブルに二人向かい合って朝食を取り始める。
「うむうむ。このパンもおいしいのう」
「ルーちゃんって昨日の晩御飯の時も思ったけど美味しそうに食べるよね」
「そうかの?じゃが実際に美味しいから仕方ないわい」
「がはは!それは料理人冥利に尽きるな」
大きく笑いながら厨房の奥からミーナの父が顔を出す。
「うむ。親父殿おはよう」
「お父さんおはよー」
「おう。おはようさん。嬢ちゃん昨日の大牙じしはバラし終わったから後で取りにきな」
「うむ、わかったわい。食べ終わったらいくのじゃ」
「わかった。あとミーナ、今日は休んでいいぞ。朝メシ食ったら嬢ちゃんに村でも案内してやれ」
「え!いいの!やったー!」
父親の提案に小躍りしながら喜ぶ。
「今はそんなに忙しくないしな。その代わりちゃんと勉強しろよ。学校行く前に一つぐらい魔法使えるようにしとけよ」
「ぎゃう…わかったよー。じゃあルーちゃんもそれでいい?」
「それで良いぞ。案内まかせた」
「ふっふっふーお姉ちゃんに任せなさい」
と言ってミーナは胸をドンと叩く。
「どこからどう見ても妹じゃろう」
「えっ?私の方が身長高いよ!」
「わらわの方が態度はでかいぞ?」
そう言いあう二人を見てミーナの父親が意見を言う。
「ミーナと嬢ちゃんか…どう見てもミーナの方が妹にしか見えんな」
「ほれ!見たことか」
「おっお父さんどうして…」
「どうしてって言われてもな。そうにしか見えん。じゃあ飯も食い終わったようだから嬢ちゃんは素材を取りに来てくれ」
「うむ。わかったのじゃ」
「うぅ~じゃあ。私は出かける準備してくるね」
ルディールとミーナの父は解体場へ、ミーナは自分の部屋に向って移動する。
「嬢ちゃんこれだ。牙と毛皮と無事な骨だな。」
(これぐらいサイズになるとアイテムバックに入るんじゃな…)
アイテムバックを取り出し中に牙などを詰めていく。
「そういえば、魔石のような物はないのか?」
「そうだな。魔石をもってるヤツって言うのは簡単に言うと体に魔を宿した生き物だ。魔獣とかな。大牙じしは獣だから魔石はないな」
「なるほどのう。勉強になったわい」
「で?嬢ちゃんは本当は何者だ?」
その言葉を区切りに周りの空気が少し張り詰めていく。
「魔物じゃ無いとは言えここまでのししだ。俺も昔は冒険者だったんでな、こいつの強さは分かる。ある程度の冒険者じゃないとこいつは狩れん。それは言い切れる」
「ふむ」
「バラして分かったがこいつはとてつもない攻撃を食らって一撃で絶命してやがる。嬢ちゃんは知らんかもしれんがこいつの皮や骨は固くちょっとやそっとじゃ、ダメージは通らねえ。少なくともこんな事のできる人間はこんな村には来ないってこった」
「ではお主はどう思う?わらわの話を聞いて真実と思うか嘘と思うか」
二人が向かい合いさらに空気が張り詰めた所に…間の抜けた声が届く。
「ルーちゃーん!準備できたよー!」
「……まったくあいつは……まぁ、嬢ちゃんが誰であれ大事な娘を助けてくれたのはかわらんか……」
そう言いながらぽりぽりと頭を掻くと張り詰めていた空気が柔らかくなった。
「いいのか?小悪党かもしれぬぞ?」
「小悪党かよ。はん…そん時はそん時だろう。あいつが懐くんだそれなりの理由はあんだろ」
「ルーちゃーーん!」
「うるせぇ!ミーナ!まだ話中だ!」
「うへぇっ!お父さんまだいたの!」
「嬢ちゃん、あいつが迷惑かけると思うが暫く遊んでやってくれ」
「親父殿も大変じゃな。任せておけ!こちらでできた初めての友人じゃ、ドラゴンがこようが魔王がこようがここにおる間は守ってやるわい」
「そいつはたのもしいな」
二人で笑い合いながら外で待つ人物の元へ向かって行く。