朝起きたら知らない世界でマイキャラでした 第4話 見知らぬ村

「ここが私の住む村のリベット村です。ようこそオントさん」

「おお!ここがそうか!」

 川に架けられた橋を越え木の門を抜けて中に入っていく。

「門兵さんのようなのはおらぬのか?」

「そうですね、少し大きな街や王都にはいますけど、この村にはいませんね。この村は王都に向う人や商人さんが泊まるのがメインの村ですから」

「なるほどのう…」

 そう言いながら二人は村の中を歩いていく。

「お主と話をしていて少し違和感があったんじゃが解決したわい」

「はい?違和感ですか?」

「わらわには角が生えておるじゃろ?普通の人間には生えておらぬのに、お主は気にもせず会話しておったからのう」

「ああ~そういうことですね」

 二人が村の中を見渡すとそこには時折、羽の生えた人やルディールのように角の生えた人達がいた。

「ほかの国などは少ないと聞いた事はありますが私たちがいる国だと、この村のように地方でも見かけますよ」

「ふむふむ、なるほどの~。まずはこのししを買い取りしてもらおうかの~」

 そうですねとミーナが言おうとした時に大きな声が届く。

「ミーナ!仕事ほっぽり出して何処に行ってたんだね!」

 その声の主の方に目をやるとミーナに少しにたふくよかな女性がいた。

「おっお母さん…」

「で?どこに行ってたんだい?」

「…すぐそこの森の中に」

「そぐそこねー…何事もなかったのかい?」

「ウン、ダイジョウブダヨー。ナニモナカッタヨ」

 目を泳がせながら気まずそうに答える。

「へぇー……それで?そこのお嬢ちゃんは誰なんだい?」

「わらわはルディール・ル・オントじゃ。迷子の魔法使いと言うやつじゃな。そこのミーナさんに村まで案内してもらった所じゃな」

「へぇー……そこの大牙じしは」

「こっこれはオントさんが仕留めた獲物でこれから買い取ってもらいに……」

「そうじゃな。ミーナが囲まれて死にかけておった所を、わらわのウルトラカミナリキックで仕留めたのじゃ」

「ちょ!ちょっとオントさん!」

「先ほど子ども扱いした礼じゃ。しっかりとしぼられるとよいぞ」

「ミーナ……ちょっとお話しようか?」

 母の怒りのこもった低い声に観念したようにミーナは返事をする。

「はぁい……」

「話の腰を折って申し訳ないが、先にししの買い取りをしてくれる所と泊まれる所を紹介してくれぬか?手持ちは少しあるんじゃがこの国で使えるかは分からぬのでな」

「えぇと、オントさんだったっけ?じゃあウチに来な。宿屋だし旦那が解体もできるし。それと話も聞きたいしね」

「ふむ、ではお言葉に甘えるとしようかのう」

 村の中はゲームや現実にあった村とはまったく違っていたが、ぱっと見た感じでは生活水準は高そうな感じだった。そうこうしてる内に目的の建物ついたのかミーナ教えてくれた。

「ここが私の家の宿屋です!ようこそオントさん!」

  そこは木でできた年期はあるが小綺麗な建物だった。

「うむ!よいぞ実によい宿じゃ!」

 と感想を言っていると入り口のドアが開き中から筋肉質の大男が出てきた。

「おう、嬢ちゃん。褒めてくれてありがとよ」

「ちょっとあんた!またミーナが森の奥に入ったんだって!」

「あん?なんだって?」

「…ごっごめんなさい」

 ミーナは少し泣きそうになりながら母親と出てきた大男に素直に謝っていた。

「まぁここで突っ立ててもしょうがねぇ、中で話を聞かせな。嬢ちゃんも一緒にいるって事は当事者か?」

「その認識であっとるよ。このししはどこに置いておくのじゃ?」

「これはまた立派なししだな…俺でもこれは運べんな、嬢ちゃんこっちに持って来てくれるか?」

「うむ。よいぞ」

 一度、大牙じしを解体場のような所に置き食堂に案内される。四角いテーブルと四脚のイスが数セットあり、まだ客はおらず静まり返っていた。

「そこにでも座ってくれ」

 近くの椅子に座るとすぐにミーナの母が飲み物を入ったコップを前に置き四人が一つの大きいテーブルに座る。

「で?何があったんだ?」

 少し機嫌が悪そうにミーナの父は話を聞いてきた。

「そうじゃな。まずはわらわの方から話をするかのう」

 どこまで話すかを少し考え、ある程度の嘘も混ぜあの森にいた事とミーナを見かけた事を話した。

「簡単に言うと、事故に近いがわらわも知らぬ魔法に巻き込まれ、こちらの国に飛ばされた所に獣か魔物かに襲われておったミーナを助けたと言う感じじゃな」

 話を聞き終えたミーナの父らしき大男はいかつい顔がさらに険しくなった後に。

「このばか娘が!」

「いたっ!」

 バシンッ!と頭を叩かれてミーナはそこに正座をさせられた。

「嬢ちゃんありがとよ。ウチの娘が世話をかけたな」

「気にするでないわい。此方も迷子の所を助けてもらっておるからのう。あまり怒ってやるなよ?」

「そうだよ!娘の頭を叩いて正座させるのはダメなんだよ!」

  話の腰を折ってミーナが茶々を入れてくる。

「まぁ……あまり反省はしておらぬようじゃからそのままで良いとは思うがのう」

 ミーナは後ろから仲間に撃たれたような顔をして少し大人しくなった。

「ミーナは何で森の奥まで入っていったんだい?」

 厨房の奥に入っていったミーナの母がカウンターから顔を出し聞いてくる。

「えっっその…近い内に王都の魔法学校に入学だから…お小遣いがほしくて…」

「あーもう…この子って子は…」

 ミーナの母があきれた声をあげ残りの二人も難しい顔をしていた。

「なんじゃい…病弱な両親の為に危険を承知で森に薬草を取りに行ったとかではないんじゃな…割としょうもない理由じゃったな…」

「違いますー。しょうもなくないです!」

「あはは!面白い嬢ちゃんだね。私も旦那も元気だよ!」

  豪快に笑いながらそう言って腕をあげ力こぶを作り元気さをアピールする。

「嬢ちゃんはなんて国から飛ばされてきたんだ?」

「にほんと言う国じゃが聞いた事はあるか?」

 ミーナの父は顎に手を当てて少し考えるが

「うちも長い事、宿屋やってて冒険者やら商人が来るんだが聞いた事ねえなー」

(やはり知らぬか…)

 解っていた事だがルディールは少し寂しげな表情になった。

「そうじゃろうな~遠い国じゃからな。帰れるかもどうかもわからぬしな。暫くはこの辺りにおるかのう。それで少し聞きたいんじゃが。」

アイテムバックを漁り、中から数枚の銅や銀や金のコインを出す。

「わらわがいた国の貨幣(ゲーム内通貨)なんじゃが使えそうかの?」

 ミーナの父は数枚のコインを取り吟味して答える。

「王都や大きな都市の方なら換金できるかもしれんが、この村だと無理だな」

「困ったのう…事実上は無一文じゃのう」

「それならしばらくはウチに泊まっていくといい。ねぇアンタ」

「ああ、そうだな。娘を助けてくれた礼もある。それにあと2~3日したら行商も来るから、その時にあのししも売るといい」

この世界に来て知らず知らずのうちにすり減っていた心にミーナの両親の優しさで自分が微笑んでいる事に気づき。

「ありがとうございます。助かります」

 そういってルディールは丁寧に頭をさげた。

「じゃあそれで決まりだ。夕飯まではゆっくりしててくれ。それとししだが肉はどうする?こっちでばらしてはおくが、行商が来るのが遅れたら傷むかもしれん。こっちで買い取ってもいいがそこまでは出せないぞ」

「なるほどのう……ならば解体料としばらくのご飯代として肉はお主達がもらってくれるか?さすがに何もかもただと言うのは気が引けるわい」

「嬢ちゃんいいのかい?」

「かまわんが……それでお釣りがでそうなら夕飯を豪華な感じで頼む!」

 ミーナの両親は目を丸くしてルディールを見つめて少しして豪快に笑いあった。

「あははは!わかったよ夕飯は任せときな。ミーナは嬢ちゃんを部屋に案内してやんな」

「は~い」

そう言った後にミーナの両親は各自の持ち場に向かっていった。

「なんじゃいかんのか?」

「いえ。まだ反省して座ってるんです」

異変に気づいたルディールの瞳が獲物を狙う目にかわる

「お主、足がしびれておるんじゃな?ほれ!ほれほれ!」

「ちょ!オントさん!やっ!ほんーーに!やあめー!」

 ルディールはしばらくミーナで遊んだ後に宿屋の二階にある日当たりがよくて村がよく見える部屋に案内された。

「ううっひどい目にあった…ここがオントさんの部屋です。ウチの宿屋では一番いい部屋ですよ!」

「良い部屋じゃ!ありがとうのぅ。それとミーナよ、オントさんと言うのは堅苦しいわい、名前か適当なあだ名でよいぞ」

「えっ?いいんですか?じゃあルーちゃんでいいですか?」

「ふっ、その呼び方で良いわい。友人の中にもそう呼んでいる者もおるしのう。あと敬語でなくてもよいぞ」

(一日も経っては無いはずなんじゃが、その呼び名で呼ばれるのもえらく昔のような気がするわい)

「じゃあ。ルーちゃんご飯できたら呼びに来るね」

「うむ。了解じゃここでゆっくりしておる」

(さてと…装備の確認などせんといかんのう)

アイテムバックを漁り森の中で使用した鏡を取り出す。

「真実の水鏡よ!映る者のすべてを映せ!」

【真実の水鏡】
 鏡に映るプレイヤーのすべてのステータスを映す。
 映る者の不可視の状態異常や捕縛したプレイヤーなどのステを見たりする時に使用される。ステータス異常などで解らない症状も教えてくれる優れもの。

名 ルディール・ル・オント ♀

種族 魔神族

クラス 真なる指輪の王

状態 情緒不安定

Lv??? HP??? MP???

装備

頭(角) 太陽神と月光神の寵愛

体 賢者の至宝

手 女王蜘蛛の手編み籠手

脚 バフォメドブーツ

マント 海神の羽衣

アクセ1 真なる王の指輪

アクセ2 大魔導士のアイテムバック

アクセ3 首狩り族の首飾り

「ふむ、身長、体重も出ておるがそれはよいか・・・スキルや魔法等も後でよいの。しかしLvとHPとMPが???じゃと?どういう事じゃ?…鏡よ答えられるか?」

そう鏡に聞くと鏡に張られた水が動き出し水面に文字を浮かび上がらせていく。

この世界では前の世界(ゲームの世界)のようにLv・HP・MPを数値では表示できないので表示できません。

 「ふむ……なるほどのう。ゲーム世界より現実に近いのかもしれんのう……魔法はあるくせに」

この世界に飛ばされて来た時よりも落ち着きを取り戻し、一つ一つ疑問に思う所に仮説を立てて考えていく。

「まぁ……今の所は考えてすぐに答えの出るものはあんまり無いのう。装備も整っておるし指輪でバフもかかっておるから戦闘になってもすぐ死ぬ事はないじゃろ……」

次はアイテムバックの検証じゃのうと考えていると思った以上に時間がたっており、ミーナが食事の時間だと呼びに来た。

「ルーちゃんご飯できたよー!今日は凄い豪華だよ!」

「おお!それは楽しみじゃ!」

(とりあえずご飯が先じゃな!)

異世界で初めての食事に心を躍らせながら階段を降りていく。

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