ガイアロックドラゴンを倒してから約一月ほどが過ぎ、ルディールは麦わら帽子をかぶり、庭に作った小さな畑の手入れをしていた。
庭にいる食竜植物と言う元ゲーム内ボスモンスターのおかげで、周辺の土壌の養分はかなり高く、能力のおかげで植物の成長速度がUPしており種や苗を植えると一ヶ月もいらずに花を咲かせ実をつけた。
そしてその出来た野菜を使って、デスコックが食事を作ってコボルトが食卓に運ぶというルディールの家のサイクルが出来ていた。
「食竜植物がロックドラゴンを苗床にしたから、竜鱗華草のようなレアアイテムも生えてきたが……生産職でも無いし、どうしようもないのう……」
ゲーム中では、竜鱗華草と言う花は拠点に食竜植物を配置して、竜を生け贄に捧げると、極まれに手に入るレアアイテムだった。そのアイテムを使いアルケミストの様な生産職がHP、MP全回復や一時的に攻撃力を数倍に上げるアイテムを制作できたのだが、ルディールの職業ではそういった事は一切できないので、夜になるとほんのり光る竜の顔に似た花だった。
「三株ほど咲いておるし、植木鉢に移してミーナにでもやるかのう。そういえば、そろそろ魔法学校に入学がうんたらかんたら言っておったがどうやって王都に行くんじゃろな?」
少し前に、ゲーム中に使用したアンブロシアの実やソーマの実やユグドラシルの実を畑に植えた所実をつけたので、手入れをしながら食竜植物に聞いてから竜鱗華草を二株ほど植木鉢に植えていると、リベット村の村長が訪ねてきた。
「村長、こんにちはじゃ。何かあったのか?」
「はい、こんにちは。イオード商会から手紙が届いてますよ」
「おお、ありがたいがわらわの家に、直接手紙が届くようにするにはどうしたらいいんじゃ?」
ルディールの家にはまだマジックポストと呼ばれる小型の転送の魔法装置が無く、イオード商会などからオークションの知らせが来た時は村長の家に届くようになっていた。
「マジックポストを設置するとポストが地脈を読んで、位置を数値で出してくれるので、それを相手に教えれば届きますよ」
「なるほどの~オークションでロックドラゴンの素材が売れて纏まった金が入ったら買おうかのう。あっそうじゃ。これも国王陛下の生誕祭の献上品に出してもよいぞ」
そう言って先ほど植木鉢に移した竜鱗華草を村長に見せた。
「これは?」
「わらわがいた国(ゲームの世界)でも特に珍しい花じゃな。この国では咲いているか知らぬが、珍しい物が良いというておったからのう、いるなら持って行ってよいぞ。王家の紋章は竜じゃし、この花は竜鱗華草と言うから捨てられる事はないじゃろ」
村長は少し考えてからその花も献上品と一緒に渡す事に決めて、ルディールからその花を一株もらった。
「いつもありがとうございます。それとすみませんが、また中央都市に行かないと行けないので、厚かましいですが送っていただけますか?」
「うむ、別にかまわんよ。早めに言っておいてくれれば大丈夫じゃわい」
村長は、再度礼をいい家に戻って行った。それからまたルディールが家庭菜園を楽しんでいると次はミーナがやって来た。
「村の外れのはずなのに最近、客が多い気がするのう」
「ルーちゃん、こんにちは。…村の子供達に魔王とか言われてるもんね」
「魔王と言うには身長とか威圧感とか足らない気がするがのう」
「村のお母さん達が忙しい時とか、ルーちゃんが子供見てるもんね。悪い子には魔法で地面に顔だけ出して埋めるから魔王とか呼ばれるんだよ」
「子供が少し素直になったとたまに褒められるぞ。それはいいがどうしたんじゃ?」
「それなんだけど、一週間後に王都の魔法学校に行くからその事を伝えに来たんだけど、ルーちゃんその手紙は?」
まだ見てなかったわいと封を切り、イオード商会からの手紙を確認した。その内容を簡単にまとめると前から連絡してあった様に、明後日の午後からロックドラゴンの素材を競売に出します。他の品物もでますので、良ければご参加ください。との事だった。
ルディールはそれから少し考え、ミーナに提案する。
「お主、中央都市から王都まではどう行くんじゃ?」
「えっとね、飛空挺が中央都市から出てるから、それに乗って行けってお父さんが言ってた。高いはずなんだけど、少し前にルーちゃんが分けてくれてお父さんに預けた金貨でいけるから経験してこいって。ルーちゃんありがとね」
「よし、旅は道連れ地獄も道連れじゃ、わらわも飛空挺に乗ってみたいし、王都も行きたいから付いて行こう!」
「ルーちゃ~~~ん!……ありがとう!」
一人で行くのが心細かったのかミーナが泣きながらルディールに抱きつき、礼を言った。
「気にするでない。ついでに明後日のオークションの売り上げもらってから行くがそれでよいな?」
「うん、私は大丈夫だよ、前から思ってたんだけど、家庭菜園してるの?」
「ちょいと土壌がよくなる事をしてあるからのう、野菜や果物が実りやすいんじゃ、一つ食べてみるか?」
そう言ってゲーム中から持って来ていて植えたら実ったアンブロシアの実を一つもいでミーナに渡した。
「皮剥いて食べたらいいのかな?」
それはリンゴの様に赤く柑橘系の様に少しだけ柔らかかった。
「わらわは洗ってそのまま食べたぞ」
「うん、わかった」
ルディールから説明を聞いてミーナは手から水の魔法を発動させて簡単に洗い、パクッとその実を食べた
「あっ!これ美味しいね!どうしたのこれ?」
「わらわの前にいた国に生えておった果実じゃな。試しに植えたら実ったんじゃ。他の種類はまだ実っておらぬが、それは実をつけたのでな」
ルディールがそう説明している間にミーナはその実が気に入ったようで、美味しい美味しいと食べていた。
(わらわも食べたが確かに美味しかったのう、まぁゲーム中だと課金アイテムで一個500円のレベル上限解放の救済アイテムじゃしのう。普通に上限突破させようとしたら1レベルでも大変じゃからな…時間が無い人用じゃな。前に真実の水鏡で見た時もレベルは無いと言われたしのう上限とかもないじゃろ)
「ごちそうさま、ルーちゃんも付いて来てくれるならどうしようか?」
「そうじゃな、村長も中央都市に行きたいと言っていたから、明後日の朝に村長の家に行ってそこからわらわの魔法で中央都市の倉庫まで飛ぶのが楽じゃろ。後、これ持って帰って宿か部屋にでも飾っておれ、いらぬなら捨ててよいぞ。ただの珍しい花じゃしな」
「ありがとう!何か竜の顔に見える花だね。じゃあ私は準備するから家に戻るね。どうしよう、村長さんに伝えとこうか?」
「うむ、後でわらわも行くが、先に知っておくと予定も立てやすいじゃろ。すまぬが任せた」
任されました!と敬礼をしてミーナが明後日に向けて準備をするために帰っていった。
(あやつ、かなり魔法が上手くなっておるのう、他の魔法使いの魔法を見た事はないが魔法学校に行ってもそこまで恥はかかんじゃろう。わらわが魔法で作ったフレイムコッコにも、最近勝ったしのう)
弟子? もしくはできの良い妹のような女の子の事を考えながら、もう一つ出来た用事を済ませる為に森の中へ入って行った。
森の中へ入ってしばらくすると群れの炎毛猿達の出迎えがあり、元ボス猿がやって来た。
「ボス、ドウシタ?」
「うむ、またしばらく村から離れるのでな、声をかけにきたんじゃ」
「ソウカ、分カッタ。次ハドウイウ修行ヲスルンダ?」
「ボス、ハヤクツギノ修行ヲサセロ」
一月前は元ボスザルしか言葉を話せなかったが、最近では片言でまだ聞きづらいが他の猿達も言葉を話せる様になっていた。
「お主らもう五倍ぐらいの重力なら余裕じゃしな…魔力の制御とかやってみるか?」
そう言ってルディールは群れの猿達に魔力の制御を応用と共に教えた、最初の内は猿達も理解が出来なかったが、一頭また一頭とすぐに魔力が何かを理解していった。
「後は森の中でも魔法を使う生き物がおるじゃろ?そういう奴らを観察して自分で覚えてみると良いぞ」
他の生物を観察させる指示をだし、それから村長の家に向かい、明後日の朝に中央都市に向かう取り決めをした。
「そういう感じでわらわはミーナと王都に向かうが、村長は生誕祭に合わせて王都にくるんじゃな?」
「そうですね、入学式より後に生誕祭があるので、リノセス侯爵と向かうと思います。」
「なるほどのう、わらわは生誕祭の前には村に戻ってくると思うから、向こうで見かけたら声をかけてくれればつれて帰るぞ?」
「それはありがたいんですが、王都まで行くとやはり人目がありますからね。オントさんは力を隠したい様なので、どこからバレるか分かりませんので、緊急の時以外は遠慮しときますよ。中央都市まで送って頂けるだけでも助かってますから」
「なるほどのう、さすが王都じゃな。少し気をつけんと駄目じゃな」
村長に礼を言い、話を聞いていると王都までいくとSランクPTがいたりAランクもゴロゴロいるのでと教えてくれた。
村長との話を終え家に戻りルディールも自分の用事を済ませて、ミーナの家の宿から戻ってきたコボルトやデスコックにまた家をしばらく空けると伝えた。
それから準備をすませ、時間が経ち出発の朝を迎えた。