朝起きたら知らない世界でマイキャラでした 第20話 一つの区切り

 戦闘が終わりルディールは猿達と、ぶっ飛ばしたドラゴンを探していた。

 思いっきり殴った所からほぼ直線で木々をへし折り、岩を砕きながら飛ばされていたようで、目的の人型になったドラゴンはすぐに見つかった。

 それからすぐに猿達に頼み、丈夫な蔓を探してもらい人型ドラゴンが起きる前に、口に猿ぐつわを噛ませ、ぐるぐる巻きにして縛り上げた。

「この辺りに大きな川はないか?」

「滝ナラアルゾ」

 その滝にルディールは案内してもらうと、流れも速く、流量も凄まじく大木や大きな動物も流れ落ちていた。

 ボス猿に滝の事を聞くと、大昔に一度下って行った事があり、塩辛い水たまりに繋がっていると言う話だった。

「ふむ。海の事じゃろな、これだけ流れておれば、海まで行くじゃろ」

 そう言って人型ドラゴンの方を向くと、すでに起きていて、もの凄い勢いで首を左右に振っていた。

「竜の姿のままなら縛られる事も無かったのにのう。まぁ腐ってもドラゴンじゃし、死にはせんじゃろ。もう会うことも無いじゃろうが、達者での~」

 そう言って手を振りながら、ルディールは人型ドラゴンを滝に流した。

 
「さてと、これで村や森はしばらく大丈夫じゃろ」

 それからドラゴンと戦闘した所まで戻り、何かに使えるかもしれないと、ドラゴンの額に生えていた水晶や鉱石を回収していると、炎毛猿達が集まって来て、元ボス猿が代表して話しかけて来た。

「ボス、我々ヲ鍛エテクレ」

「ん?急にどうしたんじゃ?」

 理由を聞くと、ドラゴンに負けたことが不甲斐なく、ルディールの強さに憧れてとの事だった。

 まがい物の強さを褒められてもと、渋っていたが猿達の熱意に負け、ルディールの手の空いてる時に手伝う事になった。

「マズハ何ヲスレバ良イ?」

「そうじゃな~亀の甲羅を背負うのがいいんじゃが、そのような物はないしのう、重さがあれば良いか?…グラビトロン!」

 群れの猿達十数匹に重力魔法で猿達の体重を三倍にした。

「ムッ!少シ重クナッタカ?」

「修行の基本じゃろうな、わらわの魔法もどれだけ持つか分からぬし、その実験も含めてじゃな。その重さに慣れるまでいつも通りしておれば良いわい」

「ワカッタ」

 ドラゴンの素材を回収し終え、村へ戻る前に猿達の様子を見ていると、体の重さが変わり、数匹の猿が木から落ちたり頭をぶつけたりしていた。

 魔法が切れたら静かに呼びに来ると良いと言い村へと戻った。

 村へ戻り、村長にドラゴンの事を報告しようと、村長を探しているとまだ宿におり、探す手間がはぶけミーナが出迎えてくれた。

「ルーちゃん大丈夫だった!?すっごい音が聞こえて、森の方から鳥がいっぱい飛び立ってたよ!」

「うむ、ドラゴンとドンパチやったからのう。それとちゃんと川に流しておいたから大丈夫じゃわい」

「またまた~ドラゴンって大きいって聞くから、川に流せる訳ないよ~」

「いや、本当じゃわい、あのバカドラゴンちょいと不利になったからと人型になったからのう、縛って滝に流したぞ」

 その話をミーナの父親と話しながら聞いていた村長が、いきなりぶふっ!っと飲んでいた物を吹き出した。

「ゴホッ!ゴホ!…すみません…オントさんそのドラゴンの頭に水晶のような角はありませんでしたか?」

 あったぞこれか?といいアイテムバックの中から、自分と同じサイズぐらいの青白く光る水晶の塊を取り出した。

 その水晶の美しさにミーナの家族はキレイなどの感想を言っていたが、村長は少し顔が青くなりため息を一つついてから話し始めた。

「はぁ…そのドラゴンはアースロックドラゴンでは無く、岩竜系の最上位種のガイアロックドラゴンですね…魔法を使ってきたり、人の言葉を話しませんでしたか?」

「確かに魔法も使ってきたし、言葉も話しておったのう…強さ的にはどんなもんじゃ?」

「Xランクまでは行きませんが、Sランクで受注できるクラスでは、ほぼ最高峰ですね…よく勝てましたね…」

「まぁ、炎毛猿の攻撃もあって弱っておったんじゃろ?もしかしたら人違いならぬ竜違いかもしれぬぞ?」

「いえ、アースロックは見たことがありませんが、ガイアロックは冒険者時代に一度見たことがありますし、特徴も同じですからほぼ間違いないですね」

「なるほどのう、ではそうなんじゃろな」

 村が無事なのが奇跡ですと村長が呟いていた。

「ほんとじゃのう。滝に流してよかったわい」

 滝の話をすると、全員に心当たりが無くルディールが詳しく説明すると、村長が思い出した。

「もしかして、死手の大滝ですか?」

「すまぬが、名前までは知らぬのう。山一つほど飛んで行った所にあって、川幅が広く凄まじい流量じゃったわい」

「では、ほぼ間違いなく、死手の大滝ですね。ローレット王国と吹雪の国スノーベインの国境近くにある滝ですね。名前の由来ですが、滝壺が深く、あの世もしくは魔界に繋がっていると言われ、落ちると死者に引きずり込まれて上がってこれないという意味でその名前がついてます」

「えっと…ルーちゃん、そんな所にドラゴンさん流したの?」

「…村が無事で良かったわい」

「そっそうなんだけど」

「うむ!村が無事で良かったわい!」

 それからしばらくミーナと似たようなやり取りを続けていると、ガイアロックドラゴンの角を見ていた村長が相談を持ちかけてきた。

「オントさん、この角を私に売っていただけませんか?」

「うん?かまわんよ。何に使うんじゃ?」

 何の疑いも無く村長に売ろうとすると、食堂の奥からミーナの父が出てきて注意された。

「ルー。お前、物の価値がわかってないならすぐに決めんなよ…」

「逆じゃろ?分かってないし自分ではどうしようも無いから売るんじゃ。それに村長に売っておけば悪いようにはせんじゃろ」

「そう言ってもらえるとありがたいですね。今朝、国王陛下の生誕祭があると話しましたね?」

「うむ」

「その時にこのガイアロックドラゴンの角を献上しようかと思いまして」

「なるほどのう。村の為じゃな」

「そうですね、今年は不作で作物の出来も悪いですが、これさえあれば大丈夫ですので、黒硬貨百枚と今の借家を差し上げる形でどうですか?」

 その値段を聞いて次はミーナが吹き出した。

「黒硬貨百枚!」

「このサイズとこの綺麗さなら本当はもっと高いのですが…」

「ふむ、村の事を思ってじゃったら別にかまわんよ。それと黒硬貨分はいらぬから家だけで良いわい。しいていうなら家が壊されておるからのう、腕の良い大工を紹介してくれたらそれで良いわい」

「さっさすがにそれは…」

 それからルディールと村長は互いに譲らずそこそこ長い時間交渉したが、ルディールがしびれを切らして、それで納得せんのならこの場でその水晶を叩き割る!と宣言し無理矢理納得させた。

「はぁーーー。ありがとうございます。では腕の良い大工を家に向かわせますね」

「うむ、よろしくお願いするのじゃ。一つ注文を加えるなら貴族に絡まれそうな時はよろしく頼むぞ、わらわがあまり関わらない方向で!」

「はぁー。分かりました」

 村長は献上の品が手に入ったので、またリノセス侯爵家に話をしに行かないとだめですねといい、ルディールからガイアロックドラゴンの角を受け取り自前のアイテムバックにしまった。

「あっ、そうじゃ。この石は何かしっておるか?」

 アイテムバックの中から食竜植物にもらった宝石のような石を見せた

「これは魔石ですね。ロックドラゴンの物だとかなり珍しいですよ、魔石という物は加工前は壊れやすいので」

「ほぉー何に使えるのじゃ?」

「魔法具の触媒によく使われますね、魔石と言うぐらいなので魔法などと相性が良いのです」

「なるほどのう。わらわが持っていても仕方なさそうじゃな。よし…売っぱらうか、どこか高値で売れる所はしらぬか?」

 そうですねと考えていると、ミーナの父がまた通り、イオード商会のオークションに出してもらえばいいと提案があった。

「それが良いかもしれませんね、安くなる事もありますが、基本的に売るよりは高くなりますし、ドラゴンの魔石でここまでの品ですから、良い値がつくと思いますよ」

「後でちょろっと行ってくるかのう」

「ちょろっとで行ける距離じゃないけどな」

「忘れておったわい、ミーナの父よ」

 ちょうどミーナが母の手伝いで席を外しているときに父親に、山賊の事を説明し、懸賞金の金貨50枚を渡した。

「…俺の小遣いにしていいか?」

「別にいいが、女将さんとミーナには言うぞ?」

 頭をかきながら嫁さんと相談だなっと言って先に金貨を持って奥にいった。

 お昼を知らせる鐘が鳴り、デスコックがドラゴンの肉で作ったシチューをミーナが運んで来た。

「デスコさんが作ったシチューできたよ、美味しいよ!」

 その料理を食べながら、ルディールは村長にイオード商会の場所を聞きながら、オークションの話に花を咲かせ、何を出品するか悩んだ。

 それからミーナ達と別れ、我が家になった家に戻りアイテムバックの中から買った物など、すぐに必要の無い物をアイテムBOXの中へ入れたりして、デスコックが解体した、ロックドラゴンの素材をアイテムバックに入れた。

「絶対に後回しにすると面倒じゃな、先にやることやっておくのじゃ。シャドーダイブ!」

 魔法を唱え、今朝、出発した中央都市に借りている倉庫にまたやって来た。

 異世界の都市の町並みを一人で気ままに楽しみにながら、目的の商会へ足をのばした。

「誰かと一緒に見るのも良いが、一人と言うのも同じぐらい良いものじゃな…おっ、ここじゃ、ここじゃ」

 目的の場所を見つけ、中に入り事情を話すとやはり盗品を返品した話が伝わっており、愛想良くスムーズに話が進んだ。
 そして応接室に案内され、出品する物の取り決めが始まった。

「先に一つ言っておくが、わらわはオークションの事などは全くわからぬから、その辺りも踏まえて頼むのじゃ」

「わかりました、こちらも盗品の恩もありますが、良き取引相手になれるよう頑張ります。ではどういった品を出しますか?」

 ルディールはアイテムバックの中からロックドラゴンの魔石と骨、皮、鉱石を出した。

 その素材を見て、商人は目の色を変え品定めをはじめた。

「どう売るかは任せようと思うが、説明しておいてくれるとありがたいのう」

「まず、どの品も非常に状態が良いので、どれも高値で売れますね、こちらの戦略としては骨、皮、鉱石の順で競売にかけ、最後に魔石を二つセットで出そうと思います」

「見た感じ鉱石は石のように見えるが売れるのか?」

「はい、ロックドラゴンの鉱石は砕くと中にいろいろな原石が眠っていたりしますし、このまま加工しても十分使えるので、値段がある程度決まっている骨や皮よりも人気がありますね」

「なるほどのう」

「あと魔石ですが、最高品質ですので二つセットにして価値を上げようと思います。二つある事で作れる魔法具の幅もかなり広がりますので」

「了解した、丸投げする様で悪いがそれでお願いする」

「分かりました、後は内容等にについて説明させて頂きますね、それと出品者の名前はどうされますか?高名な方だと名前だけで高く売れる事もありますが」

「その辺りは名が通ってる訳でもないからのう、適当に偽名でもつけといてもらえるか?」

 それからさらに細かな取り決めをした。

「うむ、こんなものかのう…他は何かあるか?」

「もう大丈夫ですね。オントさんは非常に運が良い、今は国王の生誕祭でオークションも盛り上がっていますから、良い値で売れますよ」

「それはお互いに良かったのじゃ。では日にちが決まったら村長宛に手紙を届けてくれるとありがたい」

 わかりましたと商人の男から了解をえてオークションの話もきまりルディールは礼を言ってイオード商会を出た。

「ふう…久しぶりに気を使う取引だったな、見た目や持ち物からして、宮廷魔道士とか公爵辺りの令嬢かとは思うが、世間知らずと言うより世界知らずという感じだったなー」

 と商人もといイオード商会長が悩むが。

「何かこう凄く金になる匂いがする、変に儲けを考えて行動するよりは、誠心誠意対応した方がこちらの利益になるような気がする」

 去って行ったルディールの方を見てそう思う商会長だった。

「さてと、やる事もやったし戻るかのう…っと、そうじゃせっかく我が家の庭は養分たっぷりじゃからな、小さくてよいから家庭菜園でもするのじゃ」

 まだ帰るのは少し早い時間だったので、ちょうど目の前にあった花や果物を売っている店に入り、数種類の花の種や野菜の種を買った。

(そういえばゲームであった、ソーマの実や、アンブロシアの実や、ユグドラシルの実などの種はこっちの世界でも出るんじゃろか?たしか一個か二個はあったと思うから、ついでに植えてみるかのう。)

 少し都市の中を歩いていると、大人数のPTの冒険者が前の方を歩いているのが見え眺めていると少し昔を思い出した。

(少し前の事なのに何故か懐かしく感じるのう。わらわ達もああいう感じで冒険しておったんじゃろな)

 と少し落ち込みながら考えていると、後ろから大きな声が聞こえた。

「あー!見つけたわよ!角付き!」

 その方向をみると焼き鳥のPTがいた。

「なんじゃい、騒がしいのう」

「角付き!こないだは世話になったわね!ちゃんと名乗りなさいよ!」

「ふむ。ソアレよ昨日は世話になったのじゃ、ありがとう」

「…いえ、大丈夫ですよ」

「ちょっと角付き!」

「スティレ達は今から冒険か?」

「ああ、そこに見える山に魔物の調査と討伐だ」

「無視すんな!」

 カーディフを無視して、二人と話をしているとさらに怒り弓を構えそうになってスティレに止められた。

「うるさい奴じゃな【魔力食い】のカーディフよ」

「あん?何よその魔力食いって」

「わらわが考えたお主の二つ名じゃ使って良いぞ」

「……ちょっとかっこいいわね。私、二つ名無いから貰うわよ?」

 ソアレが少し考える仕草をしてブフッ!っと吹き出した。

「…確かにカーディフにはぴったりですね」

「そうじゃろ、お主、頭の回転はやいのう」

 ありがとうございますとソアレが礼を言い。ルディールさんがいなくなったら、ネタばらしをしますと小声で言った。

「で?あんたの名前は?」

「ルルルの花子じゃ。覚えておくと良いぞ」

「はんっ。花子ね。覚えておいてあげる」

 それから少し話をし、陽が傾いてきたのでルディールは焼き鳥のメンバーに別れをいい倉庫に向かった。

 ルディールと別れカーディフがソアレに二つ名を自慢していた。

「ふふん。どうよソアレ。私も二つ名持ちよ」

「…ええ、とても似合ってますよ」

「そういえば、ソアレは先ほど吹き出していたが、魔力食いとはどういう意味だ?」

 二人に少し笑いながらソアレが説明しだした。

「魔力の事をマナと言ったりします、特定の物を食べる魔物をイーターといいますね?」

「「うん」」

「…魔力食いとはマナイーターという風にとれます」

 そこで意味がわかったスティレが吹き出した。

「クッ!失礼した。たしかにカーディフに合ってるな」

「何がよ、マナイーターって格好いいじゃない!」

「…そしてマナイーターから、ーを抜くとマナイタ、まな板になり【まな板】のカーディフになる訳です」

 それを聞いたカーディフは耳まで真っ赤になり大声で叫んだ。

「今度あったら絶対に泣かす!」

 もう中央都市からリベット村の自宅まで戻っていたルディールは、何かが聞こえた気がして都市の方角を見ていた。

 自分の部屋で机に飾ってある無事だったギルドメンバーとの写真に話しかける。

「皆は元気にしておるか?わらわはこの世界から帰られるかどうかは分からぬし、少し寂しく思う事もあるが頑張っておる」

 と夕日が当たる部屋で昔を懐かしんでいると、玄関の鐘がなり。

「ルーちゃん今日の宿の料理が豪華だからお父さんと村長が、呼んでこいっていうから来たんだけど来られそう?」

「うむ、大丈夫じゃぞ、では行くか」

「うん、行こう行こう」

 新しい友人や知り合いも出来て、わらわはそれなりに楽しんでおるよ。と写真を立てかけて夕飯に向かった。

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