「はぁ…しっかし昨夜は変な夢を見たのう…」
ルディールは起きようとして布団の中に何かがいる事に気がつき、布団をめくるとなぜかミーナが横に寝ていた。
「なんでこやつがここに寝ておるんじゃ…わらわが男だったら、嬉しいシチュエーションじゃな…」
少し頭を撫でてやり、ミーナの性格を考えても間違って布団の中に入って来た訳では無く、昨夜ルディールが辛い夢を見たから入って来たのだろうと考えた。
「何というか、いい奴じゃな」
それからしばらくして、起きたミーナに理由を聞くと、やはり間違って入って来た訳ではなく、子供の頃に怖い夢を見た時に母親が一緒に寝てくれたと答えた。
「私、何か寝言とか言ってた?」
「いびきかいておったぞ」
とミーナをからかって一階の酒場で朝食を取り、ミーナの叔父に別れの挨拶をした。
「ミーナちゃんとルーは今日、村へ帰るのか?」
「朝の内には出ようという話じゃったから、もうすぐ行くぞ」
「叔父さん、ありがとうございました」
「ミーナちゃんはいつでも来てくれ、ルーはしばらく来なくていいぞ」
「何故じゃ!」
「お前みたいなの、しょっちゅう見てたら寿命が縮むわ!」
「わらわを見て寿命が縮むぐらいなら、元から無いから気にするでない」
「あるわ!」
軽口を叩きミーナの叔父にまた来るといい。ルディールが借りている倉庫に向かった。
倉庫はミーナの叔父の酒場から20分ぐらいで着き、村長はまだ来ていなかった。
「…ルーちゃんってこういう所がすごいね」
「何がじゃ?」
「いやだって、リノセス侯爵家に呼ばれたのに、行かないって冗談で言ってて、帰る前に行くのかな~って思ってたら本当に行かなかったから」
「ぬっ…やはり行った方がええんじゃろか?」
「リノセス侯爵なら大丈夫ですが、他の貴族なら少し大変かもしれませんね」
いつの間にか来ていた村長が話しかけてきた。
「なるほどのう。正直に言えば貴族との付き合いの作法など知らぬからのう…その辺りも追々勉強じゃな」
「そういうのって村だと村長さんが一番詳しいのかな?」
「そうですね、村だとたぶん私でしょうね。貴族との付き合いが多いですし」
三人と一頭は倉庫の中に入った所でルディールは少し気になった事を村長に尋ねた。
「そういえば、村長は何の用事でリノセス家に行っておったんじゃ?」
「もうすぐ、国王陛下の生誕祭ですので、その時に村から出す贈り物の相談ですね。村にはそこまでの特産品もないので、去年と同じになりますが、すこし不作でその事もふまえてという感じですね」
「そういうのはやはり高級な物を贈るものなのか?」
「はい、大きい声では言えませんが、商会や都市などはやはり見栄を張りたがる人もいますからね。リベット村はあまり関係ありませんが、高価な物より珍しい物の方が喜ばれると聞きました」
「どこの世界でも色々と付き合いはあるんじゃな…さて、そろそろ村へ帰るのじゃ。いきなり村の中へ出てもあれじゃから、村から少し離れた街道へ出るぞ?」
二人の了解を得てルディールは転移魔法を使い、村から少し離れた街道に出て、村へ向かって馬車を動かした。
しばらくすると村が見えてきたが、少し様子がおかしく村の森に近い所から煙が上がり、村の外に数人の人の姿が見えた。
その様子を遠巻きに見た村長はバイコーンの馬車を急いで走らせ村に向かった。
急いで村の外に出ている人達の所に向かい話を聞くと、ドラゴンが数匹出たという話だった。
「お父さんとお母さんは!」
そう叫び、ミーナが村の中へ入っていったので、その場は村長に任せ、ルディールはミーナの後を追い宿屋へ向かった。
ミーナの家に向かうと少し屋根が壊れていたが、両親は無事で片付けをしており営業の準備をしていた。
「お父さん!お母さん!大丈夫!?」
「ん?おー。ミーナとルーか早かったな」
「ドラゴンが数匹出たという話を聞いたんじゃが?大丈夫か?」
「ああ、四匹いたな、取り巻きのロックドラゴンが三匹で、たぶんだがアースロックドラゴンがでやがった…」
「そのドラゴンの強さはある程度しか分からんが、無事でよかったのう」
「その辺りは村長が来たら詳しく話すが、…あっそうだ、ルーお前、家の庭に罠はったらちゃんと一声かけろよ」
「うん?何がじゃ?」
それからすぐ村長が来て、ミーナの父が何があったのかを詳しく話しはじめた。
今日の早朝に森の中が騒がしくなり、村の端の森の中から四匹のドラゴンが姿を現した。
森が騒がしくなった時点で村人を集めて避難は済ませてあり、村のハンター達である程度ドラゴン達を引きつけて村への被害を抑える予定だった。
そしてドラゴン達はルディールの家近くの森から現れ、家に近づいた途端、二匹のロックドラゴンが地中に消えた。それから残りのロックドラゴンはルディールの家を避け村の方向へやってくる途中にミーナの家に働きに行っているデスコックに綺麗に解体された。
「お前の家はコックもクソ強いな!残ったアースロックドラゴンだが、森の中から白い炎毛猿が飛び出してきやがって、戦闘になって森へ追い返しやがった」
人的被害は全くなかったが、二匹の高ランクの魔物が戦ったので、建物への被害は多少あっただけで済んだとの事。
「もう来ないとは思うが、一応女子供はまだ外に避難させてる感じだな」
(デスコックや食竜植物も元ボスモンスターなだけあって、やはり強いのう)
その話を聞いて村長がミーナの父に礼を言っていた。
「それと、ルーの借家だがまだ被害状況を確認してないから、見といてくれ。ウチの家とお前の家の付近でドラゴンと炎毛猿が戦闘してたからな」
「わかった。ではわらわは少し家に戻って様子を見てくるのじゃ」
家に戻ると、屋根が半分吹っ飛び所々焼け焦げ、コボルト達が片付けをしており、ルディールの私物は別の部屋に、壊れた家の角材等は外にまとめてあった。
「…お主達、優秀じゃのう」
「わん!」
それから食竜植物がいる庭の方へ行くと、ロックドラゴンを二匹引きずり込んだ大穴が空いており、相変わらず花が咲き誇っていた。大穴から蔓が伸びてきて、ルディールに拳サイズの宝石の様な石を渡した。
ルディールがその石に悩んでいると、蔓が動きジェスチャーで伝えた。
「ドラゴンっぽいのを苗床にした時に、体の中心付近に有ったから取っときました?…うむ、ありがとうなのじゃが、その大穴を埋めとくのじゃぞ?」
そう言うと蔓がシュタ!と動き、直ぐさま地面が動き、庭に空いていた大穴を埋めた。
最後にデスコックがやって来て、ばらしたドラゴンの肉の部分は早めに食べないと傷むので、宿の食堂で出しても良いかと聞かれたので、快く返事をした。後、皮や鱗や骨は家の中に置いてあるから好きにしてくれとの事だった。
ルディールは少し壊れた家を見て独り言をつぶやく。
「うむ!村に大きな被害が出なくて良かったわい。じゃが…そのドラゴンを見つけて一発殴ろう。うむ。さすがにむかつく」
片付けを終わり、職場に向かうコボルト達に(家壊されてむかつくので、ドラゴン見つけて川に流してきます)のメモを書いて渡し森の中へ入って行った。
森へ入ってすぐ、群れの炎毛猿達の出迎えがあり、少し慌てていた。
「うほ!」
「なんじゃと?元ボスや数匹の仲間達がケガをしたじゃと?分かった、なんとかしよう、案内たのむ!」
ルディールは背中に翼を生やし、直ぐさま群れの猿達の所に向かった。
すぐに群れの猿達は見つかった。元ボス猿は大けがはしていたが命に別状は無く、他の猿達もケガはしていたが、死んだりした者はいなかった。
「サークルハイヒール!」
群れの猿達を即座に回復させ、元ボス猿に話を聞いた。
「先に礼を言わせてくれ、お主達のおかげで村の被害は最小限に食い止められた、ありがとう」
「オレモ、アノ村ニハ縁ガアル気ニスルナ」
「それで、そのドラゴンはどうなっておる?」
「オレ達デ、森ノ中マデハ押シ返シタガ、堅スギテコチラノ攻撃ガ通ジン」
そのドラゴンの外皮は岩や鉱石でできており、非常に固く炎毛猿達の打撃や炎が効かなかったという事だった。
「お主の攻撃が効かんとかどんだけ硬いんじゃ…」
「ボス、ドウスル?」
「うむ、とりあえず一発蹴り入れてからボコるのじゃ。わらわも家を壊されておるし、この森の主はお主に任せたいからのう、そのドラゴンは何処におるかわかるか?」
「コッチダ」
そういって炎毛猿達は木々の上を飛ぶ様に跳ねて行き、ルディールもそれを追い羽を生やし飛んで追いかけた。
目的のドラゴンはすぐに見つかり、体を休める様に横になり寝ていた。
「よし、後はわらわがボコる。お主達は見ておれ」
そう言うと猿達が頷き、巻き込まれないように距離を取った。
ルディールは気配を消し静かにドラゴンの近くに降り立った。
そしてミーナからもらったブレスレットで足の部分を守るように障壁を張り、体内に魔力を巡らせた。
「こんのー!クソドラゴン!」
幼なじみの女の子が男の子を起こす様に力いっぱいに、ドラゴンの顎に蹴りを叩き込んだ!
そのルディールの怒りの蹴りで衝撃波が発生し、ドラゴンの顔辺りの鉱石は全て砕けたが、尖った岩のような様な尻尾で反撃して来て、それが開戦の合図になった。
「ボス猿の時もそうじゃが、かなり本気で蹴っておるのになかなか一撃では決まらぬのう。先人達の様に決め技にせんといかんのじゃろか?…しかしさすがドラゴンじゃな!やはりかっこいい!」
ドルルル! と岩山の様なドラゴンが威嚇してきたがルディールは観察する。
そのドラゴンはミーナの父が言っていた様に岩や鉱石を纏っており、そして尻尾は尖った岩が槍や剣のようになっており、額には大きな青金石のような水晶が角の様に生えていた。
「槍の様な尻尾や水晶の様な角は有るとは聞いてはおらぬが、アースロックドラゴンじゃろな?」
と言っていると、ドラゴンの口が大きく開き、魔力が体を巡ってルディールに向かって岩や砂の混じったブレスを放ってきた。
ルディールは即座に躱したがその威力は思った以上に強く森の木々が吹き飛んだ。
「土石流の様な感じじゃな、森の形を変えられる訳にもいかぬ、早々に決着をつけさせてもらう」
ルディールはまた背中に翼を生やし、戦闘態勢に入り森へ被害が行かぬように空から魔法攻撃をドラゴンに浴びせた。
「ソウル・ガトリングショット!」
機関銃の弾の様な無属性の魔法を浴びせたが、そのドラゴンの外皮は硬くルディールの魔法を弾いた。
「嘘じゃろ?そこまで弱い魔法ではないぞ…」
戸惑っていた所にドラゴンの額の水晶が大きく光り、大岩や石を浮かび上がらせ磁石が引き合うように、ルディールを中心にかなりの速さで飛んできた。
流石にルディールも全て躱す事は無理だったので、物理障壁と魔法障壁を張り攻撃を凌いだ。その直後にドラゴンの内に入り込み、白炎毛猿を倒したソウルバンカーを打ち込んだが、やはり堅く少しのダメージはあったが、決定打にはならなかった。
「攻撃力だけならボス猿の方が遙かに上じゃが、この堅さはかなり厄介じゃ、城門のような奴じゃな。………城門のう」
自分の呟きで何かを思い出したルディールは、次に使う魔法を決めドラゴンに接近する。
ドラゴンが尻尾で攻撃してきたが、蹴りで軌道をそらし、カウンターでゲーム時代にルディールが城門を破壊する時や大型の魔物を討伐する時によく使用した魔法を唱えた。
「シュトルムボルグ!」
ルディールの周りの光が集束し、大きな破壊槌の様な形になり、ドラゴンの体を打ち抜いた、その衝撃は凄まじく、よく転生ネタにされるトラックより、少し大きなドラゴンを数十メートル吹っ飛ばした。
「これでどうじゃ?さすがに顔見知りのギルドのオリハルコンの城門より固くはないじゃろ?……ほう」
ドラゴンは立ち上がったが、かなりのダメージが入ったようで、外皮や体の岩などがビキビキと音を立てヒビが入っていった。
そしてドラゴンが怒りに身を任せ、突進しようとしてきた時に一気にヒビが全身にまわり、バンッ! と大きな音をたて、外皮が弾け、額の角のような水晶も根元から折れた。
そしてルディールを睨み付け流暢に人の言葉を話した。
「ガハッ!おのれ、忌々しい人間め!」
その事に少し驚いたが、ボス猿も話すしのうと納得した。
「それは、こちらの台詞じゃ家を壊され、村を襲撃されたのじゃからな」
「それの何が悪い」
「いや?悪いとは言わんが、お主も自分の巣を壊されたりしたらやり返すじゃろ?そういう事じゃぞ?」
「へりくつを!」
そう言って再度、突進してきたが、もう体力もそれほど無いのかルディールの回し蹴りで軽く吹き飛んだ。
「これで終いじゃ。もうこちらの気は収まったからのう、村や猿達に何もせんのなら見逃してやるぞ?」
その一言を聞き、またドラゴンがふらふらと立ち上がった。
「その小さな体の何処にそのような力が!」
そして額の角があった所に光が集まってドラゴンの大きな体を包み込み発光した。その光がやがて消えると立派なドラゴンの姿は無くルディールよりも大きな女性になっていた。
その姿を見た瞬間に、ルディール・ル・オントがこの世界に召喚されてから、いや生まれて初めてブチ切れ叫んだ。
「ドラゴンと言うのはな!ドラゴンだからこそ格好いいんだよ!それを少し不利になったからと、人に媚びを売り!人型になるなど!世界が許しても、わらわがゆるざん!!」
怒りのあまり普段の言葉遣いも忘れ、魔力の全てを解放させた。その圧倒的な魔力に人型になったドラゴンは怯え何かを言おうとしたが、音を置き去りにした六枚羽のルディールに接近され、渾身の右ストレートを顔面に受け、山一つ分ほど吹っ飛ばされ決着した。