朝起きたら知らない世界でマイキャラでした 第18話 図書館

 次の日、ルディールが起きるとミーナはすでに起きて、部屋にある小さなお風呂に入っていたようで、濡れた髪を魔法で乾かしていた。
 
「ルーちゃんおはよう。起こしちゃった?それと昨日は部屋まで運んでくれてありがとね」

「そろそろ起きるつもりじゃったからええわい。運んだ時に起きておったのか?」

「寝てたと思うんだけど、布団かけてくれてるな~みたいな記憶があるから、ルーちゃんかなっと思って」

 そう話しながら髪を乾かし終わるミーナの姿を見て、感心したようにルディールが魔法を褒める。

「ほー、お主かなり魔法の制御が上手くなったのう」

「えっ?そうかな?今まで難しく考えすぎてたんだと思う。ルーちゃんに教えてもらったみたいに身近に使い出したから慣れてきたのかな?」

「せっかく魔法があるんじゃから楽に楽しく使わんとつまらんじゃろ?」

「ほんとそれ、お風呂洗ったり、トイレ掃除したりね」

(そうじゃ、一応ミーナにも昨夜の話を簡単に伝えておくかのう)

 ルディールはミーナに昨夜の話をロードポーションの値段などは伝えず簡素に話した。

「おぉー。じゃあバルケさんの腕治ったんだ」

「そういう事じゃ。二つ名が片腕なんじゃが、【両腕】のバルケになるんじゃろうか?」

「そうなんだけど……何か違う気がする」

 それから二人は朝食を取るために、一階に降りてくると酒場のカウンターに張り紙があった。

「うむ?なんじゃ?」
 
 本日二日酔いの為休業。

 ミーナが少し呆れ、お店は大丈夫なのかな?っと心配していると、二階から声がかかった。

「おう!ルー坊とミーナちゃん、おはようさん」

 そこには、昨夜一緒に飲んだバルケの姿があった。

「うむ、お主は二日酔いにはなっておらぬようじゃな」

「おはようございます」
 
二人はバルケに挨拶をし、少し世間話をしていると早く大剣を振りたいからと、早々に話を切り上げ、背負ったミスリルとメテオライトの合金でできた鈍く光る大剣を自慢して去っていった。

「でっかい子供じゃな」

「バルケさん、嬉しそうだったね」

 一階の酒場で朝食が取れなかったので別の場所で食べようと外に出ると、ちょうど村長がこちらに向かって来ていたが、その顔は非常に疲れ切っていた。

「ああ、オントさんとミーナさんですか、ちょうど良かった」

「村長、お疲れ様じゃな」

「はい。正直に言ってとても疲れました」

 詳しく聞くと、セニアとアコットを救出した事でリノセス家からお礼があり、またセニア達が帰って来たことで、他の貴族達も集まって色々と大変だったとの事。終わったと思ったら、イオード商会とパラメト商会から呼び出しがかかり、冒険者達が行方不明になった事かと恐る恐る行くと、ルディールが返却した盗品の礼などで社交辞令で大変だったらしい。

「オントさん、そういう事は一言、言っておいてくださいね」

「うっうむ。すまぬ。が悪い方向には行かなかったじゃろ?」

「はい、次回から村に来る行商の数を増やしてくれると、どちらの商会も約束して頂けました」

「うむ。それはよかった」

「後は、アコット様がオントさんに会いたがっていたので、セニア様とあやすのが大変でした、リノセス侯爵様がお礼をいいたいと言っておられましたがどうします?行きますか?」

「……いや、記憶という物は不安定な物じゃ、わらわを見て思い出すこともあるじゃろ。会って辛い事を思い出させても、こちらも辛いだけじゃし止めておこう」

「ルーちゃん……めんどくさそうな顔して、真面目な事いっても嘘だとわかるからね……」

「はぁ、リノセス侯爵には無理だと伝えておきますよ」

ルディールは満足げに頷き、今日向かう予定の図書館の場所を聞いて、馬車が一台入るような倉庫をかしてくれる様な所はないかと村長に尋ねた。

「倉庫ですか?でしたら一度、パラメト商会に行けば紹介して貰えると思いますよ。パラメト商会は建築関係で財をなした商会ですので」

 リノセス家に行く途中でどちらもあるので、一緒に行きましょうと三人で向かった。途中でミーナが倉庫は何に使うの?と聞いて来たが、ルディールは後のお楽しみと答えていた。

 パラメト商会に行くと、村長が盗品を返却したと言う話がすでに伝わっており、スムーズに愛想良く話が進み、何件かの倉庫を紹介してもらえた。

「こちらの希望としては、人通りはそれなりで、中から鍵がかけられ荷馬車が入れるぐらいの大きさがあれば良いと言うのが理想じゃがあったりするか?」

「ええ、ありますよ。こちらの倉庫になります」

 その倉庫は、ちょうど路地裏の様な所にあり、値段も安くルディールからすれば理想的だった。

「おお。これで良いわい、いくらになる?」

「サイズも小さく倉庫として使用するのは難しいので、月に金貨二枚ですが、盗品を返していただいたので月に金貨一枚でどうですか?」

「いや、まけてくれるのはありがたいが、今後も取引を続けていきたいので、ちゃんと正規の金額を払うのじゃ。気持ちだけもらっておくのじゃ」

「そうですか?わかりました、ではこちらが倉庫の鍵になりますので今後ともごひいきに」

 ルディールは先に数ヶ月分をはらい、倉庫の鍵を受け取って借りた倉庫に向かった。

「うむ。これぐらいでちょうど良いのう」

「ルーちゃん、この倉庫は何に使うの?それとさっきは何でまけてもらわなかったの?」

 とミーナが色々と質問してきた。

「今後ともあそこの商人達とは付き合いが有りそうじゃしのう、少額でもまけてもらったら次はこちらがまけないとだめじゃからな。払う物は少額でもちゃんと払った方が良いぞ。村長は商人ではないからまけてもらったがのう。それとここを借りた理由じゃが、二人ともわらわの手を持て」

 ミーナと村長の手を握り、ルディールは魔法を唱える。

「シャドウダイブ!」

 影が三人を飲み込み、吐き出すとそこはルディールがリベット村で借りている家だった。

「こういうことじゃ、ある程度は隠すがせっかくつかえるんじゃから使わないと勿体ないわい」

「えっ?でも何かあった時に門を通ってないとバレたら、ルーちゃんのせいにされない?」

「なんの為に兵士達に金貨を渡したんじゃろな~?こちらからは悪事はせんが、何かあった時に通りましたよ。ぐらい言って貰えれば大儲けじゃからな」

 納得した二人をつれてまた中央都市に戻り、村に帰りたい時はここから帰ればよいと説明した。すると村長が明日の朝には村に戻る予定ですが、皆さんはどうですか? と聞いて来たのでミーナの用事は終わっており、ルディールも今日には終わるので、明日の朝この倉庫に集合になった。

 それから図書館に向かう途中でミーナが何かを見つけ露店に行ったので、村長に山賊の懸賞金等を三等分しようと提案したが断られ、お互いに譲らなかったので村長とミーナに金貨50枚ほどで落ち着いた。

「額が額だけにミーナに直接渡すよりは、両親に渡した方がええんじゃろか?」

「そうですね、無駄遣いするのも一つの勉強でしょうけどその方がいいと思いますよ」

 と話していた辺りで、ミーナが露店から帰ってきてルディールに何かを渡した。

「ぬ?なんじゃ?」

「私からのプレゼント。いつもお世話になりっぱなしだから受け取ってもらえるかな?」

「気にせんで良いのにと言いたい所じゃが、素直に嬉しいのう」

 中を確認すると小さな宝玉が埋め込まれた小さなブレスレットだったのでルディールはさっそく手首にはめた。

「おお!これは良いのう!似合っておるか?」

「似合ってるけど…ルーちゃんが身につけてる物からすると見劣りするね…」

「何を言うておるか、物の価値は持ってる人が決めるんじゃぞ、わらわからすれば見劣りせんわい」

 そう話していると、村長が魔障壁のブレスレットですねと言って、ミーナがくれたブレスレットの説明をしてくれた。

 装備してる人の魔力が多ければ多いほど張れる障壁の堅さが増すらしいが、魔力の多さは人と比べて何十倍という人はいないので、そこまで堅くなる事はないので、初級の冒険者達がよく使うアイテムだと教えてくれた。

「ルーちゃんよく危ない所に行ったりするからお守り代わりにね」

「お主やはりいい奴じゃな!ありがとう!」

(このブレスレットのおかげで可能性がかなり増えたのう、ゲーム中ではわらわの装備枠はいっぱいで装備など増やせぬはずだったんじゃがな…今はその様な事は無粋じゃな、気持ちが嬉しいもんじゃ)

 それから終始笑顔のルディールは、図書館に着きそこで、村長と別れ中へ入っていった。

 受付で説明を受けると、音消しのミサンガというアイテムを貸してくれて、話をしていても周りには声が届かない魔法がかかっており、館内放送や一定の距離での会話は聞こえるのだと教えてもらった。

「ほぉー!すごいアイテムじゃな。ミーナにはわらわの声が聞こえておるんじゃろ?」

「うん、聞こえてるよ。周りの人には全然聞こえてないみたいだね。ルーちゃん、叫んじゃだめだよ?」

「くっ!先読みされた!」

 話しながら図書館の中を見て回っていると見たことのある魔法使いが近づいてきた。

「……こんにちは、ルディール・ル・オントさん」

「おー【焼き鳥】のメンバーの魔法使い、久方ぶりじゃな」

「……はい、お久しぶりです。ちなみに私はねぎまが好きですね」

「えっと……ウチに泊まってくれたPTの魔法使い様かな?」

「そうじゃ、名は知らぬが昨日の剣士と平べったいのと一緒のPTの魔法使いじゃな」

「……ソアレ・フォーラスです。……そちらの方はお弟子さんですか?」

「いっいえ、違いますよ、ルーちゃんの友達です」

「……そうですか」

 その対応が不思議に思ったルディールはソアレに聞くと、ミーナの魔力の流れは精練されておりDランクもしくはCランクの魔法使いと同じぐらいなのでそう思ったとの事。

「この前まで魔法つかえんかったのにのう」

「なんでだろうね?魔法使い様に褒めて貰えるぐらいだから、学校行っても恥かかないかもしれない」

「……学校?」

 今度はソアレがその言葉が気になり、ミーナが学校に行くと伝えるとわかりづらいが驚いた様な表情をしていた。

「それはそうとお主の様な、魔眼持ちは多いのか?」

「……そうですね、私の様に片目で千人に一人ぐらいで、両目だと五千人に一人ぐらいです」

 ですがと付け加えて、いくら魔眼を持っていても使い方の特訓をしなければ、魔力や魔力の流れは見えないらしい。

「……私の教え子には両目が魔眼の子がいますが。まだ使い方が分からないようで魔力などは見えないようです」

「なるほどのう。もう一つ聞きたいんじゃが、魔法関係の本は何処にあるか知らぬか?」

「…こっちです」

 なぜか先を歩き、案内してくれる事になったのでルディールが暇なのかと聞くと、自信満々に暇ですと答え、目的の本がある所に着いた。

「ミーナよ。わらわはこの辺りで本を見ているので、すまぬが少し時間を潰しておいてくれ」

「うん、わかった。フォーラス様、学校に行く時に覚えておいた方がいい魔法などはありますか?」

「……ソアレで良いです。あと様もいりません。ルディールさんクラスの大魔法使いを、ちゃん付けで呼んでいるのに、私に様をつけるのはおかしいです」

「はっはい。ソアレさんで良いですか?」

「……はい、良いです。何冊か持って中庭に行きましょう。ここの中庭は広く結界が張ってあるので、魔法の練習ができます」

「じゃあ、ルーちゃん先に中庭にいってるね」

「了解した、わらわも本を見つけたらそちらに向かうのじゃ」

 ルディールは二人と別れ、魔法に関する本を探し始めた。

 本と本に挟まれた通路を歩いていると偶然、窓から光が差し込み、ルディールが持つ真なる王の指輪に反射して一冊の本をてらし、ルディールはその本を手に取った。

「なんじゃ?一人ぼっちの獣の王様?ふーむ、童話っぽいのう」

 なぜかその本が気になり、ルディールはその本だけを手に取りミーナ達がいる中庭に向かった。

 中庭というにはかなり広い場所で、ミーナとソアレが魔法の練習をしていたので近くにいき、ミーナにもらったブレスレットで小さい障壁を作り、そこに座って本を読み始めたら二人が近づいてきた。

「ルーちゃん、いい本あった?ってどうやって浮いてるの?」

「ん?お主にもらったブレスレットで障壁つくってそこに座っておるぞ、ほれ」

 ルディールが座っている所を叩くと堅い物を叩いたような音がして、少し風景が濁った何かがあった。

「へーそうなんだ。役に立ちそうで良かったよ」

 と会話しているとソアレが、普通その障壁に座れるぐらいの強度はありませんが何か?というような顔をしていたがルディールの持っている本の話をしてくれた。

「……一人ぼっちの獣の王様ですか?なつかしいですね」

「知っておるのか?」

「……内容までは言いませんが、魔法使いになる者は戒めとして読む本ですね。しりませんか?」

「うむ、ぼっちなら体験しておるが、しらぬのう」

 そう言って静かに本を読み始めた。

 むかしむかしある所に一人の男がいました。

 その男はとても強く獣達と話せましたが人の知り合いはいませんでした、でも幸せに暮らしていました。

 ある時、どこかの国の王様がその男の事を知り、我が国は戦争をしている、お前の力で勝てたなら次の国王はお前にしてやろうと言いました。

 男は一度、断りましたが、獣達が安心してくらせる為に剣を取り戦いました。

 男はとてもとても強く、人では相手にならずにその国は勝利しました。

 そして男は王様になりましたが、その強すぎる王様が怖くなって周りの国が一つになり、王様を倒しにきました。

 王様は国の人々や獣達の為に何度も何度も戦い全ての戦いに勝ちました。

 次は王様を怖くなった国の人達に妻と子供を人質に取られ王様は殺されてしまいました。

 最後は友人を殺された獣達が怒りに狂いその国の全てを壊しました。

 おしまい

「なるほどのう…確かに戒めじゃな。誰も悪くない所がむずかしいのう」

「…はい、この手のお話は見る人によって意見が分かれるのが面白い所ですが」

「えっ?力を持っていると怖がられるの?」

「う~む。わらわの意見になってしまうんじゃが、そうじゃの~。お主がまったくしらない兵士さんがおるとするじゃろ?」

「うん」

「その兵士さんがお主以外の村の人を全員ぶっ殺したら次は自分の番かと思わんか?」

「……思うね」

「じゃが、実は村の人全員でお主をぶっ殺そうとしていて、その兵士さんがお主を助ける為に村人をぶっ殺しても、それが分からねば怖いじゃろ?かと言って説明されて、はいそうですか、とも信用できんしのう」

「そういう時はどうしたらいいの?」

「正直どうしようもないぞ、自分から見て信用できるかできないか?になってくるからのう。あと、こわいこわいと思って恐怖心がたまっていくと、見えるものも見えなくなるから難しいわい」

「……怖くなるとまったく動けなくなったりもしますから、難しいですよね」

「あー、だからルーちゃんは何をするにしても隠したがるんだね」

「んや、わらわの場合はめんどくさがってるだけじゃぞ」

「自分で言っちゃだめなんじゃ……と言うかそのお話の王様はルーちゃんに似てるね。動物と話できたり強いし」

「なんじゃい、わらわには、おティムティムはついておらぬぞ」

「一言もそんな事言ってないよね!言ってないよね!」

 そのツッコミにルディールがウブじゃのうと言ってソアレがウブですねと返していた。

 それから朝ご飯を食べて無いことを思い出して、三人で図書館の食堂で朝食を取り、お昼からも暇なのでとついてきたソアレに本屋を案内してもらい、ルディールは本を買い漁りその日は終了した。

 その夜ルディールはとても不思議な夢をみて、とても辛そうにしていたのでミーナに起こされた。

「……ちゃん!……ルーちゃん!大丈夫?……とても辛そうだったんだけど」

「…何かとても辛い夢を見ておった気がするんじゃが、いまいち覚えておらぬ……」

「夢ってそういう感じだしね、大丈夫?」

「心配させてすまぬのう、大丈夫じゃ明日は村に帰る日じゃし、ささっと寝とくのじゃ」

「うんっそうだね。おやすみ」

 その夜はもう夢を見ることは無かったが、ルディールは夢の中で見た男にどこかで会ったような気がした。

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