朝起きたら知らない世界でマイキャラでした 第17話 情報収集

「あん?おめーら、知り合いだったのか?」

 ルディールと片腕と呼ばれる冒険者のやり取りを見て、ミーナの叔父が声をかけてきた。

「先ほど知り合ったと言う感じじゃな」

「おう、そんな感じだ。角付きの嬢ちゃんさっきは悪かったな」

 男はそう言って素直に頭をさげた。その姿にルディールは素直に感心した。

「別にええわい。特に何かされた訳でもないしのう……というか冒険者とはもっと血の気が多い奴ばかりだと思っておったが、そういう訳でもないんじゃな」

「おい、バルケ!姪とその友人に手だしたら三枚に下ろすぞ!」

 バルケと呼ばれた片腕の冒険者とミーナの叔父は知り合いだったようで、お互いに軽口をたたきながら話をしていた。

「俺の名前はバルケだ!姓は捨てた、ソロBランク冒険者の片腕のバルケだ。嬢ちゃん達は?」

「ボッチのバルケでいいぞ!ガハハハハハッ!」

「ボッチじゃねーよ!」

「わらわの名はルディール・ル・オントじゃ、猿山の魔法使いじゃ。態度のでかさだけならXランクじゃな。好きに呼ぶとよい」

「ルーちゃん……自分で言うことじゃないよ……。私はミーナ・ルトゥムと言います」

「量産型村娘じゃな!しかし最近、魔法を使い出したから量産型では無いかもしれん」

「だから量産型って何!?」

「じゃあ、角付きの嬢ちゃんはギーメイさんって呼べばいいんだな?」

 ルディールは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてバルケと大きく笑いあった、不思議に思ったミーナの叔父がミーナに聞いて次は三人で爆笑し、バルケが昼間の詫びだと言って二人に夕食をご馳走してくれることになった。

「あっありがとうございます。ルーちゃん、何食べる?」

「もちろん焼き鳥じゃろ!」

 ミーナが少しあきれルディールとバルケが、また笑い少し賑やかな酒場で夕食を取り始めしばらくの間、料理に舌鼓を打ち食事を楽しんだ。

「ほー、じゃあルー坊は旅の人って感じなんだな」

「そういう感じじゃな。 今はリベット村を拠点にしておるがの……正直、前の国(世界)とは違いすぎて、色々とてんてこまいじゃな」

「えっ、そうなの?ルーちゃん色々と教えてくれるから、そこまで困ってた感じはしないんだけど」

「わかる範囲で偉そうに言っておるだけじゃからの~」

「よし、じゃあ元Aランク冒険者のバルケ様が色々教えてやろう!さぁ!何が聞きたい!」

 そう言ってバルケは立ち上がり大きく胸を叩いて酒を一気に飲んだ。周りのテーブルで食事や酒を楽しんでいた人達とも顔見知りだったのか、お前降格してBじゃねーか。とか過去の栄光くんなどのヤジが飛んできた。

「僻みか!うっせー!バーカバーカ!」

 ヤジを飛ばしてきた連中に絡みに行くバルケを見てルディールとミーナは笑い合った。しばらくして戻ってきてから話が再開した。

「そうじゃな、特定の何かを聞くと言うより、お主が今まで経験してきた冒険を聞かせてくれぬか?その都度わからぬ事があったら聞くようにしよう」

「わかった!俺に任せろ!」

 話し出そうとすると、ミーナの叔父が通りかかり。

「半分酔っ払ってるから嘘もかなりまじるぞ!」

「言わねーよ!」

「面白ければ何でも良いわい」

 バルケの話が始まってすぐにルディールからしてみれば、有益な情報が待っていた。それは冒険者ランクに関する話でCからBに上がる時はドラゴンの討伐、BからAはドラゴンの単独討伐、AからSは魔神や災害クラスの魔物討伐、SからXは魔神等の災害クラスの単独討伐が基本的なランクアップだと教えてくれた。

「少し聞きたいんじゃが、雲の中から出てくる山のような鳥と白い炎毛猿はどの辺りの強さになるんじゃ?」

「おー雲巣鳥か?もしくは音置鳥か?似たような大きさなんだがAとSランク辺りになると討伐のクエストを紹介して貰えるぞ、強さだけならそこまでなんだが、相手が空を飛んでるからな~。白炎毛猿は余裕でSだな。あいつらはなんせ賢いからな、すぐに人間の戦い方に順応してきやがる。俺より賢い自信あるぞ!がははは!」

 そう言って酒を飲みまた話し始める。

「魔神と言うのは何じゃ?」

「その辺りは人型の災害クラスの魔物の略語だな。魔法とかで村とかが一発で消し飛ぶ奴らをそう呼んでるだけだな、まぁ出現したら最悪どころの話じゃないけどな」

 その話にミーナが出た事あるんですか?と聞いた。

「魔界にはいるらしいけどな~、後は極まれに馬鹿共が召喚したりするな」

 滅多に会うことはないが出た時に討伐できる戦力を持ってる奴らがSランクとXランクだそうだ。

「ほー凄いもんじゃな。何人ぐらいいるもんじゃ?」

「そうだなー。世界規模でみると分からんが、ローレット大陸とその周辺だとSランクが3~4PTいるかいないかでXランクが三人だな。勇者と聖女と乱れ雪の女王だ」

「SランクがPTなのにXランクになると個人になるんですか?」

「あれじゃろ?個人の強さが凄すぎてまわりがついてこれぬか……もしくは巻き込むか……」

「そういうこった。勇者と聖女は正直いるかどうか怪しいが、乱れ雪の女王の魔法は見える範囲全ての凍結らしいからな」

「うわっ怖っ!」

 バルケが調子よく話していると、また周りからヤジが飛んでくる、そんなのいるわけねーよ!などなど。

(今の話からすると、わらわの強さはかなり上におるのう……じゃがボス猿の強さがあれじゃから油断しておると普通に死ねるのう……)

 ルディールの強さはこの世界ではまだ未知数だったが、冒険者との戦闘や炎毛猿との戦闘と今の話である程度の立ち位置がわかってきた。

 また話を聞いたり質問を繰り返していると。

「そうだ、来月辺りになると思うが、空中庭園の調査が掲示板に貼られてたぞ。ルー坊もでろよ」

「新聞に書いてあったのう。高度が落ちてるらしいが、わらわは冒険者ではないぞ?」

「そこの窓から見える細長い塔があるだろ?あそこに飛空挺がとまるからそこから向かうんだが冒険者じゃない奴は自腹だな」

「冒険者じゃない奴が行くと罰せられるのか?」

「いや、特に罪にはならねーが、報告はしといた方がいいぞ。俺も昔、ダンジョン見つけて黙ってたら後々大変だったからな」

「ほー。気が向いたら自力でいくかのう」

 空でも飛んでいくのか?がははは!行く時は一緒に連れて行ってくれ!などとはなしの流れで海上都市の行き方や、吹雪の国の話になり、かなりの時間がたち、ミーナの方を向くとイスにもたれ掛かる様に寝ていた。

「疲れ切ったリーマンみたいじゃのう……すまぬがバルケよ。ミーナを部屋まで運ぶから少し待っておいてくれ」

「おう。何かたのんどくか?」

「適当につまみでも頼む」

 マジカルハンドを召喚して、ミーナを起こさない様に自室にもどり布団に寝かせ、もしも誰かが侵入してきた時の為に冥界に引きずり込むトラップ型の魔法を設置して、また一階に降りてきた。

 その頃には夜もかなり更けており、酒場の中にはバルケ達だけになっており、テーブルにはミーナの叔父も座っていた。

「おう、姪をありがとよ。あり合わせで作ったやつだが、つまみにはなるだろ」

「おお!美味そうじゃな!ありがたいが……」

 そう言ってバルケの方を見ると酔い潰れていた

「飲み過ぎじゃな」

「そうだな、ひさしぶりに昔の話をしてうれしかったんだろ。こいつも昔はソロでAランクまでいけた凄い奴だからな」

「降格してBになったとか言うておったのう」

 本人ではなく人づてにその内容を聞くのは躊躇ったが、ミーナの叔父がそういうのを気にする奴じゃねーよと言って話し始めた。

 冒険者としてはよくある話だった。他のPTの無茶な作戦に巻き込まれ、片腕を無くし自分本来の戦闘スタイルを維持できなくなりBランクに降格したという話だった。

「何とも救われない話じゃな」

「本人がいまいち気にしてないのが余計にたちが悪いわな。まぁBランクでも中央都市ぐらいじゃ、余裕で一軒家持ちで生活できるがこいつは金貯めてロードポーション買って腕生やして、また大剣をふるんだとよ」

「でっかい武器はロマンだ!火力こそ正義だ!」

 バルケが一瞬だけ起き、叫んでまた意識を無くした。

「ふふっ【困ったら火力!】におりそうな奴じゃな。そのロードポーションとか言うのはいくらぐらいするもんなんじゃ?」

「この国の硬貨は金貨が主流なんだが、あんまり高くなるとアホほど金貨がいるだろ?」

「うむ」

 金貨五枚分の大金貨。金貨十枚分の白硬貨。金貨百枚分の黒硬貨があると教えてくれた。白硬貨や黒硬貨は盗まれると大変なので、金貨がメインで回っているらしい。

「大体オークションで出るんだが最低、黒硬貨200枚ぐらいから始まりだな……物が無いのが余計にたちが悪いが」

(ふむ……大体、金貨一枚、一万円ぐらいで考えておったから単純に二億か……)

「凄いのう……どんなポーションなんじゃろな?」

「古傷も全て治し体の悪い所も治るって言うからな~。見た事はねーが、虹色のポーションって話だな」

「虹色のう……うん?」

「どうした?」

 ルディールは少し心当たりがありアイテムバッグの中を探し出した。

(ロードポーションと言うのは、もしかしてゲーム中で使っておったフルライフポーションの事か?)

「これじゃったりせんよな?」

「おおう……虹色だな、ってかすまんが俺も、本物を見た事ねーからわからんは」

「それはそうじゃな!ポーション系には間違いないから人体実験してみるか?」

「ロードポーションだったらどうすんだよ!鑑定所に持っていけよ!」

「正論は確かに正しいがそれを使う奴は間違ってる奴が多いものじゃぞ?と言うか二日続けて同じ店に行くのは、何か行きにくくないか?また来たん?って顔されるじゃろ」

「間違ってねーよ!しかも気にしすぎだろ!」

 叫ぶミーナの叔父を無視してルディールはバルケに呼びかけた。

「ほれ、バルケよこれを飲め」

 寝ぼけながらにフルライフポーションを飲み、また机に倒れ込む様にバルケは寝た。すると体が光り出し義手が床に落ち、肉が盛り上がる様に無くなった腕が生えてきた。

「うわっ。肉が盛り上がって腕が生えてくるのは、かなり気持ち悪いのう」

「おい!絶対に感想まちがってるぞ!ロードポーションだぞ!」

「うむ!そうみたいじゃな。実験は成功です博士!」

 それからしばらく、ミーナの叔父が黒硬貨200枚以上するんだぞ!など色々なツッコミを入れていたが、ルディールは特に気にせず、先ほどからの情報の礼だと言ったのだが。

「そんなの酒一杯レベルの情報だろ!」

 とまたツッコミを入れルディールに流石はミーナの叔父じゃな、血は争えぬなと言われて肩で大きく息をしていた。

「姪の事を本気で尊敬したぞ。お前みたいな奴とよく一緒にいれるわ……はぁ……後になったが俺の友人の腕を治してくれてありがとよ」

「うむ。わらわが持っておったと言う事を言わぬならかまわんよ」

「わかったが、この気持ちよく寝てる奴が気に入らんから脅かしてやろう」

「ふむ。それは実に良い考えじゃ」

 獲物(おもちゃ)を見つけた二頭の獣の目が光り気持ちよさそうに寝ているバルケをたたき起こす。

「おっおい!バルケ!起きろ!お前何してるんだ!」

 バルケはミーナの叔父に肩を強く振られ起こされる。

「なっなんだ!」

「おっお前覚えてないのか!」

「何をだよ!」

「バルケ!お主、わらわが部屋に行ってる間にアイテムバッグをあさり、次のオークションに出品するロードポーションを飲んだのだぞ!」

「はぁ?そんなわけあるか?…あ?」

 こいつらは何を言ってるんだ?と言う様な顔をしていたが、床に落ちている義手と無かったはずの腕を見て、それが本当の事だと物語っていた。

 その事実にバルケの眠気と酔いは一気に覚め、矢より早く土下座をし頭をさげた。

「すまねー!ルー坊!いや、ルディールさん。酔っていたとはいえ貴方のアイテムを勝手に使ってしまって、一生かかってでも返しますので兵士達に突き出すのは待ってください!」

 バルケが頭を下げてしばらくたっても二人の反応がないので頭を上げてみると、小刻みに肩を振るわせ笑いを我慢していた。

「おっお主ほど敬語が似合わない奴もなかなかおらんのう」
 
「だな」

 その会話を引き金に二人は爆笑し当の本人はポカンとしていた。

 二人が落ち着いてから、バルケに説明し終わるとまた大きく頭をさげた。

「すまねぇ、ルー坊。ありがたいが半分も払えないぞ」

「ミーナの叔父にも言うたが、先ほどの話はわらわにはそのポーション並みの価値があったからのう。それでええわい。感謝してくれるなら黙っておいてくれればそれでよい」

「それはいいが、ロードポーションだぞ?どこから出たって話にはなるぞ?」

 物が物だけに全て隠しとおすのは無理だぞと意見をもらい、ルディールは少し考えてから自分の考えを伝えた。

「ふむ。ではわらわ達が太古の森の山賊を潰しておるから、潰した連中に頼んで格安で手に入れた感じの嘘を流しておけばどうじゃろうか?」

「あーあの情報の出所はお前達か……」

「誰が誰とまでは言わなくとも、山賊が潰れたのは事実じゃから、酒場の方で噂を流せばどうとでもとれるじゃろ」

「それだとバルケは聞かれた時は濁す方がいいな、酒場で聞かれたら適当に答えておくか、噂には尾ひれが付くしな、昼間も兵士達が角付きの天使の様な美女がいたと言ってたからな」

「それは事実じゃろ。そういう感じでよろしく頼む」

「俺はお前を美女だとは認めん!」

「分かったが、ルー坊はいいのか?」

「物が何かわかったしのう。そこまで気にするなら大冒険でもしてきてまた面白い話でも、持ってくるがよいぞ」

 バルケは分かったと返事をして、ミーナの叔父に頼んでこの酒場で一番良い酒を持ってきてもらいルディールに渡した。

 その酒をもらったルディールはいきなり封を切り、一人で飲んでもつまらんじゃろ?と三人でまた飲み直した。

 酒が無くなって、お開きになり部屋に戻ったルディールは自分が設置した罠の事をすっかり忘れており、それに引っかかり冥府に引きずり込まれそうになった。

「あっ危なかったのじゃ…ガチでマジで本気で死にかけたのじゃ……」

 異世界に飛ばされて、本当に死を感じた出来事だった。

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