暗い洞窟の中で、少女とその妹の亡骸は足を鎖で繋がれていた。
「どこで間違ったんだろ……」
王都から中央都市に向かう途中で山賊に襲われて、護衛の冒険者達も殺された……
来月から魔法学校に行くはずだったのにな…何が悪かったのかな?お母様の言う事を聞かずに中央都市に行こうとした事?内緒で妹を連れて来た事?……もうわかんないや……
体に無数の傷が有り、もう衰弱して、自力では起き上がる事もできない少女は全てを受け入れた…
(アコット…頼りないお姉ちゃんでごめんね……)
今はもう動かない妹に懺悔の様な呟きが終わると、山賊達がいる方向から叫び声が聞こえた…
「??? 何か、あったのかな?……」
もうその目は無かったが、耳はまだ聞こえたので何かがあった事は判断できた。それからすぐ透き通る女の人の声が聞こえた。
「お主、……これは酷いのう…もう安心せい」
その声が聞こえた瞬間、温かな光が少女の体を包み込み、少女は意識を手放した。
時は少し戻る
「ここがあの森山賊が言っておったアジトじゃな?時間をかける事もあるまい。さっさと終わらせて帰るのかのう」
「インビジブル!」
ルディールがその魔法を唱えると体が周りの色を取り込み消えた。
(レベルも低く姿が消えるだけじゃが…慎重にいけば行けるじゃろ)
姿を消し山賊の洞窟の中を歩いていく、中は少し暗いが明かりが灯っており、人の気配があった。
(思ったよりは広いのう…、さてとどこにおるかのう?)
奥へ奥へと歩いていくと、男の叫び声が聞こえ、ルディールはそちらに向かって行く。
「おい!どうなってんだ!まだ帰ってこねーじゃねぇか!」
男は叫び手元にある物を投げ散らかした。
「落ち着いてくだせえ!頭、もうすぐ帰ってきますって!仮に捕まっていても人質もいますから大丈夫でさ」
その暴れている男は山賊のボスだったようで、残った子分達にたしなめられていた。
「ちっ…まぁ魔眼も取ったしな。あれだけボロボロだと人質の価値もねーか…潮時だな」
「頭、どうするつもりで?」
「よし、お前ら!このアジトを捨てて他所に行くぞ!後、一時間で用意しな!帰ってこねー奴は捨てていく!」
「わかりやした!あの女はどうしやす?」
「もういらんだろ。殺しとけ!」
「わかりやした!…あれ?」
山賊のボスが子分達に指示をだして行動を開始しようとしたが、山賊達はもう既に動けなくなってなっていた…そこに数を数える女の声が届く。
「ひぃ、ふう、みぃ……ちゃんと残り六人おるのう」
その声に山賊のボスが反応する。
「だっ誰だ!」
「さて、誰じゃろな?答えてやる義理は無いのでな」
山賊が声のする方向を向くが誰もいなかった。
「まっ魔法か!姿を見せやがれ!仲間に何をしやがった!」
その場にいる山賊の内、頭と呼ばれる山賊以外は生きる事以外のすべての自由を奪われていた。
「これ以上は時間の無駄じゃな」
ルディールの体から怒気を含んだ嵐のような殺気を感じ自分の死が見えた山賊は命乞いをしてきた。
「まっ待ってくれ!抜き取った魔眼をやる!それとここにある宝も全部やる!お前も魔法使いなら魔眼の価値もわかるだろ!だっだから助けてくれ!」
「……元より殺すつもりは無いが……ここには二人の女がいるらしいがどこじゃ?」
山賊の男は自分が殺されないと、分かると少し安堵しルディールに人質の場所を教えた。
その場所を聞きルディールは、何かあった時の為に、山賊を矢面に立たせ即座に向かう。
そこにはルディールよりさらに小さな女の子の亡骸と、その少女によく似てルディールと同じぐらいの背丈の瀕死の女の子がいた…まだ息はあったが、誰の目にも、もう助かる命では無かった。
「お主、大丈夫か……これはひどいが、安心せい」
「ハイヒーリング!」
ルディールが使った魔法では少女の全てを治す事は出来なかったが、一命を取り留めた。
「おっおい!どうなってるかしらねーが!案内したんだからもう逃がしてくれよ!」
山賊は拘束され目も塞がれていたので、何があったかは分からない。
この惨状を作ったであろう人物にルディールは言葉に怒気を含め話しかける。
「お主、これだけの事をしておいて、助かるとでも思っているのか?」
その声に山賊は言い返す。
「なんだよ!ガキが一匹死んで、もう一匹おもちゃにしただけじゃねーか!力を持ってる俺が好きに生きて何が悪い!」
「……そうじゃな、一つ覚えておくと良い。好きに生きると、好き勝手に生きるでは、意味は違うぞ。まぁ自分のやった事が自分に返って来るだけじゃしな」
ルディールのその言葉に恐怖を覚えたが、耳も塞がれもう何も分からなくなっていた。
「さてと、上手くいくかのう……」
「ライフライブラ!」
その魔法を唱えると背後に金色の天秤が現れ、右の皿に少女を、左の皿に山賊を乗せた。
「命の天秤よ!少女のダメージを山賊へ!山賊の生命を少女へ!」
ルディールがそう叫ぶと、天秤が大きく傾き光を発する。
その光が収まり天秤が消えると、少女の体に付いていた傷は消え、山賊には少女に付いていた数々の傷が付いていた。
(……ダメージの入れ替えの魔法なんじゃが、こう作用するんじゃな……死者には使えぬが……)
山賊のボスを観察していると、声が聞こえ怪我が完治した少女が目を覚ました。
「あっあれ?私……」
「ほれ、大丈夫か?」
「あっはい…?あれ?目が見える?怪我は?」
まだ少し意識が朦朧としていたが、少女は怪我をしていたし、目は無くなっていたはずなのに、目の前に見える角の生えた金色の髪の少女に戸惑っていた。
「……ゆめだったのかな?」
「悪い夢だったんじゃろ……」
「ゆめ?……アコット!いっ妹!妹は!」
少女は妹の事を思い出してルディールに飛びついた、 ルディールは何も言わずに静かに少女の亡骸を指さした。
「あっあ…アコット…アコット」
少女は妹の亡骸を抱き寄せ懺悔するようにその名前を叫び続けた……
「ああっ……神様、夢なら覚めてください…私の命なら差し上げます。なんでもしますから妹を」
ルディールはその姿を見て何故か、自分と昨日、荷台で膝枕をした少女の顔を思い出した。
「はぁ~……試した事が無いから上手くいくかは分からぬが……お主、今何でもすると言ったな?」
ルディールが少女に問いかけると、少女は泣きながらも強い意志で答えた。
「はい。妹が助かるのであればなんでもします」
「分かった。その言葉を信じるぞ」
ルディールは腰に付けてあるアイテムバッグを手に取り、目的のアイテムを取り出す。
(あったこれじゃ、命の雫……ゲーム中では死者を蘇生し全ての異常状態を治すアイテム何じゃが……一度試さねばと思っておったが、人体実験の様になってすまぬのう)
心の中で謝り、少女の亡骸の口に命の雫を流し込み、その様子を姉は心配そうに見守った。
「その液体は?」
「まぁ見とれ。これで上手くいかなったらどうし……」
ルディールが言い終わる前に、少女の亡骸に色が戻り、胸が上下に動き出した。意識はまだ無いが生命を取り戻した。
「ああ!アコット……アコット!」
少女は息を吹き返した妹を抱き抱え、また大粒の涙を流した。
「さてと、その子が起きる前に中の物を回収して、さっさとでるのじゃ。自分が死んだ場所なんぞ見たくもないじゃろ。起きたら夢とでも言ってやれい」
「あっありがとうございます……ありがとうございます」
ルディールは山賊達を外に投げ捨て、洞窟内にある山賊がため込んだアイテム等をアイテムバッグに入れて、もう中には何もない事を確認してから魔法で洞窟を崩壊させた。
「こんなもんかのう……そうじゃ少し聞きたいんじゃが、この国では死者は簡単に生き返ったりするのか?」
妹を背負い、洞窟の後を見ていた少女に訊ねると。
「いいえ。最高クラスの神官様が数人で祈ると、亡くなってすぐなら息を吹き返すと聞きましたが、魔法使い様が妹を助けてくれたように、完全に生き返るのは聞いた事が無いです」
「……なるほどのう」
(一応生き返るのは生き返るんじゃな……しかし。命の雫も残り二つしかないし、今回の事は誰にも言わぬ方がええじゃろ)
ルディールが難しい顔をして考えにふけていると少女が少し怯えながら話かけて来た。
「あっあの魔法使い様。妹を助けて頂いてありがとうございました。…それで私は何をすればいいでしょうか?」
「……そうじゃな。一つ貸しと、今回お主の妹が生き返った事は絶対に誰にも言わぬ事。これを守れるか?」
「はっはい!絶対に言いません!けどもし破ってしまったら妹はまた死ぬんですか?」
「死にはせんし、わらわからは何もせんが、周りがお主達をほっておかんじゃろ。わらわにも被害が起こるのは間違いないじゃろうな」
人間は怖いからのう……と付け足して、少女と約束した。少女は他には? と聞いてきたが、ルディールからしても今回の事はメリットがあったので、その約束さえ守ってくれたら別にええわいと言い、魔法で二人の少女を浮かせ山賊を引きずって友人と村長の待つ休憩所に向かった。
「あっそうじゃ。こやつが山賊のボスなんじゃが、お主はどうしたい?」
山賊のボスはもう目も見えず、自力では立つ事さえ困難な体になっていた。
その姿を見て少女は少し驚きながら答えた。
「恨みがないと言えば嘘になりますが、私も妹も元気になりましたから、もう関わりたくないというのが本音です」
「分かった。ではこのまま中央都市に行ったら兵士達につき出しておくわい」
お願いしますと言った所で森を抜け、街道の休憩所が見えてきた。
休憩所に着くとミーナと村長が待っておりルディール達を出迎えた。
「ルーちゃんお帰り。その人たちが山賊に捕まってた人?」
「ただいま。そうじゃな、高級感漂う村娘一号と二号じゃな!」
ルディール達の会話を聞いて少女が少し訂正する。
「いえ。私達は街に住んでいますよ」
「おお!よかったのうミーナよ!お主のアイデンティティは守られたぞ!」
「はぁ~また変な事言い出した……」
そのやり取りを見ていた村長が思い出したかの様に声を掛けて来た。
「もしかして、セニア様ですか?」
「はい。私はセニアです、セニア・リノセスです。貴方は、あぁ……リベット村の村長さんですか?」
「はい、そうです。数回お会いしただけで覚えて頂いて光栄です」
二人の社交辞令の様な会話を聞きながらルディールはミーナに尋ねる。
「リノセスさんちのセニアさんとは誰じゃ?」
「あっそうか。ルーちゃんは他の国の人だったね。リノセス様は私達がいる村の領主様だね。セニア様は今日初めて見たけど」
「……なるほど。これ後で絶対にめんどくさい事になるパターンじゃな。先に釘を打っておくのじゃ!」
その発言にミーナは頭に? を浮かべてルディールは村長達の会話に加わる。
「セニア様と村長よ少し良いか?」
「はい。魔法使い様、大丈夫ですよ」
「確認するが、セニア様は貴族の娘なんじゃな?」
「はい、私と妹はリノセス家で侯爵の娘です」
「村長は、昔は有名な冒険者でぶいぶい言わせてたんじゃな?」
「はい、その言い方には語弊がありますが、それなりに有名な冒険者だったと思いますよ。今回も中央都市に行くのはセニア様のお父様に会いに行くのが目的でしたから」
「まさに僥倖!では今回のセニアの救出と山賊の捕獲は村長がしたと言う事にしてもらう!」
「「えっ!」」
おどろく二人にひと言で説明する。
貴族とか権力を持った人間に関わると、絶対にめんどくさいと。
「まぁ、セニア様に拒否権は無いとして、後は村長じゃな」
「あの、様を付けなくて大丈夫ですよ?それと拒否権はないんですか?」
「ない!先ほどの借りを返してもらうのと、命より大事な物はそんなにないのじゃ」
ひたすら説得するルディールに、村長がついに折れて話が進み始める。
「はぁ~分かりました。リノセス家は別ですが、貴族と付き合うのは、本当にめんどうですからね…」
「と言っても、そちらが話をあわせてセニア様のパパ上に話をしてくれるだけでええしのう。数人の山賊にはわらわの姿が見られておるから、山賊達を引き渡す時はわらわが説明しよう。後は……そうじゃ。山賊が集めていた物は全部持って来たんじゃが、どうなるんじゃ?」
一応山賊を捕まえた人の物になるらしいが、引き渡す際に憲兵達に見せた方が後々問題がなくていいと教えてもらった。
ルディールが了解したと言った所で、馬車の荷台でセニアの妹の様子を見ていたミーナから起きたよ、とその知らせを聞いたセニアが馬車に飛び乗り妹を抱きしめ泣きながらその名前を呼んでいた。
「山賊達もルーちゃんが捕まえたし、よかったね。ああいうの見てると、私一人っ子だから羨ましいな~って思うよ」
「なんじゃい『私がいるじゃない、ミーナお姉ちゃん♪』って言ってやろうか?」
「ルーちゃんに言われるとバカにされてる気がするから、もっと素直な妹がほしいよ~」
その言葉を聞いてルディールが声を変えて言い返す。
「ミーナお姉ちゃん!可愛い妹にそんな事言ったらダメなんだよ!」
「うわぁ……めんどくさい!ルーちゃんが、めんどくさい!」
こうしてこの日は休憩所に泊まる事になった。