朝起きたら知らない世界でマイキャラでした 第12話 活動拠点

 冒険者や商人が中央都市に向かってから数日がたった頃、村ではルディールが村長に空き家を紹介してもらっていた。

「ずっとここに居るとはかぎらんし、借家の方がええかのう?」

「そうですね。いくら空き家でも買うとそれなりの値段になりますから、借家の方がいいと思いますよ」

 村長の意見も踏まえてどこの家を借りるかと少し悩む。

「オントさんの意見や先日の話を含めると、この二軒になるかと思いますが、炎毛猿達の事を含めると、こちらの森の近くの方がいいかなと思います」

「確かにのう。何かあった時に村まで猿達が来たら大変じゃしな…」

「それにこちらの物件を借りて頂いた方が私はありがたいですからね」

「?どうしてじゃ?」

 村長は森に近い方の空き家は、自分の持ち家で、家という物は人が住んでいないと傷む物だと教えてくれた。後、やはり森に近いので、村の中だけど怖いという事で借りる人がいなくて長い間空き家だそうだ。

「なるほどのう。もうほとんど決まりでええんじゃが、一度見に行くかのう」

「今から行きますか?」

 そして二人は、村の端にある空き家に向かう。その途中で忙しそうに手伝いをする友人の姿を見かけた。

「ルーちゃん、お家決まったの?村長さんこんにちは」

「今から村長と見に行く所じゃな。…一緒に行くか?と言いたい所じゃが、忙しそうじゃな…」

「この間のBランクの冒険者さん達が泊まってから箔が付いたのか…部屋も全部うまって食堂もお客さんいっぱいだよ~」

「ああ…たしか…【焼き鳥】とかそんな感じの名前の冒険者達じゃな」

 旅人の方達もここの宿の場所を聞いてましたよと村長が教えてくれた。

「はぁ~。ありがたい事なんだけど忙しいね。こっちの方向に来たって事はうちの裏手の空き家?」

「そうじゃ、まぁほとんど決まっておるが、最終チェックじゃな。時間が出来たら見に来るとよかろう」

 うん、そうするねー。と言いながら友人は忙しそうに戻って行った。ルディール達も空き家に向かって歩き出だす。

「着きましたよ、オントさん。」

 小さな門のカギを開け中に入ると、庭と小さなため池があり人の気配は無かったがきちんと手入れされていた。二人はさらに進み奥の洋館のカギを開け中に入る。

「おっ思ったより広いのう……」

 ルディールの意外な反応に村長は驚きながら答えた。

「えっ?そうですか?オントさんは貴族の方か、ある程度以上の地位の方ですよね?もっと広いお住まいにおられたのでは?」

「友人にも言われたが、魔法使いなら分かるが、どう見たら貴族に見えるんじゃ?」

「えぇと全部ですね……私は若い頃は冒険者で、今は村長です。色々な貴族の方とお付き合いがありますが、オントさんが身に付けている物程の物は見た事が無いですからね」

 なるほどのう。と納得しながら少し考える。

(しかしこればかりはどうしようもないのう……設置タイプのアイテムボックスの中にはあるかもしれぬが、今の所は身に付けている物しかないからのう)

 お風呂や食堂や二階の寝室等を案内してもらい一階のエントランスで村長と話を詰める。

 ルディールからしてみればかなり広い家だったが、今後の事を考えるとこの家以外の選択肢は無かったので借りる事にした。

「村長、必要な金額はいくらじゃ?」

 そうですね……と少し考えてから村長は答える。

「まず金貨10枚頂いてから、一月金貨5枚でどうですかと?思っているんですが」

「何かあるのか?」
 
「オントさんには先日お世話になったので、初期費用の金貨10枚は無しで一月金貨4枚でどうですか?」

「わらわはそれでありがたいが、村長はそれでかまわんのか?」

「大丈夫ですよ。先ほどの話ではないですが、住んでもらわないと家も傷みますし、それにオントさんの様な魔法使いの方に村に居てもらうのはそれだけでメリットですしね」

「ふむ。褒めてくれるのはありがたいが、わらわは強いかもはしれぬが、凄い人では無いぞ?」

 村長は笑いながら『そういう所も含めてですよ』と言った。その反応にルディールは首を傾げながら礼を言い、金貨4枚を払い家の鍵を受け取り家を借りた。

「村長、世話になった。これからもよろしくお願いするのじゃ」

「はい。こちらこそよろしくお願いします。では私は少し用事があるので戻りますね。家にはいるので何かあればそちらに来ていただければ」

「忙しそうじゃな」

 特に気になる事は無かったが、話の流れで聞いた。
 
「今度、中央都市カプラまで行かないといけないので。中央都市の冒険者ギルドに手紙をだして、冒険者を斡旋してもらわないといけないので」

 詳しく話を聞くと、手紙のような小さな物はポストが転移装置の様になっていて直ぐに着くらしく、冒険者達が派遣されるらしい。

「昔と違って今は街道が整備されていて、定期的に国から兵士達が派遣されるので、大丈夫とは思いますが、保険で護衛に来てもらうのです」

「……よし!ならば先ほどの礼じゃ。一度、中央都市まで行きたいと思っておった所じゃ。わらわで良ければ護衛してやろうか?」

「オントさんがですか?それは心強いですが、そんなにお金はだせませんよ?」

「先ほどの礼と言っておるじゃろう?タダでええわい。むしろこっちが中央都市まで案内してほしいぐらいじゃしのう」

 村長は少し考えてから、ルディールからの厚意を素直に受ける事にして、四日後、中央都市に行く事になった。

「ありがとうございます。では四日後の朝に私の家に集合でいいでしょうか?」

「わかったのじゃ。何かあれば声をかけよう」

 分かりましたと礼をいい村長は家に帰っていった。

「……3LDKで十分すぎると言うのに……この様な立派な屋敷でなくてもええんじゃがな」

 借りた家の大きさに呟きながら次にする事を考える。

「とりあえずは人手じゃな…前に見た時にアイテムバッグの中に在ったような…」

 言いながらアイテムのバッグの中を漁り目的のアイテムを探す。

「信頼度MAX以外は呼ばぬ方がええじゃろ。何かあってからでは遅いからのう」

 ゲーム中にテイムした数匹のモンスター、コボルト(柴)、デスコック、食竜植物を召喚した。

「さて、コボルト達よ、ここが新たな拠点じゃ家事等は任せたぞ」

 ワン!と大きく鳴き家の中に数匹の二足歩行の犬たちが入って行き行動を始める。

 コボルト、ゲーム中ではギルド拠点に配置すると、一日二回の食事で家事等をしてくれるありがたいモンスター。数日食事を出さないとどこかへ行く。

「次はデスコックか…お主はいつみてもいかついのう、食事と調理場は任せたぞ」

 コクンと頷き、コック帽を首までかぶり目の部分だけ穴の開いた部分が光り、巨大な肉切包丁を背中に背負った大男が移動する。

 デスコック、拠点配置時にすべてのステータス上昇料理を作れるボスモンスター。料理のすべてを知るために、深遠に行き料理に対する熱意以外すべてを無くした料理人のなれの果て。

「後は食竜植物か……見た目はそこら辺に咲いてる花なんじゃがな……敵意や殺意を持ってそこの門を抜けたら、養分にして構わん。それ以外は殺すな。森へ獲物を取りに行ってもよいが、炎毛猿という猿達は勘弁してやってくれ」

 シュタ! っと蔓を上げ了解の意を示して庭の花に紛れる。

 食竜植物、竜でも食らう植物。食べた獲物を養分に変え自身の周りに恵みをもたらす。拠点配置時に植物の成長速度UPと庭の手入れをしてくれる。

「さて後はアイテムバッグの中の家具の配置じゃな。しかしデスコックや食竜植物が居るのはありがたいが……こんな事になるんじゃったら女の子モンスターもテイムしておけばよかったのう」

 一度、二階に上がり森が見える自室にしようと決めていた部屋に家具や設置型のアイテムBOXを配置して、一階に降り食堂にテーブル等を配置していく。

「よし、こんなもんじゃろ、元から荷物も少ないしのう。バッグの中身の家具が設置出来てよかったわい。後はアイテムBOXの中身か」

 自室に戻り設置したアイテムBOXの中を確認していく、中には色鮮やかな宝石や洋服と数点の装備が入っていた。

「放置しておった方のアイテムBOXの方じゃな、使える装備は無いがずっと今の装備を着る訳にもいかんからありがたいのう…」

 アイテムBOXの中から数枚の服と装備を出して配置した洋服ダンスにかけていくいく。

「……ドレスとか数枚あるんじゃがこっちの世界で着る事あるんじゃろうか?」

 服やドレスを整理して行くと数枚の紙が宙を舞って床に落ちる。

「ん?なんじゃ?」

 落ちた紙は写真でゲーム時代のスクリーンショットだった。

「………」

 ルディールは、しばらく無言で写真を見つめ続けていた…目尻に光る物を留めながら。

 日もくれた頃にミーナの家に置いてある私物を取りに行こうと、ギルド結成時にメンバーで集まってとったスクリーンショットを机の上に飾り部屋を出る。

 宿に着くとそこには、女将とミーナが走り回り、ミーナの父は休むことなく料理を作りまくっていた……

 ルディールを見つけたミーナは近づいてきて話をするがその顔は疲労困憊だった…

「おぉう……忙しそうじゃな……」

「ルーちゃん。いらっしゃい、ダメ、私、死んじゃう……」

「家が決まったから置いてあった荷物を取りに来たんじゃが……本当に死にそうじゃな」

「もっもう少ししたら、マシになると思うから部屋で待ってって~。」

「おっおう。解ったのじゃ……」

 今朝まで使っていた部屋に入り友人が来るのを本を読みながら待った。

 それから約一時間ほどしてからミーナがドアをノックして入ってきてベッドに倒れこむ。

「お疲れじゃな。ヒーリング」

 柔らかな光が少女の体を包み、体に積もった疲れを取り除いていく。
 
「あー回復魔法が体に沁みる~。借りたお家はどうだったの?」

「ちと広いが問題は無いのう、暇ができたら見に来るがよい」

「でっできるかな……今はお客さん飲んでる時間だから間があるけど、明日からまた戦場なんだろうな……」

 そういって見慣れた部屋を見ると机の上に出してある小箱に気が付く。

「あっこれ。前にもらったやつだよね、お母さんこういうの好きだから私が貰ったやつ欲しがってたな」

「ふむ……では部屋に飾っておいてやるのじゃ」

 と言って風の精霊の小箱をミーナに渡す

「えっ?また貰っていいの?」

「アイテムバッグの整理じゃな」

(ギルメンにいらないからと押し付けられたから、そこそこあるからのう……)

「ありがとう!お母さんよろこぶよ!」

「あっそうじゃ。四日後に村長の護衛で中央都市まで行くから、しばらくおらぬぞ」

「えっ!中央都市行くの!?いいな~私も行きたいな~」

「お主もいくか?」
 
 ミーナは力なく首を振り答える。

「行きたいけど……忙しすぎて無理だね。というか私、学校行って大丈夫なのかな……お父さんとお母さんが心配すぎる」

 それから一時間ほど友人と他愛もない話をして村で食材を買い家に戻った。

 次の日の朝早くからコボルト達が鳴きだしたので起きて本を読んでいたルディールは食堂へ向かう。

「どうしたのじゃ?」

「わんわん!」

「ふむ、もう終わったから次の仕事をくれじゃと?と言われてものう……デスコックの方は?」

「…」

「この世界の食材の調理法がわからないから料理人を紹介してくれ?昨夜作ってくれた料理は美味しかったぞ?……焼いただけ?」

 それからしばらく考えて、妙案を思いついたので相手の了解を貰いに家からでる。

「少し聞いてくるからしばし待っておれ」

 ワン!と元気よくなきコボルト達は主人を見送った。

 目的の場所に行くと、ちょうど二人が外に出ており簡潔に説明した。

「という訳で転移魔法で、わらわの家から呼んだ獣人とコックに仕事をさせてやって欲しいんじゃが……」

(さすがにモンスターとは言えぬ……)

「オントさんあの綺麗な小箱ありがとね。ウチとしては助かるけどいいのかい?」

「むしろ、わらわの方が助かるのう、拠点を手に入れ、此処から色々な所に行くから、家も空けるしのう」

「なるほどな、じゃあ一度そいつらを連れて来てくれ」

 了解じゃと言い、来た道を戻りコボルト達に説明しまた宿に向かう。

「コヤツらなんじゃが……大丈夫か?」
 
 そのコボルト達とデスコックを見て女将さんが素直に感想を言う。

「これは可愛い獣人さんだね…コックさんの方はアンタぐらいいかついね」

 ミーナの父親の方を見ると、デスコックと睨み合い、着いてこい!と厨房に向かい、いきなり料理を始めた。

 簡単な料理を作りデスコックがそれを食べ、次はデスコックが料理を始めた。

 そして調理が終わり、その料理をミーナの父が食べて口を拭き、ガシッ! と力強く二人は握手した。

 なんなんじゃろな?とルディールが女将さんに聞くと、女将さんも頭の上に?マークを浮かべていたらミーナの父親が説明してくれた。

「料理人ってのは料理で語るもんだ。それ以外は特にいらねー」

「なっなるほどのう。一応お試しで数日ほど仕事をさせてみてやってくれ。ダメな時はダメと言ってくれればいいのでお願いするのじゃ」

「わかったよ。じゃあ教えるから、犬さん達付いてきて」

 女将さんがそう言うとコボルト達と一緒に奥に行った。

「じゃあ俺たちも行くか」

 コクン

 一人になったルディールが家に帰ろうとしたときに。

「うわー!かわいい!お母さんその獣人さん達どうしたの!」

 と友人の声が聞こえたので挨拶をしにまた宿に戻るのだった。

 それから家に戻ると、森の中から何かを引きずった様な後があり、その跡を辿ると昨日、食竜植物がいた辺りに大穴が空いていた。

「……あやつ、さっそく何か引きずり込んだな……知らずにこれ見たら普通にホラーじゃな……」

 周りを見渡すと綺麗な花が庭いっぱいに咲いていた。

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