朝起きたら知らない世界でマイキャラでした 第11話 少女が見た魔法使い

「はぁ…もうすぐ学校か、行きたくないよ~。私みたいな田舎娘が王都の魔法学校とか行ってどうしろと…」

 文句を言っても仕方がないけど言いたくもなる。王都の魔法学校と言えば、貴族様が行く所で有名な所だったはずだ。人より魔力が多いぐらいで行けるような所じゃないはずだと思ってたんだけど…魔法も使えないしね。

「…どうしてこうなったんだろう」

 私の家からだと王都まではかなり遠いから学校へは寮から通うことになった。学費や寮費は学校持ちだからいいけど、服みたいな私物は自分もちだった。

「まぁ、当たり前か…もうお小遣いもあんまりないし……」

 この前、お父さんとお母さんの結婚記念日に奮発したからな~…どう考えても学校で必要な私物を買うお金が足りない…

「森へいって少し薬草とか採って、薬屋のおばあちゃんの所で買い取ってもらおう」

 浅い所なら危険な獣もいないし、昔から内緒でちょくちょく入ってるから大丈夫だろう。でもこの日ばかりは少し様子が違った。普段から生えてる所に行っても全然見つけられなかった……もう少しもう少しと思って奥まで入って行ったら気が付かない内に大牙じしに囲まれていた。

「どっどうしよう」

 走って逃げる事も出来ずにいると、一匹が突進してきた、既《すんで》の所で横によけて躱せたと思ったけどダメだった。脹脛《ふくらはぎ》から踝《くるぶし》辺りまで大きく裂け血が止まらなかった…

「あっ…」

 流れる血を見ると、怖くて体が勝手に『だっ誰か!助けてください!』って叫んでた。止まらない血と周りの獣達を見たら…ここで死ぬんだなっと不思議と冷静になれた。

「お父さん、お母さん…ごめんね」

 今頃、宿の布団を取り込んでる母と料理の仕込みをしている父の顔を思い浮かべて目を瞑った。それからすぐ凄い風切りがした後に、雷でも落ちたのかなと思うぐらいの轟音がして透き通る様な女の人の声がした。

「しし共よ。お主らの手詰めじゃ。かかってくるならば鍋の具じゃが、去るなら追わぬぞ?」

 ……うん?大牙じしは私も食べた事あるし確かにおいしいけど……何か違う様な気がして目を開けた。

 そこにはさっきまでいた大牙じしの群れの姿はなく。角の生えた金色の髪と水?で出来た様なマントを着た緋色の目をした女の子がいた。

(……キレイ)

 何か言っていたけど……少しだけ見惚れてしまった。言葉が通じないのかを心配してた所で我に返ったんだけど、怪我してるのも思い出して痛みが出てきた。

 女の子は私の怪我を見て少し悩んでから回復魔法で治してくれた……神官様なのかな?

 助けてもらった事にお礼を言って、話をしていると自信満々に迷子の魔法使いだと教えてくれた。あっ迷子なんだ……

 私の名前を教えて、女の子の名前を教えてもらった。ルディール・ル・オントさんと言う名前だった…私が名乗った時に少し考えてから笑顔で名前をほめてくれたけど……あの時の笑顔は危なかった。美人さんの笑顔は反則だと思う……

 私より背は小さいから聞いてみたら『たわけ!子供ではないわ!』怒られた……それから魔法で白い手をだして、大牙じしを持って村に戻ったら…

「ミーナ!仕事ほっぽり出して何処に行ってたんだね!」

 おっお母さん……もう会えないと思ってたから泣きそう……そしてこれから怒られると思うと別の意味で泣きそうになった。オントさんはウチの宿屋に来てもらう事になった。

「うむ!よいぞ実によい宿じゃ!」とオントさんが我が家を褒めてくれた。どう見ても貴族様で、もっといい宿にも泊ってると思うのに絶賛していたら、お父さんが出てきて宿を褒められて嬉しそうだった、私もお父さんにただいまを言えると思ったら嬉しかった…

「ちょっとあんた!またミーナが森の奥に入ったんだって!」

 お母さんがいきなりチクった……

「あん?なんだって?」

 あっヤバイ、お父さんの顔色が一気に変わった……お父さん怖い顔がさらに怖くなった……

 家に入って、皆テーブルについたらオントさんが迷子になった理由を話してくれた。自分の国の転移魔法の事故で飛ばされてあの森にいたらしい。後、オントさん?私が獣に襲われていた事は言わないでくれた方が……あっダメだお父さん凄い怒ってる。

 バシンッ!

 頭を叩かれて話が終わるまで正座させられた……

 オントさんを部屋に案内する時とかに、色々話をしたけど気さくというか子供っぽい人だった。正座させられてしびれてる時に思いっきり足をつつかれた……。

 呼び方?「じゃあ、ルーちゃんでいいですか?」私より背が小さいのもあるけど、なぜかルーちゃんって呼び方が一番しっくりきた。

 ルーちゃんは表情がコロコロよくかわるその呼び方で呼ぶと友達もそう呼んでいるらしくて、ニコニコしていた。後、敬語でなくてもいいとも言われた。まだ友達かどうかは解らないけど、同じくらいの女の子は村にいないからすごい嬉しい。

「お母さん、ルーちゃんがご飯まで部屋でゆっくりしてるって」

「ルーちゃん?……ああオントさんの事かい?」
 
「うん、そうだよ。その呼び方でいいって」

「見た目といい、身に付けてる物といい、どこかの貴族様か何かだと思うんだけどね……私ら平民にも頭下げてたし、よくわからない人だよ」

「悪い人じゃなければいいんじゃ無いかな?」

「そりゃそうだ」

 お母さんはそう言ってお父さんのいる厨房に入っていってルーちゃんにもらったしし肉を調理した。そのおかげで晩御飯は凄い豪華だった。

 ……ルーちゃんはびっくりするほどよく食べる。すごく美味しそうに食べる…ルーちゃんは貴族様だよね?もっと美味しい物食べてるんじゃ…と聞きたかったけど食べるのを邪魔しては悪いと思って黙ってた。

「はぁ~今日は流石に勉強したくない…」

 とずっと思って悩んでいたら、ドアがノックされて出てみたら、ルーちゃんだった。何の用かな?思ってたら魔法書とかの本を貸してほしいらしい……とても勉強したかったけど仕方が無い困った時はお互い様だと思う。

 部屋の中が気になるのかキョロキョロ見てた。平民の部屋の中が気になるのかな?と思ってたらいきなり変な事を言い出した。

「四畳半の男の部屋の匂いがするんじゃな……」

「はい?何その凄く変な匂いは!四畳半って何!?」

 それ、どんな匂いかはわからないけど絶対に女の子からしたらダメな匂いだと言うのは分かった。本当に焦っていたら冗談だと言われた……冗談でよかった。

 お昼に迷子を助けたお礼だと言って小さな箱をくれた…私が助けてもらったんだけどね……。おまじないで部屋を綺麗にしてくれるらしい……でも、これ絶対に高価なものだよね?装飾とかありえないほど綺麗だよ?…いいの?……まだあるんだ、ありがとう。

 ルーちゃんが部屋に戻ってから小箱を開けた瞬間、中から何かが出てきたような気がしたけど、見えなかったから気のせいかな? その日からよく眠れるようになった。お客さんの喧嘩とか話し声は聞こえなくて、お母さんが呼んだりする声ははっきり聞こえるようになった。後、物覚えが良くなったような気がする。本とか読むとかなりの内容が頭に入ってきた。

「まぁ、私が本気を出して勉強したら、こんなもんでしょう。ふっふっふ」

 次の日、朝食が出来たから呼びに行ったらもう起きてた。私も朝は早いけどルーちゃんも早いなって思ってたら『…何、じゃと…?』と驚いていた?どうしたんだろ?

 お父さんが今日は休んでいいぞって言ってくれて今日はお休みになったから、村を案内してあげる事になった、お父さんが大牙じしの解体が終わったからルーちゃんと取りに行ったんだけど後でみたら二人とも仲良くなってた…お父さんは娘からみても怖いのに凄いね。

 それから村を案内して薬屋のおばあちゃんの所にいってポーションについて色々な話を聞かせてもらった、私が転びそうになった時に重力魔法?というのを使って助けてくれたらおばあちゃんが驚いていた…ルーちゃんって本当に凄い魔法使いなんだ。

 お昼からルーちゃんに魔法を教えてもらえる事になった、昼食の時に魔法学校の事を聞いたら思った以上に危ない所だという事がよく分かった、絶対に魔法を使える様にならなければ…

 ルーちゃんは動物と話せる疑惑が出つつも魔法を教えてもらった。解り難くてすまぬと謝っていたんだけど、私的にはわかりやすかった、おかげで魔法も使えるようになったから二人で一緒に喜んだ。そのあと調子にのって火で出来たニワトリに魔法を打ったら大変な目にあった…力を持っても過信してはいけないと大事な事を教えてもらった…

 それから数日してやっと行商さんが来た。今度は馬と話しているようだったけど、ここ数日で性格が解ってきたから、私をからかってるだけだと思う…そうだよね?

 それからルーちゃんの持ってる素材を売りに行ったら金貨30枚と銀貨数枚になった凄いと思って家に帰ってお父さんにルーちゃんが話したらそれでも足元を見られたらしい。お父さんはキレそうだったけどルーちゃんは笑ってた。先の事を考えるとこれで良いらしい…私にはよく分からなかった。

 ……私が悪いんだけど夕食がなくなった……凹んでいたらルーちゃんが山へ薬草を採りにいこうと誘ってくれた、おばあちゃんの所に行って採れる薬草のメモをもらって森へ入った。薬草はいっぱい採れたんだけど…びっくりするぐらい獣が出てきた。でもルーちゃんが会話?すると襲っては来ずに皆どこかに行った……ルーちゃん?動物と話できるよね?

 七色つゆ草を探して二時間ぐらいたって無いな~と足元を見たら。

「あっあった」

「何があったんじゃ?」

「七色つゆ草…」

 そう言ってルーちゃんの方を見ると、思い出しただけでも泣きそうになるぐらい怖い目をしてた…すぐ私の手を取って、転移魔法?でルーちゃんが借りてる部屋まで戻ってきた。聞くと炎毛猿達に囲まれていたらしい、また助けてもらったんだありがとう…でも、あの血のような真っ赤な怖い瞳はやめてほしい…変な話だけどルーちゃんは笑ってる顔が一番似合ってる。

 その日の夜、森に入った冒険者さん達が行方不明になった…次の日も帰って来なくて、村長さんと商人で揉めたと会合に出てたお父さんがそう言ってた。色々あってお父さんと村の為にルーちゃんが森へ行く事になった。私の中で商人さん達の評価は急降下中だ。それからすぐにルーちゃんが転移魔法で森へ行った…待つのってどうして時間が経つのが遅いんだろう。

 それから何回かため息をついてたら私の声が聞こえた。

「はぁ~ルディールの奴、森で死んでくれないかな~」

 いやいや私、友達ににそんな事言わないよ!って言おうとしてそっちを向いたら心配させてた本人がいた…今、帰って来たらしい。色々あったけどうまくいったって、何か誤魔化してたけど帰ってきてくれたからいいよ。

 少しして冒険者さん達も帰って来た。剣士さんとレンジャーさんは気絶してたけど命に別状はないと魔法使いの人が言ってた。宿に寝かせて数時間して起きて食堂で夕飯を食べてるレンジャーさんが『あの角付き、こんど会ったら泣かす』と言ってたけど剣士さんが『ミスリルの剣を砕くような御仁をか?』と食事を運んでる時に聞こえたからルーちゃんに話した。

『角の生えた雌のボス猿に蹴られたんじゃろ』って言ってたから

 冗談で『ルーちゃんでしょ?』っていったら。

「なんじゃい、バレたか」

 と笑いながら笑えない森の中での出来事を詳しく話してくれた。

「わっ笑えないけど、今後は炎毛猿を見ても大丈夫って事?」

「いや、村長やお主の父にも近い内に話すが、あの群れの猿達は大丈夫でも他の群れの猿はダメじゃから、お主達は今まで通りでええと思うのじゃ。先の事は分からんがのう」

「そうなの?」

「何事に対しても、距離感が大事じゃからな、火で例えるなら近すぎるとやけどするじゃろ?そういう物じゃ」

 なるほどと、角の生えた友人と話していると急に真面目な顔になって。

「それはそうと、名乗る時に迷子の魔法使いと猿山の魔女。どちらがいいと思う?」

 ルーちゃんは真面目に変な事を言ってる方がちょうどいいね。明日もがんばろう。

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