王女の誘拐事件が一区切りつき、ルディールはリノセス家の広大な庭でアコットの遊び相手をしながら、これからの事についてミーナ達と意見を交わしていた。
「これから、どうなるんだろうね?」
とミーナが心配していたがルディールは逆に落ち着き話した。
「しばらくはいつも通りじゃと思うぞ。仮面の連中のような密偵も捕まえたからのう。そやつらの生死も確認せんといかんし……想像では動けんじゃろ?何をするにしてもお互いに情報不足じゃな」
「…王族側も手足の王宮騎士を小隊規模で失いましたからね。ルディールさんが圧勝してたので雑兵っぽいですが、一人一人の能力は私より上ですよ」
ソアレの台詞を聞いてミーナとセニアは絶句していたが、おもちゃの木馬を重力操作魔法で浮かせて影の魔法で後ろから押して木馬のおもちゃの上でアコットを楽しませる事に魔法を使っているルディールをみれば何故か納得した。
「最近、ちょっと魔法が分かってきたからルーちゃんの凄さが少し理解できてきた」
「私もそうですね。ソアレ姉様が使う魔法は使えませんし、アコットを遊ばせてる魔法もかなり複雑な魔法ですから……」
「わらわが凄いわけではなく魔法が凄いだけじゃぞ」
アコットが自分の名前が出たので、こちらを向き手を振っていた。全員で手を振り返しながら話は続けた。
「ルーちゃんの話だとしばらくは何も無いって事?」
「そうじゃな~あの王女様じゃろ?これから何事も無く解決しても何もおどろかんわい。まぁ何処かで貴族と神官が衝突するとは思うがのう」
「…果物と同じですよ、果実を食べたいからと言って植えてもすぐに実はならないでしょう?」
そう言ってソアレが話を締めるとセニアが少し悩んでいたのでミーナが声をかけた。
「セニアさん悩んでるけど、どうかしたの?」
「いえ、大した事ではないんですが、ルディールさんが王女様に様をつけると違和感なく聞こえるのに、前に私に様をつけた時は馬鹿にしたように聞こえたのでどうしてかなっと?ルディールさん少し様付けで呼んでもらえますか?」
「ん?気のせいじゃろ……セニア様」
「あっ!ほんとだ何か違う」
「ですよね?ミーナさんも分かりますよね」
「…こう、セニア様(笑)のように聞こえる」
それはお主達の被害妄想だと言い話を切り上げようとしたが、面白がったソアレに話を引き延ばされた。
それからしばらくゆっくりしていると、メイドがやって来てリノセス侯爵がお呼びですから本宅にお越しくださいと言われ侯爵の元に向かった。
「お父様お呼びですか?」
「ああ、そろそろ中央都市に戻ろうと思ってな、オントに送ってもらおうと思って呼んだんだ。まだ仕事も残っているからな」
そう頼まれたのですぐに中央都市にリノセス侯爵を送ると、一人の父親として娘達を山賊から助けた事に改めて礼を言っていた。
「いえ、私の方こそ事前に相談も無く巻き込んですみませんでした」
そうルディールも謝るとその事はしかたないと言い、今回の事が無くとも神官と貴族は遅かれ早かれどこかでぶつかると話し、書斎の机に座り仕事を始めた。
「王都でゆっくりしたいが、もうすぐ国王陛下の生誕祭だからな。ある程度仕事を片付けておかないとな」
そう言って仕事を始めたので頭を下げてから王都に戻ろうとしたら、詳細は妻に言ってあるから向こうで聞いてくれと言っていた。
すぐに王都に戻るとセニアの母親がミーナ達の元にきており、ルディールが戻ったのを確認してから着いてきてくださいと先を歩き始め着いていった先は客人用の個室だった。
「ルディールさんこの部屋は好きにお使いください、夫とも話しましたが転移魔法で王都から出る時や来る時はこの部屋でしたら外からバレにくいと思いますので」
ルディールは少し戸惑ったが、リノセス家には転移魔法の事は知られているし自由に転移出来るメリットの方が遙かに大きかったので、素直にその好意を受け取り礼をいった。
「それに名目上はルディールさんはリノセス家の護衛ですから、この家から出て行く方が違和感もすくないでしょう」
と話しているとソアレが便利なタクシーをゲットですねと言ってセニアに怒られ、そこで話が終わりセニアの母が部屋から出て行き、皆でこれからの事を話し合った。
「さて、これからどうする?わらわは少し疲れたからリベット村に戻ろうと思うが、ミーナは一緒に戻るか?」
その言葉に少し悩んでからミーナは答えた。
「私も色々ありすぎて疲れたから戻ってゆっくりしたいんだけど、もう明後日から学校なんだよ……これから寮にいって荷物とか整理しないといけないんだよ」
「うむ、了解したお主の両親には、わらわから伝えとくわい」
ルディールにミーナがありがとうと礼をいうと次はソアレが答えた。
「…私も一度、中央都市に戻ろうと思います。セニアが合格したので安心できましたので、またしばらくは冒険したいので火食い鳥のメンツと相談です」
「わかった、ついでに中央都市まで送ってやるわい、セニアは?」
「私の方はもう準備が終わっているので、国王陛下の生誕祭の準備の手伝いですね。生誕祭の時は王都でお祭りがありますのでルディールも来てくださいね」
「すまぬが行かぬぞ、今回の事でしばらくは貴族はおなかいっぱいじゃしな」
「そうですか、分かりました。でもせっかく部屋があるのでいつでも遊びに来てくださいね」
「うむ、ありがとう」
それからセニアと別れ、ミーナを寮まで送って行って転移魔法で中央都市の倉庫まで飛んだ。
「…ルディールさんはマジックポストをお持ちですか?連絡したいので地脈の数字を教えてもらえると助かります」
「そういえば、王都で買ったのう、まだ設置してないがな。我が家に来るか?」
「…なるほどお持ち帰りですね」
「わらわが男じゃったらほんとモテモテじゃな」
「…競争率がエグいですね」
セニアと似たような事を言っていたので三姉妹じゃなと言うと、ソアレは少し嬉しそうだった。
それからすぐ、ルディールの家に飛びマジックポストを設置してソアレにポストに表示された番号を教えた。
「…ありがとうございます。まずはラブレターでも送ろうと思います」
「それをもらってわらわにどうしろと……王都に行きたい時は連絡してくれたらええわい」
「…少しふざけましたがよろしくお願いします。まだ何があるか分かりませんので、ちょくちょくセニアやアコットの様子を見に行きたいので」
「うむ。今回お主がおってくれて助かったからのう、お互い様じゃな。こちらもまた頼ると思うから、わらわが出来る事なら頼ってくれてかまわん」
「…そうですか、私が出来る事はしれてますが期待には答えようと思います」
それからソアレに家の中や庭を案内した。庭を魔眼で見られて、あまりやばい事はしないでくださいねと注意されたので、お土産にアンブロシアの実を一つあげて一緒に中央都市まで飛んだ。
「…ルディールさんこの果物は?」
「わらわの国の果実じゃな、わらわもミーナも食べたが美味しかったぞ。もう数があんまりないから食べる時は他のメンバーには隠してな」
そうですかと、ありがとうございますとお礼をいい自分のマジックバッグに入れお風呂上がりにでも食べますといっていた。
「…では、また近い内に会うと思いますがよろしくお願いします」
うむ、ではなと別れようとしたがイオード商会の商会長にポストの番号を教えておかないといけないなと思いソアレとイオード商会まで行きそこで別れ、ルディールは中に入っていった
中に入り受け付けで自分のポストの番号を伝え、出ようとすると商会長が出てきた。
「いらっしゃいませ、オントさん。この度は本店まで足を運んで頂きありがとうございます」
「いや、こちらも世話になりっぱなしじゃからな全然かまわんよ」
そう話し特に用も無いのに応接室に通され話が始まった。
「期待を裏切るようで悪いが今は売れる物は手元にはないぞ?」
「では、家にはあるんですね?という冗談は置いといて、オントさんは空中庭園についてご存じですか?」
「ある程度じゃがな、あの人工物がどうのこうのとか言うやつじゃろ?かなり高度が落ちておるんじゃったか?」
「それですね。ギルドの掲示板に空中庭園の調査というクエストが張られていますが、実は少し噂を聞きましてね。来週ぐらいからギルドで、募集をかけて再来週辺りに出発する様な話が出ているようです」
「なるほどのう、冒険者ではないが行けるんじゃったな」
「そうです、オントさんは冒険者ではないので、もし空中庭園に向かうのであればイオード商会から傭兵として行って頂きたいのですが……どうでしょうか?」
それからルディールは少し考え商会長を試すように一言いった。
「よう!」
「へい」
「…商会長、お主なかなかやるではないか。断ろうと思っておったが、期待に応えられては応えるしかあるまい」
「難しい顔して金の勘定はする物ではないですからね。それに仕事はある程度のユーモアが無いと駄目ですよ。引き受けて頂いてありがとうございます。」
それから商会長と話をつめて、空中庭園で見つけた物はイオード商会が全て鑑定してからルディールと商談をし買い取るという流れになり、イオード商会の傭兵として向かう事になった。
「傭兵になったが冒険者とPTを組んでもよいのか?知り合いに行くなら声かけろと言われたのでのう」
「大丈夫ですよ、どの様な方かは分かりませんが、その人が見つけた物もこちらで鑑定して商談させてもらおうと思いますので、声だけかけておいてもらえれば助かります。」
ルディールは了解したといって商会長からイオード商会の傭兵の証明の様な用紙をもらい冒険者ギルドの受付に出すと載せてもらえますと言い、その紙を受け取り、最近の市場の世間話をしてイオード商会を出た。
ようやく一息ついたので、借りている倉庫に行きそこから家に戻り、ミーナの実家の宿に向かった。
宿に着くと相変わらず忙しそうだったが、デスコックとコボルト達が活躍して余裕があったので、ミーナの事を両親達に伝えた。
「そうかい、ミーナはAクラスに入学したんだね…オントさんありがとね」
「ミーナが頑張ったからじゃ。わらわは特に何もしておらんわい」
「少し前まで魔法使えなかった娘がな~」
そう言って母の方は嬉しさのあまり少し泣き、父親の方もぶっきらぼうだったが、かなり嬉しそうだった。
それからその場で夕食を取り、ルディールが感想で竜の顎より美味しいぞと言うと、ミーナの父が寝言は寝てから言えと信じてくれなかった。
自宅に戻ると設置したマジックポストが無駄に光っており、ソアレから先ほどの果物が美味しかったので、実ったらお願いしますと騒動の感謝が綺麗な字で書かれた手紙が届いていた。