朝起きたら知らない世界でマイキャラでした 第28話 王女誘拐

 爆発と砂煙が少し収まる頃には、王女を取り囲んでいた人影はなく、王女の姿もなかった。その手口の速さにルディール達はあっけにとられたが、セニアはメイドに指示を出し王宮に知らせすぐに後を追った。

「さて、どうするかのう?シャドーステッチを誘拐犯の影に紛らせておいたからいつでも捕まえられるが、このまま泳がすか?捕まえるか……こちらに危害がないなら正直無視したいのう……」

 ルディールは爆発があった瞬間に誘拐犯達の影に捕縛魔法を紛らせいつでも捕まえられるようにしてあったが、王都のど真ん中でたまたま王女が一人の時に襲撃など出来レースのようだったので、貴族か神殿側の仕業とおもい、助けるのをかなり躊躇っていた。

(本当にどうする?真面目に誘拐だとしても、無事に王都を出るのは無理ではないか?Aランクがゴロゴロおるんじゃろ?バルケやソアレがいっぱいおるようなもんじゃぞ?関わらない方がよくないか?)

 などと考えていると、ミーナだけがルディールの違和感に気づいた。

「王女様も女の子だしやっぱり不安だと思うから、私じゃ無理だからルーちゃんの負担にならないなら助けてあげて欲しいけど……」

「なーんかこう……きな臭い気配がプンプンするからのう。どうしようか悩み中じゃ」

 その話が聞こえたセニアが、すこし考えてからルディールに提案した。

「ルディールさん私の護衛として雇われませんか?そうすれば、ある程度は隠せて自由に動けると思いますよ」

「う~む。それならば動きやすいか……では今からセニアの護衛として動くのじゃ」

 私も誘拐されたら助けてくださいねとリージュが茶化してきたが、お墓に花ぐらいは添えてやるぞとルディールが返していた。

 それからルディールの魔法の糸をたどり、進んで行くと最近建てたような綺麗な家の中に繋がっており、家の中には誰もおらず糸は地下に繋がっており下水道に出た。

「……下水道ですね」

「むっ!この匂い!昔のミーナの部屋の匂いか!」

「しないから!絶対にしないから!ルーちゃんは元気でると、ろくな事言わない……」

 などと緊張感なく進んでいると、ソアレがもうすぐ人が来ますと教えてくれた。その言葉通りに浮浪者にしては、がたいの良い連中が数人現れた。

「こんな所になんの用だ?」

 そう聞かれたのでリージュが誘拐された王女を追いかけてきたと答えると、隠し持った武器で襲いかかって来たが、ソアレが即座に雷の魔法を発動し感電させ体の自由を奪いすぐさま奥に進んだ。

「ソアレは雷系の魔法じゃろ?感知型の魔法でも覚えておるのか?先ほどすぐに気がついていたが」

「…感知型ですか?今のは魔眼で相手の魔力を流れを見て発見しました、そんな魔法があるんですか?」

「……無いぞ、全然ないぞ?」

「…王女様を救出したら魔法についてゆっくり語り合いましょう」

 少し気になって振った話だったが、ソアレの食い付きはかなり良く、余計な事を言った感が半端なかったが過去を変える事は出来ないのでルディールは諦め、気が向いたらと話を終わらせ真面目に王女を追った。

「下水道って長いんですね…どこまで繋がってるんですか?」

 とミーナが聞くとリージュがこの下水なら王都の近くの大きな川に繋がっていると教えてくれた、この場所は確かに下水で空気が淀み変な匂いはしたが水自体はすでに浄化されてるようで、水は澄み魚達も泳いでいた。

 そこからさらに進むと、通路の途中の壁に穴が空いており、そこには誰かが入っていった形跡があり、そこが目的の場所だった。

「入り口は狭いのに中に、二十数人もおるのう…頑張ってスコップで掘ったんじゃろうか?」

「…あのルディールさん、今は私の護衛なので真面目にやって頂けると助かります。と言うかどうやって人数が分かったんですか?」

 素直にセニアに謝り、武術の達人は気配や空気の流れで相手の動きを読むと教えると、魔法使いですよね? とさらに怒られた。

「…私の目だと19人ですが、どうします?私とルディールさんでカチコミかけますか?」

 もしもの事があっては駄目なので全員で行きましょうとリージュが意見して、ルディールがその選択の後、彼女の姿を見た物は居なかったとナレーションを入れると、ミーナとセニアに怒られたが、リージュはルディールさんと駆け落ちですねと相変わらずのペースだった。

 その後すぐ中に突入すると、王女を誘拐した人物たちが武器を構えており、すぐにルディール達は囲まれた。

「お前達は馬鹿か?相手の根城の前で騒ぐなどと…」

「…ルディールさん、馬鹿って言われてますよ?」

「うむ、賢く生きるのは難しいからのう、そう考えると馬鹿かもしれぬのう」

「みてみて、セニア、ミーナさん。あそこに馬鹿がいる、バーカバーカ」

 リージュの台詞にかなりイラッとして、誘拐犯の前で名前をだす奴の方が馬鹿じゃぞ!と言い争うルディール達を無視して、セニアが誘拐犯達に声をかけた。

「貴方達が、王女様を誘拐したんですか?」

「ふん、セニア・リノセスとリージュ・シュラブネルか運命は私達に味方をしているようだな」

「そうですか、さすがに知っていますか…」

「護衛は雷光と訳の分からん角付きか…楽な仕事だな」

 その余裕のある態度にさらに余裕がある態度で、ルディールが王女はまだここに居るのかと聞くと、顎をしゃくり隣の部屋だと教えた。

「では、セニア・リノセスとリージュ・シュラブネル以外は死んで貰う。安い正義感を後悔せよ」

 そう言って男達が襲いかかってきたが、男達は動けなかった。

「ド派手な救出劇を期待していたじゃろうが、ワンパターンですまぬな…」

「えっ?もう終わったの?あっあー!それって山賊の時の魔法だよね」

「我々に何をした……?」

「言うと思うか?何か言うとすぐに揚げ足を取る奴もいるのでな、このまま捕縛させてもらう」

 リージュが後ろでセニア言われていますよ。と言っていたが、流石にセニアもリージュ様では?と言えずモヤモヤしていた。

 ルディールがアイテムバッグの中に手を入れ捕獲した連中を一カ所に纏めあげようとした所で、炎の魔法が飛んできて締め上げていた誘拐犯を飲み込んだ。

 そして影の中から仮面をかぶった男が現れ話しかけてきた。

「さすがはリノセス家ですね、いい犬を飼っている。今回はこちらの負けですね…ではまたお会いしましょう」

 そう話すとソアレがこの私達から逃げられるとでも?といい魔法を放ったが男は影の中に潜り込み消えた。

「…すみません、ルディールさん逃げられてしまいました」

「ん?シャドウロック。これでも近所のガキンチョーズからは魔王と呼ばれておるからのう。魔王と呼ばれておるのに相手を逃がしたとなれば、恥さらしもいいとこじゃわい」

 そう言って影を移動する方法を魔法で封じ、自分の影に手を入れて、何かを探すように手を動かし掴み、先ほどの仮面の男を引きずりだした。

「何だと馬鹿な!」

「馬鹿はそこの大馬鹿女に言え。ミーナの名前を出して居なければお主を泳がし、本拠地がわかったのにのう。それと仲間は大事にした方がよいぞ」

 その言葉を向けた方を仮面の男が見ると、炎の魔法で焼きはらったはずの誘拐犯達がまだ生きていてその足下には薄紫に光る物が置いてあった。

「魔力封じの宝玉か!馬鹿な!」

「わらわは賢くはないが、頭が悪い訳ではないからのう。これでチェックメイトじゃな」

 男は自分の体に魔法を流し自害しようとしたが、それすらもルディールに阻まれ誘拐犯と同じように生きる事以外の選択肢を全て奪った。

「えぇと、ルディールさんその仮面の男で全員ですか?数えましたがその男で、20人になりましたので」

「…うむ。そうじゃな」

 それからミーナがじゃあ王女様を助けないと!とクラスメイトで王女を探しに隣の部屋に向かった。

 そこには、人の姿は無かったが大きな麻袋がありその中に縛られた王女がいた、命に別状のあるケガは無かったが、手に縛られた跡や、痣などがいくつもありその姿を見たミーナが自分のアイテムバッグの中からルディールから貰ったハイポーションを出して飲ませ、ケガを治した。

 その行動にルディールは少し驚いたが、心の中でさすがはミーナじゃなと褒めた。

 ケガは完治したが王女はまだ眠っていたので、起きるまで待とうという事になり待っていると、リージュが少し青い顔をして頭を下げてきた。

「ルディール様、ミーナさん、本当に申し訳ありませんでした」

「お主は今回の戦犯じゃぞ?」

「えっ?私、リージュ様に謝られる事した?」

 ミーナは急にリージュに謝られ慌てはじめたので、ルディールは簡単に説明した。

「セニアやリージュは名前を出した所で顔も分かっておるし、権力や護衛もおるから、争い事になった所でそう簡単には巻き込まれん。だからある程度は大丈夫なんじゃが、ミーナは平民で人質にもならぬから、巻き込まれたら殺されるだけなんじゃ」

 仮面の男を泳がせて本拠地を調べたかったが、男が戻った時点でミーナの名前が出て情報が流れ危害が加わる事があるのにリージュは自分の物差しで測り危害を加える可能性を増やしたと説明し、もしもの話だが他に数人いてこの男を餌に逃げていたら? とも付け加えた。

「リージュよ、平民なら死んでいいと思ったか?」

「いっいえ、違います……」

「…わらわが偉そうに言うのもおかしいからもう言わぬが、そういう事じゃぞ?」

 かなり落ち込んだリージュをミーナとセニアが慰めている間にルディールとソアレが捕らえた男達をどうするかの相談を始めた

「…ルディールさん、どうしますか?もう少しで王女様の救出の人が来ますよ」

「この仮面の男以外は引き渡そうと思う。こやつなら色々知っておりそうじゃからな…ソアレを信用して聞きたいが、信用できそうな貴族はおらぬか?」

「心当たりはありますが、リージュ様は?」

 その二人の会話を聞いてリージュが立ち上がり名誉挽回のチャンスをくださいとルディールに頼んで来たので、少しだけ信用してその仮面の男を自分の影の中に入れ捕縛した。

 それから少しして王女様が目を覚ましたので、面識のあるリージュとセニアが対応し経緯を説明した。

 そして自分のケガを治したのがミーナだと分かると素直に頭を下げて礼をいった。

「なんじゃい、リージュみたいな奴かと思ったがちゃんとお礼を言えるいい娘ではないか」

「…ルディールさん、怒るのは分かりますし、今はまだいいですが、もうすぐ来るので本当に駄目ですよ」

「あの私の評価はマイナスでしょうか?でもマイナスとマイナスでプラスになりますから大丈夫ですね」

「うむ。マイナスとマイナスで増える所は借金と一緒じゃな」

 その言葉にリージュがまた凹んだ所で、かなりの大人数の足音が聞こえ部屋になだれ込んできた。王女以外に捕縛の魔法をかけ全員を拘束したと思ったら、証拠を消すようにミーナ、セニア、ソアレへ向かって即死クラスの攻撃魔法を放った。

 その行動がルディールの本当の逆鱗に触れ、真なる王の指輪の中に眠る【古の腐姫の嫉妬】を呼び起こし戦闘が始まった。

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