飛空挺の上から日の出を拝みテンションが上がった田舎者、ルディールとミーナが騒がしくしてその日が始まり、朝食を取りアコットの遊び相手をしていてしばらくするとアナウンスが流れた。
「まもなく王都に到着いたします。着陸の際に少し揺れますので、各自の部屋で待機をお願いします」
そのアナウンスを聞きルディールとミーナはセニア達に別れをいい部屋に戻った。
「知らない所と言うのは心が躍るのう!」
「うん!ほんと楽しみだね!」
少しずつ高度が下がっていき、雲を抜けると窓から王都の町並みが見えて、二人のテンションはさらに上がり、飛空挺が大きな塔の横に付き停止した。
その塔から階段がかかり、乗客はゆっくりと降りていった。ロビーの様な所にでるとセニア達が待っていたが、絶対にめんどくさい事になりそうだったルディールはミーナの手を掴み、インビシブルと言う魔法を発動させ姿を消した。
「ではセニアとアコットよ、ここでお別れじゃ~。また機会があれば会おう」
「……ルディールさんどこから話してますか?父は中央都市でいませんが、母は王都にいるので昨日のお礼を含めて実家にご案内しようと思っていますが…」
「るーちゃん!いかないの?」
「うむ、いかないのじゃ!アコットよ魔法を使えれば、この様な事もできるので頑張るのじゃぞ。では、おさらば!」
「セニア様、アコット様、またお会いしましょー。ルーちゃん引っ張らないで!」
二人の姿を見ぬまま別れたセニアだったが、その顔は笑っていた。
「セニア様、よろしいので?ご命令とあらば追いますが?」
「いいえ、そのような事をすれば私が怒りますよ」
「お姉様、いつもおこってないですか?」
「……怒ってません。アコット、ルディールさんの様な事を言うのはやめてください」
そのようなやり取りをしながらルディール達の声のした方向に頭を下げて、セニア達も歩き始めた。
それから姿を消していたルディール達は発着場から外に出て人目の付かない所で魔法を解除した。
「さすが侯爵家の護衛じゃな、姿を消したぐらいでは眼で追えるか」
「え?あのメイドさん達って護衛だったんだ……姿を消す魔法だけでも凄いのに、位置が分かってたんだ…いつもの事だけど行かなくてよかったの?」
「まぁ姿を消すだけじゃしな、それに明日ならまだしも、今日はホテルの予約してあるからのう。そっちの方が楽しみじゃ!」
「そうだよね、侯爵家に泊まらせてもらうよりホテルの方が気が楽だもんね」
「そういう事じゃ、王都を見て回っても良いが、先にホテルに行っておくか?」
「暗くなってからだと、迷子になるかもしれないから先にいこうか」
二人は目的のホテル竜の顎に向かって歩き出した、ルディールとミーナも王都の事は全く分からなかったが、そのホテルは有名だったようで、すぐに見つかりミーナが感想を述べた。
「ルーちゃん、場所、間違ってない?入り口からすでに私が居ることがおこがましいレベルなんだけど?」
「間違いかもしれぬから、とりあえずわらわが受付で確認しておるからお主はここで待っておれ」
ルディールはミーナに外で待ってもらい受付にやって来た。
「すまぬが、ここが竜の顎というホテルであっておるか?」
「はい、そうですよ。ご予約のお客様でしょうか?」
「イオード商会からルディール・ル・オントと言う名で予約が入っておると思うがどうじゃ?」
「少々お待ちください」
そういって半透明の石版の様な板を出し受付嬢が魔力を流すと、薄く光り文字が流れていき目的の名前があったようで、そこで点滅してとまった。
「確認できました、当ホテルへようこそ、オント様。二名様で一泊ですね。先にお支払いになりますが、よろしいでしょうか?」
「うむ、一番いい部屋を頼む」
先に黒硬貨5枚を支払って、外で待つミーナを呼びにいった。
「ミーナよ、ここであっておったぞ」
「えっ本当に?いつも出して貰ってるから、今日は私がホテル代だそうと思ってたんだけど、あまり高いとだせないよ?」
「今回は先払いだったから払っておいたから、明日は別の所で任せたぞ」
わかったよ~と返事をして、ルディールとミーナはまた受付にいき、ホテルマンに案内され目的の部屋に向かった。
「……あの?ルーちゃん」
「なんじゃい、夕食には早いぞ」
と話しているとホテルマンが夕食の時間を丁寧に教えてくれた。
「らしいぞ。ミーナよ美味しそうな物が食べられるぞ」
「そうじゃなくて!たまにすれ違う人達がなにかこう……輝いてるんだけど!絶対に凄いお金持ちとか有名人さんじゃないの?」
「そういう人を見ても、お主は誰か分からぬじゃろ?」
「私、村娘だし……」
「本当に有名と言うのは自分の中で関心がない事で名前を知っておれば有名なんじゃぞ、わらわは政治などに興味は無いが国王陛下の名前は知っておるからのう」
「それは一般常識なんじゃ……」
大理石に少し似た薄く光る廊下を抜け、目的の部屋に着くとその扉は門の様に大きく重厚な作りになっていた。
「こちらがお部屋になります。お出かけの際はフロントに声をかけて頂ければ夕食等の時間が合わせられますのでごゆっくりお過ごし下さい。それと冷蔵庫の飲み物はお好きにお楽しみください」
ホテルマンに礼をいい重厚な扉を開けると、部屋に入る前から広そうな気配があり、奥へ入って行くとリビングルームがあり価値の分からない絵とかが飾ってありかなり広かった。
「ミーナよ!これは広いぞ!このソファーとか机とかいくらするんじゃろな!」
「広い!広すぎる!他の部屋いれたら私の家より広いよ!…ルーちゃん、ありがとうなんだけど、いくらしたの?」
「それを聞いてお主がちゃんと楽しめるなら答えてやるが、気を遣って楽しめそうにないなら聞かぬ方がよいぞ」
それでも聞いてお礼をちゃんと言いたいと言って、ルディールから一泊分の値段を聞くと、ミーナは天蓋の付いたお姫様が寝るようなベッドに倒れ込んだ
「ちなみにとどめを刺すなら、お主がオークションで美味しい物を食べたいといいおったから入学祝いに一番いい所を紹介してもらったんじゃが、すばらしいのうトイレとか全部で四つあるのじゃ」
その言葉を聞きがばっとミーナは立ち上がりルディールにお礼をいい、またベッドに倒れ込みうめき声をあげ、余計なことを言った自分をかなり後悔した
「いや、あ~嬉しいんだけど、入学祝いでここまでして貰って…あ~」
足をバタバタさせながらベッドの上で、のたうち回るミーナを気にせず、黒塗りの高級そうな冷蔵庫を開けジュースを取り出しミーナの分も入れて飲み始めた
(やはりこの世界の技術力は前の世界と比べていうほど遜色はないのう、劣る部分もあるがこの冷蔵庫もそうじゃが、魔石で冷やしておるから電気とかそういうのを引く配線が必要ないんじゃな)
「ほれ、ミーナよいつまで後悔しておる。楽しまぬともったいないぞ」
「だめだ!私がウダウダやってると、ルーちゃんが気を遣って他の宿に行きそうだ…ルーちゃん改めてありがとう」
「どういたしましてじゃな」
「外で王都を満喫しようと思ったけど、今日はこのホテルを私は満喫する!」
そう拳を掲げ立ち直ったミーナが宣言した。
「うむ、その立ち直りの早さはお主の良い所じゃ。中に色々あると言うておったしのう、それとお主も学校に行くのなら装備も整えんとだめじゃしな」
「装備?そういうのは明日、王都の武器屋さんや防具屋さんで買おうと思うんだけど、先にいくの?」
「いや、買うのは後じゃな、まずはある物で整えるのじゃ」
「制服ぐらいしか持ってないよ?」
「その辺は後のお楽しみじゃ、というか先に全部の部屋をチェックして見ぬか?他の部屋もまだまだあるぞ」
それから二人でかなり広い部屋の中を見て回った。お風呂が三カ所あり、一番良い部屋の窓からは城が見えていた。
「おお!ミーナよここから城が見えるぞ!」
「うわ、お城だね…流石にあそこには行く事は無いと思うけどね」
とミーナが言うと、ルディールが無いと思っていても知らない世界に飛ばされる事もあるから、案外あるかもじゃと言っていた。
「何でか分からないけど…ルーちゃんが言うと妙な説得力があるね」
一息ついてからミーナを制服に着替えさせ魔法学校等で使う装備について話し合った。
「どうかな制服、似合ってる?」
「うむ、かわいいぞ。わらわが男ならプロポーズするぞ」
「いきなり結婚を申し込むの!?」
その制服は白を基調とし背中の腰の辺りにはリボンがあり、可愛らしいが纏まったデザインだった。
基本はその制服じゃから、アクセサリー系で纏めた方がよいのうと言いながらアイテムバッグを漁り、前に森山賊を捕えた時に売らずにおいておいたマジックアイテムを数点とりだした。
「こういう風になりたいとか、こう戦いたいとかリクエストはあったりするのか?」
「えっ特にないけど、ルーちゃんが私の魔法の先生だから似せた方がいいのかな?でもルーちゃんって魔法使うより蹴ってるよね?」
「……それはわらわの憧れたお人達が蹴りの達人じゃったからのう。そうじゃな、指輪系の武器もあるし、主力の武器はわらわと同じで指輪でええじゃろ。デメリットもあるがメリットは両手を使えることじゃな、近づかれたら簡単にグーパンできるしのう」
「えっ?そんな理由でルーちゃんって杖とか持ってないの?」
「持ってもいいんじゃが、爪伸ばして攻撃するとき邪魔じゃしな。杖や本の方が魔力を上げやすかったり制御しやすかったりするのう。その辺りは追々じゃな」
二人で話し合いミーナの現在の戦い方や魔法の使い方に合わせ装備を整えた。
「わらわの様に特化装備では無いが、前に鑑定してもらった通りならその装備でバランス良く何でも出来ると思うぞ」
「ここまでして貰ってごめんなさいなんだけど、学校行くのに冒険者さんが使いそうな装備っているのかな?」
「制服も魔法防御系の装備っぽいしのう、戦闘訓練とか魔法演習とかあるのではないか?その辺りは、わらわには分からぬがな」
「そういえば、魔法学校って恐ろしい所って前に教えてくれたね……」
「後、これは餞別じゃ」
アイテムバッグの中から、ハイポーションを三本ほど出しミーナに渡した
「これってハイポーションだよね?」
「うむ、そうじゃなわらわが国で使っていた奴じゃ、使わなかったら卒業した後に返してくれれば良いが、たびたびやっかい事に巻き込まれる貴族もおるからのう。もしもの時の為に持っておけ」
「えっと……その貴族ってセニアさんの事?」
「そういう事じゃ、お主はセニアの事はどう思っておるのじゃ?クラスはどうなるかは分からぬが、少しは世話になると思うぞ」
「う~ん……自分で言うのも厚かましいけど友達かな?貴族様だけど話もしやすいし、人前とかは流石に様付けで呼んでるけど、他の人がいないとさん付けで呼んでるから……う~ん、少しルーちゃんに似てるかな?」
「よし、今度セニアに会ったら、ミーナがルディールに似てめんどくさい奴だと言っておったと言ってやろう!」
「そういう意味じゃないから!止めて!」
「それは置いといて、そう思うなら学校に行ったら一緒におると良いわい。セニアはきっとボッチじゃからな」
「……ルーちゃん、その内本気で怒られるよ」
ホテルマンが呼びに来るまで、装備や魔法の事についてミーナに教えたりして、夕食に向かったが、ミーナは緊張で味が分からないまま食べ終えた。