朝起きたら知らない世界でマイキャラでした 第23話 空の旅

「アコット!勝手に部屋から出てはいけないと言って…いるでしょう?」

 セニアは妹の隣にいる二人の人物の姿におどろいた。

「こういう時ってあれじゃな?メイドさんもおるから、余所行き用の方がええんじゃろうか?」

「えっ?余所行き用ってなに?」

 ルディールはミーナに相談してから、セニアに挨拶をした。

「ご無沙汰していますセニア様。お体の調子はいかがですか?」

「あ~それが余所行き用なんだね…セニア様、お久しぶりです」

「会えて嬉しいのですが、ルディールさんに敬語で話されると馬鹿にされてる気がするのは、気のせいでしょうか?」

「アコットよ、お主の姉があのような事を言ってわらわをいじめるぞ」

「お姉様、さいてー!」

 それから、四人とメイドさん数人でデッキの上にある、オープンカフェにいき再会を喜び? あった。

「公共の場では余所行きモードで話した方がええんじゃろか?」

「いえ、その話し方で大丈夫ですよ…」

「メイドさんからお主のおやっさんに、チクられて断頭台とかに運ばれるんじゃろな…」

「るーちゃん、だんとうだいって?」

「お主の姉が得意なヤツじゃな」

「おーそうなんだ!」

「ルディールさんが私をどう見てるかが良くわかりました…」

「セニア様、このお二方はどちら様で?」

 セニアやアコットの世話で来ているメイドがルディール達について尋ねて来たので、以前に山賊に捕らわれていた時に、リベット村の村長さんと共に助けて頂いた方達だと説明すると、メイド達が 、そうでしたかと呟きルディール達に頭を下げ礼を言った。

「それで、ルディールさんとミーナさんはどうして飛空挺にのっているんですか?」

 そうセニアに聞かれたので、ミーナがもうすぐ魔法学校の入学なので王都に向かっている所だと答えた。

 セニアも同じ理由で、王都の実家に戻ってから魔法学校の入学式に参加するのだと教えてくれた。

 その話を聞いてアコットがルディールに学校は楽しいのかと聞いてきた。

「そればっかりは行ってみんとわからんのう。わらわもセニア達と会うまでは貴族なんぞ、ろくな奴はおらんと思っておったからのう、人の意見は参考には出来るが、あてにするのは違うからのう」

「じゃあ、学校っていかなくていい?勉強したくない」

「いや、良くも悪くもあれだけの人が集まるというのはそれだけで良い勉強になるぞ、持論じゃが自分というのは他人を通してしか見えんからのう」

「むずかしくてよくわかんない」

ミーナとセニアがいい事いってるのか悪いこといってるのか、イマイチ分からないと嘆いていた。

「そういえば、クラス分けなどはどうやるんじゃ?学園長に裏で金払って良いクラスとかにするのかのう?」

「…ルディールさんは貴族がお嫌いですか?そんな事はないですよ。入学式が終わってから、運動場のような広い所で魔法を使って魔力の強さでEDCBAのクラスに分かれると知り合いの公爵の先輩に聞きました」

「なるほどのう、なにかこう師匠の顔に泥を塗るのは許さん!的なのもおりそうじゃのう」

「そうですね、私にも魔法を教えて頂いてる冒険者の先生がおられるのですが、不甲斐ないと泥を塗るようで緊張しています」

「へぇ~、私はEクラス決定だと思うからその辺は、緊張してないから気持ち楽ですね」

「ほう?師匠を目の前にしてよく、そんな事が言えるのう?」

「えっ、ルーちゃんって私の師匠だったの!?……ごめん、よく考えなくても魔法を教えて貰ってるのってルーちゃんだった」

「今更感がパないのう……」

 しばらくデッキの上のカフェで世間話や情報交換を楽しんでいると、飛空挺の警報がけたたましく鳴り響いた。

「大型の飛行生物が近づいています、デッキの上にいる方々は直ちに船内にお入りください」

 警報の後すぐ、飛空挺と同じぐらいの二匹の大型の鳥が現れすぐ近くで戦闘をはじめた。

 その戦闘は高速で、デッキにいたルディール達が巻き込まれ、船内に戻るのが少し遅れたアコットが空へ投げ出された。

「アコット!」

 姉のセニアがそう叫ぶがスローモンションの様にゆっくりとアコットが空へと流されていった。

 お主達、姉妹はしょっちゅう命の危機にさらされておるのう、お祓いに行った方が良いぞっと、声が聞こえたと思ったら、飛ばされたアコットをルディールが背中に翼を生やし空で捕まえ抱き抱えた。

「わ!るーちゃんすごい!」

「わらわが凄いというより魔法が凄いんじゃろ、アコットよしっかりつかんでおれよ」

「うん!」

 そういってアコットを抱えたまま船に戻るかと思いきや、二匹の大型の鳥に近づき、アコットを巻き込んだ方の鳥のくちばしを横から蹴飛ばした。

 その不意打ちのような蹴りで、軽く脳震盪を起こし雲の中へ落ちていった、そしてもう一羽に近づき蹴ろうとした所で気がついた。

「ん?お主、もしかして前に森で見た鳥か?」

 ルディールの姿を見て一目散に逃げようとしたが、回り込まれて脅された。

「答えぬなら、このまま蹴るぞ?」

 ぎょえーーー!となんとも言えない鳴き方をして、頭を縦に何度も振った。

「やはりそうか、お主の都合もあるじゃろうから特に何もせぬが、ああいうのが近くに飛んでいる時は戦闘せぬ方がええぞ、誰が乗っているかも分からぬからな」

 少し遠くなった飛空挺を指さして、この世界にきて襲われた大型の鳥にそう教えて、特に何もせずに別れをいってから船に向かって飛んだ。

「るーちゃんって鳥とはなせるの?私も飛んだり話せたりするかな?」

「さて、どうじゃろな?魔法という可能性の塊の様な物があるからのう、お主が魔法を好きなら可能性はあるじゃろな」

 それから飛ぶ速度を上げ飛空挺に追い付きデッキで待つミーナやセニア達の前に降り立った。

「アコット!」

 「昔は空を自由に飛びたいなっと思っておったが、このような高高度を飛ぶと思った以上に寒いのう」

 セニアに妹のアコットを渡すと泣きながら抱きついた。

「ルーちゃん、大丈夫だった?」

「強いていうなら、思った以上に寒かったぐらいじゃのう」

 とミーナと話していると、セニア達のメイドさんが暖かいコーヒーを入れてくれた。

「ルディールさん、山賊の時もですが、この度も妹を助けて頂いてありがとうございます」

「うむ、では困った時はセニアの権力で助けてくれればよいぞ」

「ルーちゃん、そこは気にするなでいいんじゃ……」

 少し冷えた体をコーヒーを飲んで温めていると、一人のメイドが話しかけてきた。

「アコット様を助けて頂いてありがとうございました。この高度を飛行される魔法使いはいないはずなのですが…どうやって飛ばれたのですか?」

「そうじゃな、知り合いの妹が落ちてわらわも、てんやわんやしておったからのう、火事場のクソ力で飛んだんじゃろう」

「…さすがに答えては頂けませんか」

「そういう事じゃ、あまり追及されると次は知らんぷりするぞ?」

「それは怖いですね…ですが本当にアコット様をありがとうございました」

 メイド達は得体の知れないルディールを少し警戒していたが、セニアやアコットを見る眼差しは優しかった。

 それから少し時間が経ちセニア達に夕食に誘われ、皆で楽しく夕食を取った後で、ルディールは少し一人でデッキに上がって昼間の事を少し考えていた。

(ふむ、この高度を飛べる魔法使いはおらんのじゃな、少しミスったがどうしようもないのう。顔見知りじゃし、見捨てる事などできるわけも無いしのう…侯爵の娘二人なのに護衛もおらぬ所を見ると、メイド達が世話と護衛なんじゃろな。で、今日の事がメイドからセニアのおやっさんに話がいくという感じじゃな…めんどくさっ!)

 それから考える事を止めて背中に大きな翼を生やし、ルディールは月夜に空に向かって飛び立った。

「せっかく魔法があるんじゃしな、楽しまねばのう」

 そう言って昼間の失敗も踏まえ体が冷えない様に障壁を張り、上へ下へと雲の中に入ったりとしばらくゆっくりと優雅に飛び、途中から調子にのって最高速にチャレンジして音の壁にぶつかってダメージを受けた。

「ぐっ、顔面を強打したのじゃ!」

 デッキに戻ってくると、そこにはセニアが居てルディールを待っているようだった。

「何処に行ったのかと探しましたよ。鼻が赤いですが、大丈夫ですか?」

「スピードの向こう側を見たくてのう」

「ルディールさんは、宮廷魔道士にも引けを取らない魔法使いなのに、かなり変な事いいますよね…」

「褒めても何もでぬぞ?」

 それから少しセニアとたわいもない話をして、少し気になっていた事を聞いた。

「そういえば、お主もアコットも山賊の事はどうなっておる?掘り返すようで悪いが」

「いえ、大丈夫ですよ。アコットですが最初の内は夜寝ている時に少し思い出したりしていましたが、今では山賊に襲撃された辺りの記憶がキレイに抜けているようです。私ももうほとんど覚えていなくて、顔も思い出せません…ルディールさんから頂いた置物のおかげですか?」

「さて、どうじゃろな?本当に夢じゃったのかもしれぬぞ?」

「そうですか…最後は返した方がいいですか?」

「ん?お主にやった物じゃ、持っておいたらええぞ。学校に通うんじゃろ?好きな男でも出来て振られたら、あのアイテムで忘れさせてもらえ」

「ふふっ、その時はルディールさんに慰めてもらいますよ」

「わらわが男じゃったらモテモテじゃな」

「競争率が高そうですね、それと今日も本当にアコットをありがとうございました。私からは何も出来ることはないですが、いずれこの恩は返そうと思います」

「そうじゃな、恩を感じておると言うならすまぬが、学校に通い出したら少しミーナを気にかけてやってくれるとありがたいのう」

「ええっ、ミーナさんがどう思っているかは分かりませんが私は友達と思っていますから」

「真面目な話、貴族同士の派閥みたいなのはあるんじゃろ?」

「はい、確実にありますね。第一王女様もご入学ですし、生徒会長は大公爵の娘ですから」

「なんじゃい。その大公爵とは、超兄貴の親戚みたいな感じか?」

「雰囲気で分かりますが、絶対に馬鹿にしてますよね?私の前ではいいですが他では本当にやめてくださいね。大公爵とはローレット王国の公爵家を纏めている公爵をそう呼んでいます」

「なるほどのう、そういうめんどくさいのに絡まれそうなら少し手助けしてやってくれ、お主と違って平民じゃしのう」

「大丈夫ですよ、何かありそうなら私の取り巻きという感じで話しておきます。それとルディールさんとミーナさんはどの様なご関係で?」

「う~む。お主でいう所のアコットのようなもんじゃな」

「そうですか、できの良い自慢の妹ですね」

 そして二人で笑い合い、二人の妹が待つ部屋に戻ってその日は過ぎて行った。

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