朝起きたら知らない世界でマイキャラでした 第1話 新しい運命に祝福を

 角の生えた少女の耳に鳥たちのさえずりや森のざわめきが届く。

「えっえっ……ここどこ?」

 時は少し遡る……

「……あと四時間ほどで、サービス終了か~」

 肩まであるうすい金色の髪に山ヤギを思わせる大きな角の持ち主、ルディール・ル・オントがそっと呟き、その呟きに答えるように声が届く。

「ギルマスお疲れ!皆来るって!」

 緋色の瞳が大きく見開かれ驚きながら返事をする。

「まじで! 返事返ってきてないけど!」

 エルフの少女は笑いながら答える。

「皆、ギルマスを驚かせるために、黙っていようって計画たててた」

「ミーナさん先にばらしてますやん……」

「うん!大丈夫スクショ撮っといた!」

「お巡りさん!盗撮です!」

「ぷっあはは!何それ!」

「まぁミーナもお疲れ様、ここ座りなよ」

「よいしょっと……もうすぐ終わりだね~」

「そうだね……」

VRオンラインオープンワールドゲーム

ワールドリング (十の指輪と封印)

 ゲームとしてはよくあるオープンワールドのゲームだが、キャラクターメイキングの幅も広くスキルや魔法の取り方一つ違うだけでステータスが大きく変わるのが特徴のゲームだ。自身のキャラクターを作った時にある程度のランダム要素が加わる為、他のプレイヤーと同じキャラクターを作るのがほぼ無理と言われたゲームである。

 できる事の幅も多くゲーム自体に謎解き要素も多々あり一人でも多人数でも楽しめるように作られて約七年続いたゲームだったのだが、どこぞの国のせいで世界に人為的なウィルスが蔓延し世界的な不況に陥り、運営会社もゲーム開発に資金を回せなくなりサービス終了に陥った。

「ルディールさんおひさです」

「ギルマスおっつ~」

 懐かしい声と共に一人、一人と人が集まってくる。懐かしい顔ぶれに泣きそうになりながらも声をだす。

「みんな!ひさしぶり!」

 その声を聞いて仲間たちは、あるものは驚き、あるものは心配しながら声をかける。

「おっ、お前ルディか?いつものアホみたいな話し方はどうしたんだ?」

 ぶふっ!っと音が聞こえたのでそちらの方向に目を向けると、このギルド【困ったら火力!】の副マスターのミーナが今にも笑い出しそうなのを我慢していた。

 何かを感じとったように、仲間達がルディールに優しく声をかける。

「ルディ、お前はこのギルドのマスターで俺たちの誇れるリーダーだ!久しぶりに会えたわけだがその気持ちは変らない。困ってる事があったら遠慮なく言うんだぞ!」

 苦楽を共にした多数の視線がこちらを見つめてくる。

「皆……良い事言ってる風に聞こえるけど!顔!すっごい笑ってるから!

し・か・も!いま!アホって言ったからな!」

 逃げられないと感じたルディールはしぶしぶ語りだす。

「はぁ……少し前の話なんだけど会社で……」

 ギルドマスターの話の邪魔をしてはいけないと、ギルドメンバー30数名が一切の音を立てずに静かになる。

「お昼の休憩時間に昼寝したら、急な仕事が入ったと上司が書類もって来たんだ……」

 話している本人はどんどん暗くなっていくが、聞いてる方は対象にどんどん明るくなっていく。

「起こされて寝ぼけてて……」

「うむ!よいぞ!我!ルディール・ル・オントに任せておくがよいぞ!って叫びながら立ち上がってしまっただけの話だよ……」

 一瞬か数時間かわからない時間が流れ、ぶふっ!とついさっき聞いた音が聞こえると、静かな時間が終わり大きな笑い声が飛びあう。

「ぶははは!さすがギルマスだな!」

 うんうんと大きく周りはうなずく。

「笑い事だけど!笑い事じゃないからな!周りにどれだけ人いたと!しかも最近……あそこの支部のルディールさんとこに仕事もっていっといて~。とか陰で言われてるんだよ!だからもうあの話し方はしない!」

 そう言いながら、見た目の美しい少女は草の上をゴロゴロと声にならない声を出しながら転がる。

「ギルマス」

 いまだに立ち直れないルディールにやさしい声が届く。

「うん?どうした?」

「はい、友人と少しケンカして気まずくて、あさって学校に行きたくないと思っていたんですが、ギルマスの話を聞いたら学校に行く元気が出てきました。ぷっ……ありがとうございます」

 ルディールは優しい表情で、魔法使いの恰好をしたギルドメンバーに。

「ギルメンの力になれて何よりだよ……って言うと思ったか!うぁぁぁぁ!もう会社行きたくねぇ~!どこか遠くの知らない世界へ行きたい……」

「ゲームサービス終了時までログインしてたら異世界に行けるらしいですよ?」

「まじっ!ワンチャンあるな!」

「ありませんよ」

 そう言って久しぶりの仲間たちと日々の現状を語り合ったりして時間が過ぎていく。

 ルディールの手に装備されている指輪が少し光ったような気がした。

「……う~ん」

「ルーちゃんどうしたの?」

サービス開始時に知り合って長い間一緒に遊んでいる副マスターのミーナがルディールの横に並ぶ。

「無理だけど、指輪全部集めたかったな~っと思ってね」

「そだね~。この広いゲームの世界に十個しかない王の指輪シリーズだから、二つも持ってるうちのギルドは万々歳かな……そうだ!」

 ミーナが何か閃いたようにパンっと手を叩き、ルディールに提案する。

「ルーちゃん全チャで声かけてみたら!もうあんまり人居ないから、もしかしたら集まるかも!」

「はい?敵対ギルドとかいるんですけど!」

「大丈夫だって!皆このゲームが好きで本気でやってただけだから。最後だし大丈夫だって!」

 その提案を聞いていたほかのメンバー達も、賛同して声をだす。

「それ、いいな!マスターやれやれ~。攻撃されたらされたで、それもいい思い出だ」

「どうなっても知りませんからね!」

 メンバーに煽られて、しぶしぶ全プレイヤーに行き渡るようにメッセージを書き込む。

「此方はギルド【困ったら火力!】のギルドマスターのルディールです。

サービス終了前に全ての指輪を集めてみたいと考えています。

サーバーダウン前で皆さんもお忙しいと思いますが、よければ協力お願いします。所在地は王都の下の草原にいます。此方の王の指輪の所有数は二個になります」

「こんな感じかな?」

「ルーちゃんお疲れ~返事くるといいね」

するとそこはやくも返事が表示される。

「此方はギルド【ママさんヴァルキリー】の副マスター。フリンヒルダです、此方も二つ持っているので仲間数人で其方に向います」

「いきなり最強のギルドの一角から返事来やがった……」

 と、メッセージを見ていたメンバー達からも驚きの声があがり、さらに返事が届く。

「こっちは【ロリータキングダム】のマスター。 ミサポンにゃん、こっちは一個だけだけどお姉ちゃんが欲しがってるから持って行ってあげるにゃん」

「ありがたいけど歩くマップ兵器が来るんだ……」

 ギルド【困ったら火力!】がそこそこ力をつけてきたときに、戦闘に巻き込まれて蒸発させられたのがロリータキングダムのミサポンなので、それを覚えてるメンバー達は少し難しい顔をしていた。

「此方は【内密結社 ウニのトゲ】です。こちらもそちらに向いますが、ご内密にお願いします」

 波が広がるように返事が返ってくる。そして最後に敵対しているギルドから返事が来た。

「此方、ギルド【男前の胸板】のマスターだ。いつものアホみたいな話し方はどうした?やり直せ。それができたら持って行ってやる」

 そのチャットログを見て、ギルドメンバーが一斉に噴き出す。

「……ルディールさん、仕事のリテイクがきてますよ~」

 と、ギルドメンバーが肩を震わせながら視線をむける。

 お前ら後で覚えてろよと思いながらも、ルディールは気を取り直して、いつもゲームで使っていた口調で返事を返す。

「ふむ、此方の都合も気にせず、その言いよう実に面白いのう。じゃが今夜は特別じゃ、わらわの為にその指輪もって来てはくれんかのぅ?」

 そのチャットログを見て、ここに集まったプレイヤーの肩が震えだす。

 嫌な予感がしてルディールがミーナの顔を見ると、花が咲いたような笑顔で、

「面白い事は皆で共有しないとね♪」

「そうじゃな! ……とか言うかぁぁぁ!」

 ルディールの絶叫が響き渡る中、指輪が集まっていく。

「ひい、ふう、みい……おお!九つもある!」

「一つでも変わった能力ついてたり、ステータスの上り方半端ないからね~。ルーちゃん代表して全部装備させてもらったら?」

「皆さん、今日はありがとうございます!一度試しに装備させてもらいますね!」

 ミーナから提案があり、集まった方々にお礼を言いながらルディールがその細い指に指輪をはめていき、九つ全てをはめた時にワールドチャットにメッセージが流れる。

 プレイヤー【ルディール・ル・オント】が九つの指輪を集めました。十個目の指輪【王の鎮魂】を入手しました。とワールドチャットにテキストが流れる。

「おおおおお!」

 周りのプレイヤー達が大きくざわめく。

「十個目でた!ちょっと装備してみる!」

 ルディールは驚きながらも最後の指輪を指にはめる。するとルディールのチャット欄にメッセージが流れる。

 おめでとうございます。貴方は全ての指輪を集めました。

 全ての指輪を一つにしますか?

 注意! 指輪を合成してもすべての指輪の能力は引き継ぎます。

「へぇ~」

「ルーちゃんどうしたの?」

 ルディールは今流れたテキストを張り付けて、周りのプレイヤー達に説明する。

「では皆さん一つにしますね」

 ここでムービー入るんだ……コレ作った人最後にみてもらえてよかったな~などとプレイヤー達が思い思いの感想を言っている間に指輪が一つになり、指輪がルディールに装備される。

 真なる王の指輪を装備しました。

「ええと、ステータスステータス……はい?」

 ステータスを確認するとその数値の上昇やスキルの変化に大きく驚く。

「なんで、こんなにステ上がってんだ?このゲームのボスとかより数値だけなら強いんだけど……ん?」

 指輪を装備した本人も驚いていたが、何かあったのか周りのプレイヤー達も困惑していた。

「ルーちゃん、ええとね……」

 困惑しながらも、ミーナがテキストをルディールに解るように張り付けてくれる。

 緊急クエスト発動!

 ラストエネミー!

 真なる指輪の王ルディール・ル・オントが出現しました!

 出現位置は王都の下の大草原付近です。プレイヤーの方々は討伐をお願いします!

 「ぶふっ!それでこんなにステータス上がってるんだ……」

 「どうする?」

 相方やプレイヤーが楽しそうに指輪の王を見つめる。

 「じゃあ皆さん、後二時間ぐらいで終わりですので、装備揃えてから戦いますか?」

 おおっ! と勢いよく掛け声が上がり、集まったプレイヤー達は一度散り散りになっていく。

 「この位置でステータスやらスキルの確認しているので、あと二十分ぐらいたったら戦闘が開始します。気になったプレイヤーの方々は、遊びに来ていただいておkですよ」

 と、ルディールが全チャに書き込みをし、最後のお祭りに向けてステータスの確認を入れている。

 「ルーちゃんよかったね!」

 「ミーナのおかげだな~ありがとう!」

 二十分後……

「じゃあ皆さん!いきますよ!」

「あっ!ルディールさん!今、配信してるんですけど、ラスボスっぽくやって、要望が来てますよ!」

「まじで!……」

 ゴホンと一息吐いて、

「よくこれだけ集まったものじゃな、お互いに魔王と勇者だ。余計な言葉はいらぬじゃろう。その命いらぬのならばかかって来るがよい!」

 その言葉が開戦の合図となり、ゲームに残っていたほぼ全てのプレイヤーが駆けだしていく!

「さてと、とりあえずギルメンをロックオンして、こっちの魔力や体力が満タンの内に……相手の体が温まるまでに……」

 他のプレイヤーには目もくれず、苦楽を共にした仲間達に向けるものではない殺意を言葉に乗せてルディールが叫ぶ!

「先ほどからの恨みじゃーーーー!黙ってしねぇぇぇ!」

 指輪の力によって強化された拠点破壊型魔法が、ギルメンや巻き込まれたプレイヤー達を襲う。

 サービス終了五分前……

 戦闘も終わり、プレイヤー達は思い思いの言葉を話す。

「はぁはぁ……」

「きっつーーー!なんだよあの破壊力……」

「にゃぁぁぁ!あと一日!いや半日くれたら倒せてたにゃん!」

「人の多さが裏目に出ましたね。人数に比例してダメージが上がる魔法を持っていたとは……」

 アイテムも気力もほぼすべて使い切り、何とかルディールは生き残っていた。

「ボスモンスターの気持ちがよくわかった……。倒しても倒しても復活してくるし……疲れた……あっ、そうだ!」

「皆さーん!最後に記念撮影しましょー!」

 そう言葉をかけると、ルディールの周りに人が集まっていく。

「はい!チーズ!」

「お疲れ様でしたー!」

「お疲れ様でしたー!」

 大きな拍手と共に、七年続いたゲームは幕を降ろした。

「あー疲れたけど面白かったな~。明日が休みでよかったゆっくり寝よう……」

 そういいながらルディールのプレイヤーは、布団に入り心地の良い眠気に身を任せた。

「……うよ……おうよ」

 夢か現実かわからないまどろみの中で聞こえてきた声に、寝ぼけながら応えた。

「……ふぁい」

「新たな王よ、我らの呪縛を解いてくれてありがとう。これで我らは逝ける」

「ん? ……こちらこそ面白いゲームをありがとう……」

 変な夢見てるな~と思いながら声の方を見る。するとそこには見たことのあるキャラクター達が立っていた。

「指輪を持ってた五体のボス達か~」

「君達から見ればゲームという世界だったが、私達には現実の世界だよ」

「新しき指輪の王よ。礼だ、何か望みはあるか?」

先ほどのゲームの余韻が残っているので、言葉がすぐに出てくる。

「じゃあ最後に一緒に遊んでくれたメンバー達や、プレイヤーの皆さんを幸せにしてあげてzzz」

「それぐらいお安い御用だ。王自身の望みはあるか?」

「えっ?特にないけど……」

と言った所で、ギルドメンバーに話した身の毛もよだつ恥ずかしい話を思い出す。

「ごめんあった……最近流行りの異世界に行ってみたい!」

「わかった、新しき王よ……その名を」

(おお!さすが夢!いつの間にかルディールの姿になってるよ、このキャラになるのも最後か……)

「わらわの名は!ルディール!ルディール・ル・オントじゃ!」

どうしよう私がかっこいい! などと思っているルディールを光が包み込み、優しい声が聞こえる。

「真なる指輪の王ルディールの新しき運命に指輪の加護がありますように」

・・・・・・

・・・・

・・・

「んっ……変な夢見たような気がする」

「?声が変……目覚まし目覚まし」

手をのばして何かを掴む

「ギャウ!」

「うへっ!なっなになに!?とっとかげ?……なんで部屋の中にトカゲがいるんだよ」

 と、文句を言いながらトカゲを軽く投げて体を起こすと、角の生えた少女の耳に鳥たちのさえずりや、森のざわめきが届く。

「えっえっ……ここどこ?」

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